第Ⅱ部 原子力開発利用の動向
第4章 安全確保及び環境保全のための調査研究等

2 環境放射能調査

(1)核実験に関する放射能調査

①経緯及び平常時における放射能調査
 政府は,昭和36年10月,核実験に伴う放射性降下物の漸増に対処するため,内閣に放射能対策本部を設置し,その方針等に基づき,現在,科学技術庁を中心に関係各省庁,37都道府県等の協力のもとに,環境放射能水準に関する調査研究を実施している。
 この調査は,木来諸外国の核実験に由来する放射性降下物を対象としたものであるが,原子力施設所在府県で行う調査では,次第に原子力施設周辺も対象とするようになつてきていた。しかし,昭和49年度から電源開発促進対策特別会計により原子力発電所,使用済燃料再処理施設等の周辺において府県が行う放射線モニタリングに対し,放射線監視交付金が交付されることになつたので,国が一般会計の放射能調査委託費により都道府県に対して委託している調査から原子力発電所等を直接対象とするものを除くこととした。
 放射性降下物を対象とした調査は,平常時においても定期的に行われ,いわば,環境放射能調査全体の基盤をなすかたちで行われており,これに原子力施設周辺の調査,原子力軍艦寄港に伴う調査がかみ合わされて,総合的に環境中の放射能水準の監視把握が行われるようになつている。

②核実験時における放射能調査
 最近,核実験による我が国への放射能の影響がみられるのは中国の大気中核実験のみである。中国は昭和52年9月17日に第22回目(大気中)の核実験を行い,更に昭和53年3月15日に第23回目(大気中)の核実験を行つた。これらの核実験に関して,放射能対策本部は,幹事会を開催し,核実験時における調査体制をとつて調査を行つた。この調査は全国の高空浮遊じん,雨水落下じん,地表浮遊じん,牛乳等の放射能を測定又は分析するものであり,これらの一部について,平常値よりやや高い放射能が検出されたが,放射能対策本部が定める放射能対策暫定指標の第1段階(監視を強化する必要があるレベル)より低い値であつたため,行政上の措置をとる必要はなかつた。

③研究の状況
 適切な放射能対策を実施するため放射線医学総合研究所をはじめ,関係国立試験研究機関において,環境,食品,人体における放射性核種の挙動,汚染対策等について研究を行つている。また,昭和52年度より都道府県で測定された環境放射能に関する各種データの収集整理事業を(財)日本分析センターにおいて開始した。
 また,昭和34年以来,我が国の環境放射能調査及びその対策研究等の成果について関係国立試験研究機関,関係都道府県衛生研究所,関係民間機関等の参加を得て,毎年「放射能調査研究成果発表会」を開催してきたが,昭和52年度は,11月に第19回発表会を放射線医学総合研究所において開催した。

(2)原子力施設周辺の放射能調査研究

①原子力施設周辺の環境放射線モニタリング
 原子力発電所等の原子力施設周辺における環境モニタリングについては,周辺公衆の受ける線量が,線量限度を十分下回つていることを確認すること,環境における放射性物質の蓄積傾向を把握すること等を目的として原子炉設置者等が行うこととされており,具体的な監視は,内閣総理大臣の認可を受けて設置者が定める保安規定に基づいて実施している。

 国においては,科学技術庁が水戸原子力事務所及び福井県敦賀市所在の福井原子力連絡調整官事務所を通じ,放射能調査を実施した。
 一方,府県については,現在原子力施設が稼働又は建設に着手している各地区において,府県の関係機関が独自に又は府県及び設置者からなる協議会等を組織して,放射能調査の実施・調査結果の評価等を行つた。
 また,地元府県が行う放射線監視については,第72回国会で成立した電源開発促進対策特別会計法に基づき,昭和49年度より放射線監視交付金を交付してきている。
 このように原子力施設周辺の地域住民の健康と安全を確認するため,放射線モニタリングの実施体制が整備されてきたが,同時に放射線監視の結果を公正に評価する中央評価機構の必要性が指摘されており,原子力委員会は昭和49年12月24日に「環境放射線モニタリング中央評価専門部会」を設置した。
 同部会は,これまで再処理施設周辺に係る環境放射線モニダリング計画を策定する(昭和50年5月)とともに,地方自治体の行う原子力施設周辺の環境放射線モニタリング指針の検討を進めてきたが,昭和53年1月これを「環境放射線モニダリングに関する指針」として作成し,原子力委員会もこれを採択した。これは原子力施設敷地境界の外側において,主として地方公共団体が実施する環境放射線モニダリングの技術的水準の向上を図るとともに,その斉一化を図るため,環境放射線モニタリングの計画の立案,実施及び結果の評価について基本的方法を示したものである。
 また,昭和50年度より,電源開発促進対策特別会計により国及び府県の委託を受けた民間分析機関が分析,精度の向上を図るため相互に放射能分析を行い,その結果を比較する放射能分析確認調査が開始され,更に,昭和52年度からは府県のデータを一括して収集整理するデータ収集整理事業が(財)日本分析センターにおいて開始された。

②原子力施設周辺環境に関する調査研究
 原子力施設が周辺環境に対して与える影響の把握,その影響の軽減方法等に関する研究が,国立試験研究機関,都道府県衛生研究所等で行われた。
 水産庁東海区水産研究所は,昭和44年度から,「放射性元素蓄積の指標生物に関する研究」及び「原子力施設排水の分布拡散の調査研究」を福井県水産試験場の協力を得て実施してきた。
 また,放射線医学総合研究所においてほ,  「原子力施設周辺のレベル調査」を引き続き実施した。
 また,再処理施設の稼働に伴う放射性物質の放出が周辺環境に与える影響を把握するため,従来の環境における放射能水準等の基準的調査に加え厚生省国立衛生試験所においては,「環境試料中の微量放射性ヨウ素の分析法に関する研究」等,水産庁において「再処理施設排水の分布拡散に関する調査研究等,気象庁においては,「微風時拡散状況解析調査」等,また気象研究所においては,「大気中のクリプトン-85,トリチウムの挙動と蓄積に関する調査研究」海上保安庁においては,「再処理施設稼働に伴う周辺海域における放射能調査」をそれぞれ実施した。

(3)米国原子力軍艦の寄港に伴う放射能調査
 米国原子力軍艦の寄港に伴う放射能調査は,横須賀,佐世保,沖縄ホワイトビーチにおいて実施している。米国原子力軍艦の我が国への寄港は,昭和39年11月初めて原子力潜水艦が佐世保に寄港して以来,53年8月末までに通算149回(横須賀116回,佐世保21回,沖縄ホワイトピーチ12回)に達した。
 昭和52年度には,各寄港地において,定期調査を実施したほか,原子力軍艦の寄港に伴い,横須賀で7回,沖縄ホワイトビーチで1回の寄港時調査を行つたが,平常と異なる放射能は検出されなかつた。

(4)ソ連原子炉搭截衛生落下事故
 昭和53年1月,ソ連の原子炉搭載衛星(コスモス954号)が大気圏に再突入する可能性が強いとの連絡があり,同衛星の落下により我が国が影響を受けることもあり得ることを考慮し,専門家による放射能調査班を編成した。
 同衛星が,昭和53年1月24日カナダ北西部の大気圏に突入した時の影響は,結果的にはなかつたが,カナダ上空への再突入が判明した後,科学技術庁関係の研究所等を中心に放射能監視(全国11ケ所)を強化した。この体制は放射能対策本部の幹事会にも諮り継続してきたが,とくに平常値と変つた値が測定されていないので,昭和53年2月24日解除した。


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