第Ⅱ部 原子力開発利用の動向
第3章 安全の確保

2 原子炉施設の安全確保

(1)原子炉の安全審査の充実強化

①審査会の審議状況
 原子炉安全専門審査会は,昭和52年度以降原子力安全委員会発足時まで,原子炉の新増設として,東京電力(株)柏崎・刈羽原子力発電所(BWR型,電気出力1,100MW)の設置,九州電力(株)川内原子力発電所(PWR型,電気出力890MW)の設置,東京電力(株)福島第二原子力発電所2号炉(BWR型,電気出力1,100MW)の増設及び京都大学原子炉実験所高中性子束炉(軽水減速・冷却,重水反射体付き2分割炉心型,熱出力30MW)の増設の4件について審議を行つた。
 このうち,昭和52年度は,柏崎・刈羽原子力発電所及び川内原子力発電所について,昭和53年5月に,福島第二原子力発電所2号炉について,また,昭和53年8月に,京都大学原子炉実験所高中性子束炉について,それぞれ審議結果をまとめ,当該原子炉施設の安全性は確保し得る旨,原子力委員会に報告した。
 このほか原子炉の設置変更(増設除く)としては,東京電力(株)福島第一原子力発電所1号~6号炉の変更(熱的制限値の変更,固体廃棄物貯蔵設備の使用方法及び貯蔵能力の変更)等19件についての審議結果を,原子力委員会に報告した。
 これらの審議に当つて,原子炉安全専門審査会は,その下部組織として,案件毎に部会を設置し,更に部会の中に分野別の検討グループを設置して検討を行つている。検討グループにおいては,当該分野に属する内容については,毎月1~2回程度検討が行われ,その結果は適宜部会に報告,審議されるとともに,毎月1回程度開催される原子炉安全専門審査会にも,報告・審議される。これらの各会合の開催頻度は,新・増設及び設置変更によつても異なるが,福島第二原子力発電所2号炉の例をみると,検討開始から終了まで約1年4カ月の間に,49回開催されている。原子力委員会は,審議結果の報告を受けて更に審議を行い,その他の軽微な設置変更も含め,昭和52年度以降原子力安全委員会発足時までに合計46件について,許可して差しつかえない旨,内閣総理大臣に答申した。
 内閣総理大臣は,原子力委員会の意見を踏まえ,昭和53年6月26旧こ福島第二原子力発電所2号炉の増設を,許可したほか,その他の設置変更を合わせ,昭和52年度以降原子力安全委員会発足時までに合計48件の許可を行つた。

②基準及び指針の整備等
 原子炉施設の安全審査に係る基準や指針については,原子炉等規制法,それを受けた原子炉の設置,運転等に関する規則に基づく「許容被ばく線量等を定める件」,更に,これらの法令上の基準を具体化するためのものとして,「原子炉立地審査指針及びその適用に関する判断のめやすについて」,「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に関する指針について」,「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標に対する評価指針」,「軽水型動力炉の非常用炉の非常用炉心冷却系の安全評価指針」等があり,原子力委員会は,これらの基準や指針に基づいて原子炉の安全審査を行つてきた。
 これらの基準や指針の整備については,原子力委員会に「原子炉安全技術専門部会」を設置し,内外の研究成果実証試験結果を集め,その整備を図つてきたところであり,昭和53年9月,「発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針」,「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」及び「発電用軽水型原子炉施設における放出放射性物質の測定に関する指針」を新たに策定した。
 また,これらの基準や指針は,常に最新の知見に基づき見直されるべきものであり,この考え方に基づき日本原子力研究所を中心に反応度安全,熱工学的安全,燃料安全,構造安全等各分野にわたつて安全研究を積極的に進めてきており,このような安全研究の成果や原子力発電所の建設・運転の経験の評価及び安全研究,規制に関する国際的情報交換等を踏まえて,より精微な安全基準や指針の整備を進めた。
 具体的には,昭和52年6月,「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針」及び「発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針」を策定し,これに伴ない,従来用いられていた「軽水炉についての安全設計に関する審査指針について」及び「原子炉安全解析のための気象手引きについて」は廃止された。

③個別的問題への対応
 原子炉の設置許可申請に対して行ういわゆる安全審査においては,前述の安全審査指針類に対しての適合性についての判断が行われるほか,個々の申請地点によつて,条件の異なる審査事項(特に地質,地盤関係の審査等)については,個別の判断・評価が必要となる。
 安全審査に関し,特に近年,いくつかの審査案件についての地質,地盤関係の論議が安全審査の場以外において行われており,また,各設置予定地点の地方公共団体の長等から慎重審査の要望等が提出されている例もある。
 安全審査は,指針類に対しての適合性審査及び個別地点によつて異なる自然的立地条件の審査等,いずれも高度の専門的知識による判断が必要となつてくるため,原子力委員会としては,我が国における各分野の専門家による審査会を構成し,その判断を委ねている。
 地質,地盤の問題についても,これらの専門家グループにより,また,申請者が行つた調査のみによらず,地質関係文献等の調査,現地調査等を加えて,厳正な判断が行われた。

