第10章 原子力産業

1 原子炉機器産業

 原子力産業は原子力機器の設計,製造から管理に至るまで高度の安全性並びに信頼性を要する典型的な知識集約型のシステム産業である。その技術は,電気,機械関係技術を中心として化学,金属,土木等極めて広範な既存技術を土台として成り立っている。そのため,我が国の原子力産業は,在来の企業が原子力部門を設け,資本系列を通して原子力産業グループを形成しており,現在次の5グループにわかれている。

 (社)日本原子力産業会議の調査によれば,昭和50年度における鉱工業の原子力関係売上高は前年度比1.27倍の3,541億円,支出高も1.20倍の3,679億円と増加したが,差引き138億円の赤字(前年度は,276億円)となった。このように,我が国原子力産業界をとりまく環境は依然として厳しいものがある。

 過去黒字を記録したのは,昭和38年度及び44年度の2回のみとなっており,昭和31年以降の20年間の累計では,総売上高1兆2,096億円,総支出高1兆3,151億円,差引き1,055億円の赤字となっている。
 軽水炉技術については,東芝,日立がゼネラルエレクトリック(GE)社から沸とう水型炉を,三菱がウエスチング・ハウス(WH)社から加圧水型炉を技術導入し,製造技術の習得に努めてきた。原子力発電所の主契約者について見れば,軽水炉の初期のものについては,GE,WH社が主契約者となり,国内メーカーはその下請けとして機器の製作に当たっていたが,その後日本のメーカーが主契約者となって建設を行う例が多くなっている。しかし,現在建設の進められている100万KW級の大型原子力発電所では海外メーカーが主契約者となっている。
 原子力の国産化状況について見ると,初期の40~50%から出発し,現在建設中の軽水炉は96~97%に達しており,次第に国産化体制が整ってきている。特に重要な機器で高度の信頼性や実証性が要求され,国産化の遅れていた計測制御系,循環ポンプ,安全弁の一部,バルブ等についても一部国産化の域に達している。
 これまでの建設経験により,我が国の原子炉機器産業はかなりの水準に達したが,西ドイツの軽水炉技術に見られるような独自のシステムを開発するまでに至っていない。
 原子炉機器産業は,(財)原子力工学試験センター等の活用によって主要機器の信頼性を実証するとともに,その成果を活用して国産技術の確立に,より一層努めることが重要である。
 軽水炉の改良,標準化については通商産業省の原子力発電機器標準化調査委員会及び原子力発電施設改良・標準化調査委員会が昭和52年4月に昭和51年度軽水炉改良・標準化調査報告書を出しており,昭和50年度の検討結果に基づき,そのフィージィビリティスタディを実施するとともに標準化の範囲とその内容を具体的に検討した。
 昭和51年度軽水炉改良・標準化調査報告書の概要は次のとおりである。
① 改良・標準化の必要性
 ・自動化,遠隔化などに基づく保守点検作業の的確化。
 ・従業員の被ばく低減対策。
 ・機器信頼性の向上及び定期検査期間の短縮等を図るため自主技術に基づく改良を行い,その成果を踏まえて標準化を進める。
② 改良・標準化フィージビリティ調査結果
 沸とう水型炉については,
(i) 格納容器内作業性の向上・・・・・・格納容器内のスペースの拡大と形状の変更,モノレールの設置等。
(ii) 保守点検性の改良・・・・・・各種作業の自動化・遠隔化の推進。
(iii) クラッド発生防止と除去・・・・・・濾過式脱塩装置の設置,低コバルト不銹鋼の採用等。
 加圧水型炉については,
(i) 格納容器内作業性の向上・・・・・・格納容器の拡大と保守スペースの増大等。
(ii) 保守点検性の改良・・・・・・各種作業の自動化・遠隔化の推進。
 以上の対策を技術面から具体的に検討を加え,標準プラントの設計に具体的に盛り込むこととした。
③ 標準プラントに関する検討結果
 標準プラントの出力としては国内の運転建設経験,電力系統容量,経済性等を総合的に勘案して,当面電気出力80万KW級及び110万KW級の2種類とし,標準化すべき範囲としては,立地条件に比較的左右されない原子炉,蒸気発生設備を先行して標準化し,機器配管建屋設計など立地条件により大きく影響される部分の標準化は今後の課題とする。


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