第3章 国際関係活動

1 国際関係

 原子力における国際関係は,大別して3種類に分けられる。
 第一は,核物質,役務,技術の移転を直接の目的とするもの,第二は,核不拡散の保証のためのもの,第三は,研究協力,情報交換等の相互協力である。第一と第二とは従来から表裏一体となっていたものであり,一般には,「原子力平和利用協力協定(いわゆる原子力協定)」に基づき,進められ,同協定は資源,役務,技術等の移転に途を開くものの,同時に保障措置上の義務及び核物質の取扱いに関する幾つかの義務を政府に課すこととなり,したがって,原子力協定は国会で批准を必要とされる条約という性格を持つ。
 海外にウラン資源,濃縮役務を頼り,かつ,当初技術導入により原子力開発を始めた我が国は,上記の国際協力を早くから進めており,それによりウラン鉱石の入手(日加原子力協定,日豪原子力協定),ウラン濃縮役務の確保(日米原子力協定),軽水炉導入(日米原子力協定),動力炉,天然ウランの入手(日英原子力協定),ウラン鉱入手,濃縮・再処理役務の確保(日仏原子力協定)を図っている。

 上述の各原子力協定とも,保障措置の実施を義務付けており,「保障措置の国際原子力機関への移管協定」により,各協定毎に,保障措置の国際原子力機関による実施を取り決めているが,我が国が核不拡散条約を批准(昭和51年6月)し,その実施のための「保障措置協定」を国際原子力機関との間で締結した後は,その枠内での保障措置が以後実施されることとなる。
 また各協定とも,核物質等の移転に際してそれが平和目的のみに使われることの確保,移転が政府の承認した者の間のみで行われること,第三者への再移転には,合意が必要なこと等の義務を含んでいるが,特に日米原子力協定においては,米国から供給された核燃料の再処理に当たっては米国との共同決定が必要との条項(8条C項)が含まれており,これに基づき,先般の東海再処理施設に関する日米交渉が行われた。
 前述の日米交渉は,米国による国際関係における上述第二の側面(「核拡散防止」)をより重視する新政策の影響を受けたものであるが,ここで見られる顕著な特長は,本来,第一の側面(核物質技術の移転,役務の提供等)の裏打ちとして必要であった第二の側面が,逆に,第一の側面を規制する傾向が見られるという点である。
 この傾向は,我が国にとって主要ウラン供給国であるカナダにも見られ,規制の強化のための協定改訂交渉の合意不成立から,昭和52年始めより,我が国へのウランの輸出が停止されている。この場合,最大の論点は,同一物質に対して複数国が重複して規制を行うという「二重規制」であり,我が国は,「二重規制」が実質的に行われる場合には,原子力平和利用を損うおそれがあるという観点から,受入れには慎重な検討を行っている。このような基本的な点は,国際的合意に基づき実施されることが極めて望ましい。
 ちなみに,国際原子力機関による保障措置体制では,「単一在庫」という概念を採用しており,これが現時点での国際的合意であると解される。
 もとより,我が国は,原子力の平和利用と核不拡散とは,両立するとの基本的立場から,核不拡散強化のための国際的努力は支持してきており,昭和50年4月以来,原子力先進国政府関係者が原子力平和利用,特に,原子力関係輸出に関する技術的諸問題についての意見交換を行うために会合してきた原子力平和利用先進国間会議(いわゆる「ロンドン協議」)についても,積極的に参加し,前述「二重規制」問題の解決を図るための作業部会の設置を我が方から提案し,その設置が実現した。
 国際関係の第三の側面(研究協力,情報交換)は,原子力協力協定のみならず,科学技術協力協定(西独,ソ連),交換公文,政府間協議等に基づいても行われるが,近年我が国の研究開発水準の向上に伴い,積極的かつ対等な相互協力の傾向が顕著である。

 この場合,相手国としては,同じ軽水炉路線をとる米国,西ドイツ,フランスとの間で,共通の主要関心事である安全性研究協力が積極的に進められているのをはじめ,高速炉に関しては,米国,英国,フランス,西ドイツと,また高温ガス炉に関しては,米国,西ドイツというように,分野毎に適宜,協力相手国と協力形態とを選ぶことにより,最適な成果をあげることを目指している。
 以上は,二国間協力を中心に述べたが,他方では多国が参加する協力,並びに国際機関における協力がある。
 国際機関のうち,国際原子力機関は,原子力技術の開発促進と同時に,核不拡散のための保障措置の実施という両面を持つが,経済協力開発機構原子力機関及び同エネルギー機関は,新技術の開発と安全性の確保に関する意見交換を行っている。
 以下,各々の国際関係での主要な動きを述べる。


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