第Ⅱ部 原子力開発利用の動向
第5章 国際関係活動

3 核拡散防止休制強化に関する国際的協議

 核不拡散強化を目的として,各国がそれぞれ自国の政策を明らかにするほか,それに並行して,幾つかの多国間国際協議が,次のように行われている。

(1)国際核燃料サイクル評価(ⅠNFCE)
 昭和52年10月にワシントンで設立総会が開かれた国際核燃料サイクル評価(INFCE)は,約2年間の予定で,以下の8作業部会において作業が進められることになつた。
① 第1作業部会(核燃料と重水の入手可能性)
② 第2作業部会(濃縮の入手可能性)
③ 第3作業部会(技術,核燃料及び重水の長期供給と諸役務の保証)
④ 第4作業部会(再処理,プルトニウムの取扱い,リサイクル)
⑤ 第5作業部会(高速増殖炉)
⑥ 第6作業部会(使用済燃料の管理)
⑦ 第7作業部会(廃棄物処理処分)
⑧ 第8作業部会(新しい核燃料サイクル及び原子炉の概念)
 ⅠNFCE設立総会に先だち,原子力委員会は,昭和52年9月13日,ⅠNFCEに対する我が国としての適切な対応策の確立に資することを目的としたⅠNFCE対策協議会を開催することを決定した。また,その下部組織として以下八つの研究会を開催することとなつた。
① 資源研究会
② 濃縮研究会
③ 核燃料長期供給保証研究会
④ 再処理・プルトニウム研究会
⑤ 高速増殖炉研究会
⑥ 使用済燃料貯蔵研究会
⑦ 代替燃料サイクル研究会
⑧ 保障措置研究会
 更に,INFCE設立総会に臨むにあたり,上記協議会での検討を経て,原子力委員会は昭和52年10月14日次の主旨の我が国の基本方針を明らかにした。
① 核燃料サイクルの確立が我が国にとり必要である。
② 原子力平和利用と核拡散防止とは両立するとの考え方について,諸外国の理解と協調を求める。
③ 今後の我が国原子力政策の遂行に少なからぬ影響を及ぼすと考えられる本作業に,我が国の見解を反映させるために積極的に参加する。
 我が国は,英国と共にINFCEの中心的な課題である再処理プルトニウム利用を検討する第4作業部会の共同議長を務めている。昭和53年5月には,東京において,第4作業部会会合が開催され,22カ国3国際機関が参加した。
 現在まで,各作業部会とも数回会合を開きそれぞれの作業目的,方法,スケジュール,作業分担及び基本データ収集等の作業を終了し,経済性,環境・安全性,核拡散抵抗性の観点からの分析・評価作業に着手している。
 一方,各作業部会とは別に全体の調整を行う技術調整委員会(T.C.C)が設置されており,昭和53年6月に開催された第2回会合で,各作業部会の報告書の第一次ドラフトは昭和54年5月31日までに完成することが決定された。また,ⅠNFCEの最終総会については,各作業部会の作業の遅れ等のため,予定より遅れる見込みである。

(2)原子力平和利用先進国間会議(ロンドン協議)
 昭和50年4月以来,原子力資材及び技術の輸出政策に関して意見交換を行うため,当初,我が国のほか,米国,ソ連,英国,フランス,カナダ,西ドイツの7カ国により協議が開始されたが,後にイダリア,オランダ,ベルギー,スウェーデン,東ドイツ,チェコ,ポーランド,スイスを加えて協議が行われている。
 昭和51年2月,本件協議に基づき,各国の原子力資材輸出規制政策を相互に一方的に通報し合うことになり,我が国は輸出に際しては,輸出品が輸入国において核爆発装置に使用されないよう,国際原子力機関の保障措置が適用されるよう留意するといつた内容を通報した。
 昭和53年1月,同会議(よ,原子力資材,技術の輸出の共通条件とすべきガイドラインを公表した。

 ロンドン・ガイドライン(昭和53年1月11日 公表)
 イ.核爆発の禁止
 ロ.国際原子力機関の保障措置を輸入国の全原子力施設に適用
 ハ.核物質防護対策(P.P.)の実施
 ニ.濃縮・再処理・重水製造技術の移転規制
 ホ.20%以上の濃縮ウラン生産の規制
 へ.再移転の規制

 なお,我が国から外国への核原料物質,核燃料物質,原子炉等原子力関係資材の輸出は,知識集約産業としての原子力産業の育成,発展の見地から,それが盛んになることは好ましいことと考えられるが,我が国の原子力の研究,開発及び利用は,原子力基本法第2条により,平和の目的に限られており,昭和37年4月の原子力委員会決定では,我が国は,外国の原子力利用に関係する場合にもこの原子力基木法の精神を貫くべきであることを明らかにし,輸出に際しても,この方針で臨むこととしている。
 具体的には,この方針は輸出貿易管理令に基づく輸出承認に際して尊重されている。

(3)新らたな国際条約の動き
 核拡散をより効果的に防止するため,国際原子力機関により保障措置と,盗難の防止等に備える核物質防護を両者一体として強化整備することが必要との国際的認識から,国際原子力機関が中心となり,「核物質防護に関する国際条約」についての政府間会議が昭和52年以降開催されており,我が国も積極的に参加した。

(4)原子力発電と核燃料サイクルに関する国際会議(ザルツブルグ会議)
 本会議は,国際連合が,原子力平和利用に関し,昭和30年以来4回にわたつて開催してきたジーネーブ会議を継承し,今回は,国際原子力機関主催により,特に現在問題となつている原子力発電と核燃料サイクルにテーマを絞つて開催することとなつた。本会議は,昭和52年5月2日から13日までの間オーストリア国ザルツブルグにおいて開かれ,23国際機関,63カ国より1,200人,うち我が国から報道関係者を含め約100人が参加した。
 本会議の場において,米国エネルギー研究開発庁フライ長官代理は,「国際核燃料サイクル評価計画(ⅠNFCEP)」の提案を行い,他方,西ドイツを始め各国は,各々の原子力事情に応じて,核燃料再処理及び高速増殖炉開発の必要性を強調し,核燃料サイクルを確立するという我が国の政策が,国際的な多数意見であることが改めて確認された。


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