(2)発電用原子炉の検査
 発電用原子炉の検査については,電気事業法により通商産業省が使用前検査,燃料体検査,溶接検査,定期検査を行うほか,必要に応じ,原子炉等規制法により科学技術庁が,電気事業法により通商産業省がそれぞれ立入検査を行うことになつている。
 昭和52年度は,使用前検査については合計19基に対し行うとともに,定期検査については,日本原子力発電(株)東海原子力発電所,敦賀原子力発電所,東京電力(株)福島第1原子力発電所の1号炉,2号炉,3号炉,中部電力(株)浜岡原子力発電所1号炉,関西電力(株)美浜原子力発電所の1号炉,2号炉,3号炉,高浜発電所の1号炉,2号炉,中国電力(株)島根原子力発電所,四国電力(株)伊方原子力発電所1号炉及び九州電力(株)玄海原子力発電所1号炉の合計14基について行われた。
 また,53年度上期の定期検査は,前年度から継続の中部電力(株)浜岡原子力発電所1号炉,関西電力(株)美浜発電所1号炉,2号炉,高浜発電所2号炉,中国電力(株)島根原子力発電所1号炉,四国電力(株)伊方1号炉,及び九州電力(株)玄海原子力発電所1号炉の計7基,新しく定期検査に入った日本原子力発電(株)敦賀発電所,東京電力(株)福島第一原子力発電所1号炉,3号炉及び関西電力(株)高浜発電所1号炉の計4基,合計11基について行われた。
 この定期検査に関し,昭和51年12月3日に通商産業省が行つた立入検査により明らかにされた昭和48年当時における関西電力(株)美浜原子力発電所1号炉の燃料体の損傷事故に関する原因及び対策については昭和52年8月9日付で公表した。
 これと併行して,損傷発見当時未確認であつた折損燃料棒片の確認及び回収,運転再開に当たつての安全性の確認等の措置について検討を行い,昭和53年7月18日,本件燃料体損傷事故に伴なう措置は完了したものと判断し,その旨公表するとともに,昭和52年3月3日以来指示されていた同1号炉の運転再開の延期を解除した。
 その後,停止期間が4年にわたるため既に検査を実施した設備についてもその健全性の再確認を行う等各設備について慎重な検査を行い,同10月から,蒸気発生器細管に残留していると考えられるりん酸塩の除去のため,サイクル運転を実施した。
 このほか,昭和52年度の検査において発見され,又は処置された主要な事象としては次のものがあげられる。
 福島第1原子力発電所1号炉については,昭和51年8月17日から昭和53年3月24日まで定期検査を実施したが,供用期間中検査において,原子炉再循環系分岐配管にひびが認められた。このひびの原因は応力腐食によるものと判断され,その対策として当該部分を取り替え,再発防止策として溶体化処理等を実施した。
 また,原子炉再循環ポンプのフランジ・シール溶接部から蒸気が少量もれたが,再溶接を行つた。
2号炉については昭和52年1月5日から昭和53年4月5日まで定期検査を実施したが,供用期間中検査において原子炉再循環系分岐配管及び制御棒駆動水戻りノズル部にひびが認められた。原子炉再循環系分岐配管のひびは,1号炉と同様なものであり,同様な処置がとられた。制御棒駆動水戻りノズル部のひびの原因は,高温の原子炉水と低温の制御棒駆動水戻り水がノズル・コーナー部付近で混合する際に生ずる温度変動によるものと判断され,その対策としてはひびを削り取るとともに,再発防止策として戻りノズルを使用しないノン・リダーン方式に変更した。
3号炉については昭和52年3月1日から昭和52年10月28日まで定期検査を実施したが,供用期間中検査において制御棒駆動水戻りノズル部及び制御棒駆動機構のコレット・リティーナ・チェーブ(制御棒の位置固定装置をカバーしているチェーブ)の溶接部近傍にひびが認められた。制御棒駆動水戻りノズル部のひびは2号炉と同様な原因と判断され,その対策も同様な処置がとられた。制御棒駆動機構のコレット・リティーナ・チェーブの溶接部近傍のひびの原因は,応力腐食によるものと判断され,その対策として当該部分を取り替えた。
 日本原子力発電(株)敦賀原子力発電所は,昭和52年3月29日から昭和52年10月31日まで定期検査を実施したが,供用期間中検査において,制御棒駆動水戻りノズル部及び原子炉停止時冷却系分岐管にひびが認められた。
 制御棒駆動水戻りノズル部のひびは,東京電力(株)福島第1原子力発電所2号炉と同様なものであり,同様な処置がとられた。原子炉停止時冷却系分岐管のひびの原因は応力腐食によるものと判断され,その対策として当該部分を取り替えた。
 中部電力(株)浜岡原子力発電所1号炉は,昭和52年9月25日から定期検査中であるが,供用期間中検査において原子炉再循環系分岐配管,制御棒駆動水戻りノズル部及び制御棒駆動水圧系配管にひびが認められた。原子炉再循環系分岐配管,制御棒駆動水戻りノズル部のひびは,東京電力(株)福島第1原子力発電所1,  2号炉と同様なものであり,同様な処置がとられた。制御棒駆動水圧系配管のひびの原因は応力腐食によるものと判断され,その対策として当該部分を取り替えた。
 しかし,53年度上期の定期検査期間中に発見された主要な事象は無い。
 なお,これらの事象はいずれも原子炉に重大な影響を及ぼすものではなく,また,従業員の被ばく及び周辺公衆への影響はなかつた。

