第5章 安全確保及び環境保全のための調査研究等

1 原子炉施設等の工学的安全研究等

 原子炉施設等の工学的安全研究等は,軽水炉施設の規制等及び放射性廃棄物の放出低減化に関する研究に必要な安全研究等及び新型動力炉の開発に伴う安全研究に分類される。
 軽水炉施設の安全研究等は,日本原子力研究所を中心として,国立試験研究機関及び原子力平和利用研究委託費による民間機関への委託研究によって実施されたほか,昭和50年度からは新たに電源開発促進対策特別会計により,(財)原子力工学試験センター等に委託して大型安全実証試験が実施された。
 なお,軽水炉施設等の安全研究等については,原子力委員会の専門部会の1つである原子炉施設等安全研究専門部会において,国及び民間の安全研究実施分担,研究推進体制を含めた計画的総合的推進方策を検討していたが,昭和51年4月,昭和51年度から昭和55年度までの5カ年間の安全研究年次計画をまとめた。現在この計画に基づいて,各研究機関で研究が実施され,研究成果はこの部会において評価,活用が図られている。
 日本原子力研究所では,主として冷却材喪失事故(LOCA),反応度事故(RIA)等における現象の解明に関する研究とこれらの事故時の安全評価のための安全解析コードの開発及び原子炉燃料,材料の安全性に関する研究を行った。

 冷却材喪失事故に関する研究については,昭和45年度からROSA-I計画として,冷却材喪失事故試験装置(ROSA:Rig of Safety Assessment)を用いて実験を行い,冷却材喪失事故時の冷却材の流出過程における熱工学的現象の解明を行った。昭和48年度からは,ROSA-II計画として,冷却材喪失事故時の緊急炉心冷却装置(ECCS)の効果について,加圧水型軽水炉を模擬した研究を実施し,蓄圧注入系の効果が十分に認められること,RELAP-3コードが現象をよく表現していること等の成果を収めた。更に,この計画はROSA-III計画として,沸とう水型軽水炉の緊急炉心冷却装置の効果を試験することになっている。
 また,反応度事故に関する研究としては,原子炉安全性研究炉(NSRR)が昭和50年6月に臨界に達し,反応度の異常上昇時の炉内燃料の挙動,燃料破損に伴う破壊エネルギーの発生機構等について核的実験を行ったが,標準燃料試験に関する限り,燃料の破損しきい値及び燃料の破壊しきい値は,安全審査上採用されている値が充分安全余裕を持っていることがわかった。今後は,浸水燃料及び被覆管照射燃料について実験を行うことになっている。

 国立試験研究機関においては,次のように炉外実験及び基礎的研究を実施している。
 科学技術庁金属材料技術研究所では,原子炉用材料の応力腐食割れに関する研究,運輸省船舶技術研究所においては,原子炉圧力容器の内圧破壊に対する安全性,亀裂波測定による非破壊検査法に関する研究等,自治省消防研究所では,核燃料輸送容器の火災対策に関する研究,建設省建築研究所では,動力炉用コンクリートの安全基準に関する研究等を実施し,基礎的なデータの集積を行った。
 原子力平和利用研究委託費においては,主として原子力施設の安全基準の作成あるいは安全評価を行う上での基礎資料を得ることを目的として研究を行った。昭和51年度に実施した主要な研究課題は次のとおりである。
 原子力施設の安全基準に関する研究として,原子炉圧力容器の超音波ホログラフィによる欠陥定量測定に関する研究,原子炉建屋と地盤の相互作用に関する研究等を実施し,安全基準作成のための基礎資料を得た。

 原子力施設の安全評価に関する研究としては,ジルカロイ燃料被覆管の強度,変形に関する試験研究,原子炉配管系の局部的構造挙動とその安全性評価に関する研究,8×8型燃料集合体による炉心スプレー系の冷却能力に関する研究等を実施した。
 動力炉・核燃料開発事業団では,新型転換炉及び高速増殖炉に関する安全研究を,その開発プロジェクトの一環として実施している。新型転換炉については,一次冷却系の破断試験による冷却材喪失現象の解明等を行うとともに,冷却系配管の破断検出及び破断予知法の開発を行った。高速増殖炉については,再臨界事故時に炉心で発生する機械的エネルギーに対する耐衝撃構造試験,ナトリウム過渡沸とう試験,燃料破損伝播試験,バックアップ炉停止機構試験,冷却材喪失事故模擬炉内試験及び反応度事故模擬炉内試験等を実施した。

 このほか,原子力施設から排出されるトリチウム,クリプトン-85等の放射性廃棄物の放出低減化の研究を動力炉・核燃料開発事業団において進めたほか,原子力平和利用研究委託費による民間研究委託によって隔膜法によるガス状放射性廃棄物の分離特性に関する研究,中レベル・イオン交換樹脂の化学分解による減容処理法に関する研究等を実施した。
 また,工学的安全研究については,国際協力を積極的に進めており,我が国からはハルデン計画,PBF計画及びLOFT計画,その他インターランプ計画,オーバーランプ計画等に参加し,着実な成果を挙げている。


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