第7章 原子力船の研究開発
1 原子力第1船「むつ」の開発

(1)原子力船「むつ」の開発

 近年,船舶の大型化及び高速化は著しく,これら船舶に必要とされる高出力推進機関としては,在来推進機関では消費燃料の増大などの点に問題が生じるために限界が予想され,更に石油の国際的な需給問題からも原子力船の実用化に対する期待は大きいものがある。
 原子力船の実用化のためには,在来船と経済的に十分競合でき,かつ,安全性,信頼性が十分である原子力船の技術開発に努めることはもとより,原子力船の安全に関する国際基準の制定,出入港及び航行の自由のための制度確立等の諸問題を解決しなければならない。
 世界的な造船海運国である我が国としても,将来に予想される原子力船時代に備えて,原子力船の研究開発を着実に進めていくことが必要であるばかりでなく,実用化を促進するために原子力船の安全性等に関する国際的な基準の早期確立に積極的な役割を果たすべきである。
 我が国の原子力船開発は,昭和38年に日本原子力船開発事業団を設立するとともに,「原子力第1船開発基本計画」(昭和38年7月決定,昭和42年3月及び昭和46年5月改訂)を決定することによって本格的に開始された。
 この基本計画によれば,総トン数約8,000トン,主機出力約10,000馬力,航海速力約16ノットで特殊貨物の輸送及び乗組員の養成に利用できる原子力第1船の開発を行うこととしている。
 日本原子力船開発事業団は,この基本計画に基づき,原子力第1船「むつ」の開発を進めてきたが,昭和49年9月,「むつ」の出力上昇試験の際生じた放射線漏れのため,その開発計画は一時停滞の止むなきに至り,現在,青森県むつ市の定係港岸壁に係留の状態にある。


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