(3)原子力発電所の故障等
 昭和52年度中に原子炉等規制法に基づき報告のあつた原子力発電所設備における故障,人身障害は17件であつた。
 原子力発電所の原子炉施設の故障については14件報告された。このうち11件は定期検査により機器,配管に異常が発見されたものである。ここでは,この11件を除く3件について述べる。
 また,53年度上期中に原子炉等規制法に基づき報告のあつた原子力発電設備における故障,人身障害は2件で,ここでは故障の1件について述ベる。その概要は次のとおりであり,いずれの場合も従業員の被ばく及び周辺公衆への影響はなかつた。
① 昭和52年4月,関西電力(株)美浜原子力発電所3号炉が,「A蒸気発生器水位低」の信号により原子炉が停止した。
 点検の結果,主蒸気隔離弁の制御用空気系統の電磁弁の不良が確認された。不良電磁弁を取り替え,同一形式の弁を点検したが異常なかつたので運転再開した。
② 昭和52年12月,関西電力(株)高浜原子力発電所2号炉が「EHガバナー主電源断」の信号により原子炉が停止した。調査の結果作業者の過失であることが判明した。
 事故対策として,誤操作防止方法を検討し,系統の色分け等を実施した。
③ 昭和53年2月,日本原子力発電(株)敦賀原子力発電所が「原子炉圧力高」の信号により原子炉が停止した。調査の結果,原子炉圧力検出用計装配管の振動により,計器が誤動作したものと判断された。計装配管の振動を誘起させたと考えられる炉心スプレー系配管のサポートとの間の干渉を除去した。
53年8月,関西電力(株)高浜原子力発電所1号炉において,冷却材ポンプの振動が上昇傾向を示したので点検のため原子炉を停止した。なお原因については調査中である。
 原子力発電所,原子炉施設内で発生した人身障害事故は3件あり,その概要は次のとおりである。
① 昭和52年7月,日本原子力発電(株)敦賀原子力発電所において,主蒸気隔離弁の駆動機構組立作業中,駆動機構が転倒して作業者が1名負傷した。
 今後の措置として作業手順の見直しを実施した。
② 昭和52年7月,東京電力(株)福島第1原子力発電所5号炉において,5,6号共通メタクラ室の電気盤の清掃作業中,作業員が感電負傷した。
 今後の措置として,作業員への作業内容の周知を徹底させるようにした。
③ 昭和52年11月,日本原子力発電(株)東海原子力発電所においてNo.3ホットガス・ダクトマンホール部において耐圧テスト用治具の取り外し作業中,作業員2人がダクト内に転落,病院にて死亡した。
 事故の防止対策として,「作業安全許可方式」の見直しを行い,「保修依頼票及び作業票の取扱い要領」の改正を実施した。
 昭和53年9月,東京電力(株)福島第一原子力発電所3号炉において,復水器水室清掃作業中,作業員が硫化水素によりガス中毒,意識不明で病院に収容された。
 なお,昭和52年度中に電気事業法に基づいて報告された原子力発電所の異常件数は15件あつたが,これらの異常はいずれも原子炉に重大な影響を及ぼすものではなく,また,従業員の被ばく及び周辺公衆への影響はなかつた。また,53年度上期中に電気事業法に基づいて報告された原子力発電所の異常件数は6件(1件は原子炉等規制法としても報告されており,その内容は前述の故障のとおりである。)で,その内容は次のとおりであるが,これらの異常はいずれも原子炉に重大な影響を及ぼすものではなく,また,従業員の被ばく及び周辺公衆への影響はなかつた。
① 昭和53年5月,東京電力(株)福島第一原子力発電所2号機が「湿分分離器水位高」の信号により原子炉を停止した。調査の結果,作業中の誤操作と判明し,対策として作業手順の徹底を図つた。
② 昭和53年6月,東京電力(株)福島第一原子力発電所1号機が,制御用空気系の空気乾燥器の切替弁の誤操作により原子炉を停止した。調査の結果,切替弁の不良と推定され,この切替弁を取り替えた。
③ 昭和53年6月,関西電力(株)高浜原子力発電所1号機が,原子炉保護系ロジックの試験中,誤操作により原子炉を停止した。対策として試験手順書の見直しを行つた。
④ 昭和53年8月,日本原子力発電(株)敦賀発電所が,「原子炉圧力高」の信号により,原子炉を停止した。調査の結果,原子炉圧力検出系配管に物を当てたため検出器が動作したものと判明した。対策としては検出系配管に保護柵を設置した。
⑤ 昭和53年9月,日本原子力発電(株)敦賀発電所が「タービン負荷喪失」の信号により,原子炉を停止した。調査の結果,送電線への落雷の影響を受けたことが判明した。


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