第Ⅰ部 総論
第2章 原子力研究開発利用の進展と新長期計画

1 原子力発電

 〔原子力発電の本格化とその見通し〕
 昭和38年10月に,日本原子力研究所の動力試験炉で初めて試験発電が開始されて以来,我が国の原子力発電の歴史は満15年を迎えた。この間,我が国における発電分野の原子力利用は急速に拡大しつつあり,昭和52年4月以後も新たに2基,135万キロワットが運転を開始した結果,昭和53年9月末現在,商業用原子力発電所は15基,発電設備容量で約880万キロワットとなり国内総発電設備容量の約8%を占めている。更に,昭和53年中には新たに3基272.4万キロワットが運転を開始する予定となつているので,その総計は18基,約1,150万キロワットに達し,世界第2位の原子力発電国となる。
 また,昭和53年度上半期の原子力発電実績は,国内の総発電電力量の13%弱を占めるとともに,真夏期の渇水による水力発電電力量の低下もあつて,昭和53年7月及び8月には,原子力発電電力量が初めて水力発電電力量を上廻り,石油に代替するエネルギー源として,我が国のエネルギー供給上欠くべからざる地位を確固たるものとするに至つた。
 一方,新しい原子力発電所の立地については,昭和52年度以降,国が定める電源開発基本計画に組み入れられた原子力発電所の建設計画は,昭和53年3月に,2基174万キロワット,7月に2基199万キロワットの総計4基,373万キロワットにとどまつており,9月末現在,計画として確定された我が国の原子力発電規模は,33基約2,560万キロワットとなつている。したがつて,新しい長期計画で目標とした昭和60年度3,300万キロワット,昭和65年度6,000万キロワットの発電規模を大きな遅れなく達成していくためには,今後数年の間に更に3,500万キロワット相当(30基余)の原子力発電所の立地を進める必要がある。しかしながら,地元の同意が得られなかつたり,既に同意が得られたものであつても一部地元住民の反対があつたりするために,立地の遅れを招いた例も生じている。
 このように原子力発電所の建設ほ,原子力発電の安全問題や,環境問題に対する地元住民の不安等の諸要因のため,少なからぬ遅延を招いており,今後とも,この傾向は変わらないと見込まれるので立地問題が当面の最大の問題となつている。

 原子力発電の開発の必要性についての国民の意識として,最近の調査結果では,賛成が増加しつつあるものの,原子力発電の立地問題に対しては,「居住地及びその周辺への原子力発電所の建設には反対する」との意見が多い。この問題には,単純な安全性に対する不安だけでは処理しきれない面があることも見受けられる。
 〔立地対策と地域住民の理解〕原子力発電所等を建設しようとする場合には,敷地の確保をはじめ,海浜の利用や埋立て,森林地の開発,道路の建設工事等が必要であり,また,地域の経済社会に与える影響も大きいこと等,様々な形での有形無形の地元の協力を必要としている。
 これに応えるため,政府においては,昭和49年に成立した電源3法により,電源開発に伴う利益の地元への還元を図り,立地地域の地域振興との調和を図るとともに,その運用の改善を行いつつ,地元住民の福祉の一層の向上を図るべく努めてきている。
 また,政府は,昭和52年3月以来,総合エネルギー対策推進閣僚会議を随時開催し,関係方面と密接な連携をとりつつ総合エネルギー対策の推進に関する重要問題について意見調整を行つている。この中で原子力発電所等,電力需給上重要な電源であつて,特に,国による積極的な立地対策を進めることが必要と見られる地点を要対策重要電源として,政府自らが先頭に立つて,より一層の地元への協力要請等に努めた。その結果,当初合意が得られていなかつた地点においても地元における理解が得られ,今後も一層の協力が期待されるようになつてきた。
 これらの施策のほか,政府は原子力に関する正しい知識の普及啓発,原子カモニター制度による広聴に努めたが,今後とも更に,国民的合意の形成の推進及び地元における公開ヒヤリングの実施等,国と地元との意思の疎通ときめの細かい立地対策の推進のために一層の努力を払う必要があると考えられる。

 〔原子力発電所における故障等と設備利用率〕
 昭和52年度において,年度当初より,沸とう水型原子力発電所の配管の「ひび」等の故障が発見され,これらの点検,修理のため運転停止期間が長引き,原子力発電所設備利用率は,総平均で41.8%に低下した。
 これらの故障は,いずれも,あらかじめ組み込まれている原子力発電所の安全計装機器によつて発見され,あるいは法令に定める定期検査時に発見されたものであり,それぞれ入念な原因探求と慎重な補修が行われた。これらは,安全の確保に万全を期するために,いわば予防的な安全策を講じたものであり,周辺環境や住民はもちろん,原子炉本体に直接安全上の影響を及ぼすような性格のものではない。
 また,これらの点検,修理等の結果,昭和53年度上半期の設備利用率は,総平均で59.6%と著しい回復を示している。

 〔行政訴訟と異議申立て〕
 昭和48年以来,原子力発電所の設置許可処分等に対して,地元住民から,行政不服審査法に基づく異議申立てや,司法判断を求める行政訴訟が行われてきたが,行政訴訟では,伊方発電所(一号炉),同(二号炉増設),東海第二発電所及び福島第二原子力発電所(一号炉)の4件が現在審理中である。このうち,伊方発電所(一号炉)訴訟については,昭和53年4月25日松山地方裁判所で第一審判決(請求棄却)が下り,これを不服として原告側が控訴し,高松高等裁判所で審理中である。
 また,異議申立てについては,柏崎・刈羽原子力発電所及び川内原子力発電所(一号炉)の2件が現在審理中である。


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