第8章 放射線利用
1 放射線利用の動向

(5)放射線化学

 日本原子力研究所高崎研究所では,放射線化学に関する研究として,気液相放射線重合による高分子材料の開発,低温放射線重合による高分子材料の開発,プラスチックの放射線改質,高分子材料の耐放射線性の研究,環境保全に対する放射線利用に関する研究等を実施した。
 気液相放射線重合による高分子材料の開発に関しては,耐6フッ化ウラン性試験でヘキサフルオルプロピレン―エチレン共重体が優れていることを見出した。また,アクリルアミドの放射線重合により高分子凝集剤として優れた製品を得るとともに,耐薬品性に優れたイオン交換膜合成のため種々の含フッ素モノマーの放射線グラフト重合を行った。
 低温放射線重合による高子材料の開発に関しては,柱形重合において,多官能性モノマーなどの新素材プレポリマー2種を添加することにより光学歪のない材料を得た。曲面状試料の離形の問題の金型への金属蒸着による解決,フレネルレンズの様な複雑な曲面試料の効率の良い製造などの開発を進めるとともに,耐摩擦性,防曇性等のコーティングについての用途開発を進めた。また関連低温放射線重合の開発研究では,疎水性モノマーと酵素の水溶液との懸濁状態で低温重合を行うと高い活性率で固定化できることを見出した。
 プラスチックの放射線改質に関しては,水性塗料については,熱硬化型アクリル系エマルションの改質を原料エマルションの合成段階からγ線を用い,これをCOOHモノマー,OHモノマーをグラフトして耐衝撃性等の物理的性質及び光沢の良い塗料を得るとともに焼付条件について検討を行った。放射線橋かけによるポリエチレンの改質では,橋かけ剤としてジプロパギルサクシネートを使用して,6.6KV級ケーブルに良好な結果を得た。放射線崩壊によるポリマーの改質では,アイソタクティックポリプロピレンを2カ月間ばく露することによる劣化の結果を得るとともに,難燃性耐放射線性絶縁材料の開発を進めた。
 高分子材料の耐放射線性の研究では,電力ケーブル用耐放射線性高分子材料について耐放射線性助剤の作用機構を明らかにし,エネルギー移動や,ラジカル付加により耐放射線性を向上させることを見出した。原子力船用遮へい材のγ線照射による発生ガスの分析を行い,シリコン素材は照射及び熱処理による水素減少率が少ないことを明らかにした。またJT-60用高分子素材の耐放射線性,固体高分子の照射効果について引き続き研究を実施した。
 環境保全に対する放射線利用技術の開発については,排煙の放射線処理の研究では,脱硝反応に対する水分の促進作用,NOx初濃度,温度,不純物などの影響を調べ,添加剤効果のあること,脱硝効率の向上の可能性を見出した。
 その他,核エネルギーによる水素製造等の研究を実施した。


目次へ          第8章 第2節(1)へ