第Ⅱ部 原子力開発利用の動向
第2章 核燃料サイクル

6 放射性廃棄物の処理処分対策

(1)放射性廃棄物処理処分対策の基本的考え方
 原子力委員会は,昭和51年10月,放射性廃棄物対策に関する基木的方針を決定した。その概要は以下のとおりである。
① 原子力施設において発生する放射能レベルの低い固体廃棄物については,当面,原子力事業者の施設内での保管で十分対応できるが,今後の発生量増大に対処するため,最終的な処分方法として,海洋処分及び陸地処分を組み合わせて実施することとする。
 このため海洋処分については,事前に安全性を十分評価した上,昭和54年頃から試験的海洋処分に着手し,その結果を踏まえ,本格的処分を実施することとする。
 また,陸地処分についても,昭和50年代中頃から地中処分の実証試験を開始し,その成果を踏まえ,本格的処分に移行することとする。
 これらを進める体制としては,(財)原子力環境整備センターを中心とし官民あげて協力していくこととする。
② 使用済燃料の再処理施設等で発生する放射能レベルの高い廃棄物については,安定な形態に固化し,一時貯蔵した後,処分するものとし,高レベル廃棄物の処理については,再処理事業者が行い,処分は国が責任を負い,必要な経費については,発生者負担の原則によるものとする。
 また,当面の研究開発の目標としては,固化処理及び貯蔵については,昭和60年代初頭に実証試験を行い,処分については,地層処分を中心に昭和60年代から実証試験を行うこととする。
 また,昭和53年6月の原子炉等規制法の一部改正に伴い,放射性廃棄物の廃棄については,原子力施設の事業所内と事業所外の廃棄に区分して規制されることとなつた。これに伴い,放射性廃棄物の廃棄の基準を整備する必要があるため,原子力委員会において廃棄に関する技術的な基準の検討を行い,昭和53年8月,「放射性廃棄物の廃棄に関する技術的基準」を決定した。
 これを受けて,現在,関係省庁において関連規則等の改正が進められている。

(2)放射性廃棄物処理処分対策の現状
 我が国では,「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」(放射線障害防止法)によつて放射性同位元素等取扱事業所を,「核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(原子炉等規制法)によつて核燃料の加工,使用済燃料の再処理等の事業所及び原子炉をそれぞれ対象としてそれらの施設で発生する放射性廃棄物に対する規制を実施している。

①放射性同位元素等取扱事業所
 放射性同位元素等取扱事業所で発生する極低レベルの液休状及び気体状の放射性廃棄物については,必要に応じ適切な処理を施し,法令に定められた基準値を十分下回ることを確認したのち,環境中に放出している。また,液体状及び固体状の放射性廃棄物のうち,各事業所で処理処分することが困難なものについては,一時,各事業所の保管廃棄設備に保管された後,廃棄業者である日本アイソトープ協会に引き渡されている。同協会では,容器に密封されたこれらの廃棄物を専用トラックで全国4カ所(関東,関西,九州,東北)の貯蔵所に集荷し,種類別に分類保管したうえ最終的には日本原子力研究所東海研究所に引き渡している。日本原子力研究所では,これらの廃棄物について処理を施し,コンクリートピットに保管廃棄している。

②原子力発電所等の原子力施設
 原子力発電所等の原子力施設で発生する放射性廃棄物は,各事業者等が自ら処理しており,その大部分を占める濃縮廃液,雑固体等の低レベル放射性廃棄物については,ドラム缶にセメント固化するなどの処理を施し,安全管理上良好な状態にして施設内の貯蔵庫に保管している。
 また,使用済イオン交換樹脂等一部の廃棄物については,処理を施して貯蔵タンクに一時貯蔵しており,処理技術の確立をまつて固化することとしている。
 このほか,極低レベルの液体状及び気体状の放射性廃棄物については,法令に定められた基準値を十分下回るよう適切な処理を施したのち,環境に放出されている。

 昭和52年度には原子力発電所から, ドラム缶にして約2万7千本の廃棄物が発生し,累積すると約8万5千本に達している。
 これらの廃棄物の処分については,陸地処分と海洋処分を併せて実施することとしているが,昭和51年10月主として低レベル放射性廃棄物の処理・処分に関する研究,開発及び処分の受託を行う機関として設立された(財)原子力環境整備センターを中心に試験的海洋処分に関する準備が進められた。

(3)放射性廃棄物処理処分の調査研究
 放射性廃棄物処理処分対策に関する研究開発については,昭和51年6月,放射性廃棄物対策技術専門部会から「放射性廃棄物対策に関する研究開発計画」の中間報告が行われた。
 この研究開発計画に沿つて,全般的な安全性試験については,日本原子力研究所が,また,実証試験については低レベル放射性固体廃棄物の試験的海洋処分に関する準備については,(財)環境整備センターが,高レベル放射性廃棄物に関しては,動力炉・核燃料開発事業団が各々中心となつて実施した。
 低レベル放射性廃棄物については,試験的海洋処分を昭和54年度に実施することを目標に所要の準備が進められており,その一環として,低レベル放射性廃棄物の固化体を封入した海洋投棄用固化体に関する基準作成及びその固化体の管理法についての試験研究が進められるとともに,投棄船の改造に関する設計研究が進められた。また,陸地処分についても調査が進められた。

 高レベル放射性廃棄物の処理については固化技術開発が動力炉・核燃料開発事業団において,既にコールド試験が実証規模で行われるとともに,群分離,消滅処理等の新処理技術に関する基礎的な研究及び固化体の安全評価試験が日本原子力研究所を中心に進められた。今後,これらの結果を踏まえて,ホット試験,固化及び工学貯蔵プラント実証試験へ進むこととなつている。
 また,高レベル放射性廃棄物の処分に関しては,我が国の地質及び地層の特性の調査とともに,地層処分時の安全評価試験が実験室規模で進められた。

(4)放射性廃棄物処理処分に係る国際的活動
 廃棄物処理処分問題の重要性から,最近,国際協力の活動が活発化している。

①経済協力開発機構原子力機関(OECD-NEA)
 経済協力開発機構原子力機関においては,放射性廃棄物処理処分問題を重要分野の一つとして採り上げ,昭和60年6月に放射性廃棄物管理委員会(RWMC)を設立し,廃棄物の発生から処分までの全てを対象として,技術開発の検討,各国の研究開発の調整,共同プロジェクトを行つてきている。
 放射性廃棄物大西洋投棄事業については,昭和42年以来10回(昭和42,44,46,47,48,49,50,51,52,53年),北大西洋への投棄を行い,放射能量にして約42万Ciを処分した。また,原子力機関には,昭和52年7月放射性廃棄物の海洋投棄に関し,各国の計画を評価し,相互に協議監視することを目的として多国間協議監視機構が設立されている。
 なお,同委員会の活動については,国際原子力機関(ⅠAEA)等とも協力,連絡が行われている。

②国際原子力機関(IAEA)
 国際原子力機関においては「地下処分に関するプログラム」に従い,放射性廃棄物の地下処分についての国際的な指針・基準の策定の準備・検討を行つた。また,「地下処分に関する技術検討委員会(TRC)」を設け,当該分野において指導的な役割を果たすこととしている。


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