第7章 原子力船の研究開発
1原子力第1船「むつ」の開発

(2)原子力船「むつ」の開発の見直し

 このような事態に対処し,政府は「むつ」放射線漏れの原因を調査するため,総理府において「むつ」放射線漏れ問題調査委員会(昭和49年10月29日閣議決定)を開催し,専門的な調査検討を求めたが,同調査委員会は,昭和50年5月13日,調査報告書を政府に提出した。報告書では,政策,組織,技術及び契約の4点について問題点を指摘するとともに,「むつ」は技術的にみて全体としてはかなりの水準に達しており,適切な改修によって所期の目的を十分達成し得るものであるとの結論がなされ,今後の開発の進め方についての提言を行っている。
 原子力委員会は,昭和50年6月10日,「むつ」からの放射線漏れは,極めて微量であったとはいえ,これを一つの契機として原子力行政について国民全般に広く不信感が発生したことは極めて遺憾とするところであり,同調査委員会の調査報告及び提言を貴重な見解として尊重するとともに,今後の施策にできる限り反映させていく旨の見解を発表し,あわせて,「むつ」の開発計画を継続すべきこと及び「むつ」の改修に当たっては開発主体である日本原子力船開発事業団の技術水準の向上を図ること,国の責任において十分な審査を行うこと等の前提条件を満たすことが必要であるとの考えを明らかにした。
 更に,原子力委員会は昭和50年3月18日に「原子力船懇談会」を設置し,原子力船開発の今後のあり方,それを踏まえての原子力第1船の開発計画,日本原子力船開発事業団のあり方等について抜本的な見直しを行ってきた。
 同年9月11日,同懇談会は,「むつ」を初期の基本方針に則して完成させ,国産技術による原子力船建造の貴重な経験を積むと同時に,実験航海を通じ原子力の船舶への適合性及びその安全性に関する試験研究を行い,各種データの蓄積を図るとともに,機器の改良試験を行うなど「むつ」を効果的に活用すべきであること,更に,将来の実用化に備えるため「むつ」の開発と並行して基礎研究,改良舶用炉・関連機器等舶用炉プラントとしての広範囲な研究開発等を進める必要があることなどの報告書を取りまとめた。
 これを受けて原子力委員会は,昭和50年9月23日,将来の原子力船実用化時代に備え,我が国としては世界の大勢に遅れることのないよう,エネルギー政策のみならず,造船・海運政策の観点から「むつ」の開発を積極的に推進することとし,そのため,現行の「原子力第1船開発基本計画」を原子力船の実用化に至るまでの研究開発との関連を考慮しつつ改訂すること,「昭和51年3月31日までに廃止するものとする。」と規定されている「日本原子力船開発事業団法」を必要な期間延長すること等について決定した。
 一方,政府は,「むつ」の安全性の確保において責任の所在を明確にすべきであるとの指摘に応えるため,科学技術庁と運輸省は合同して,専門家からなる「むつ」総点検・改修技術検討委員会(昭和50年8月12日決定)を開催し,日本原子力船開発事業団が策定する「むつ」の総点検・改修計画について国の立場から厳重にチェックする体制を整備した。同検討委員会は慎重審議の結果,昭和50年11月25日,日本原子力船開発事業団の遮へい改修総点検査計画は妥当であり,この実施に当っても「むつ」周辺の環境の安全は十分保持し得る旨の第1次報告書を取りまとめた。
 政府は,これら委員会等の意見を踏まえ,昭和50年12月12日原子力船関係閣僚懇談会において「むつ」の開発を継続すべきことを決定した。
 また,政府は,現行の日本原子力船開発事業団法の改正法案(廃止するものとされる期限を昭和61年3月31日まで延長)を昭和51年1月第77回国会に提出したが,第78回国会で廃案となった。
 このため,政府は同事業団法の改正法案(廃止するものとされる期限を昭和62年3月31日まで延長を昭和52年2月第80回国会に提出したが,継続審議となり,第81回国会においても,継続審議となった。第82回国会に至って,昭和52年11月同事業団法改正法案は,延長期限を昭和55年11月30日までに短縮するよう修正の上,可決成立した。この修正の趣旨は,同事業団の原子力船に関する研究開発機能を強化し,将来,研究開発機関に移行させるためのものであり,今後,その検討が進められることになっている。


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