第1章 原子力発電
5 原子力発電所の安全確保

(1)原子炉の安全審査の充実強化

① 審査会の審議状況
 原子炉安全専門審査会は,昭和51年度には,原子炉の新増設として,東京電力(株)柏崎・刈羽原子力発電所(BWR型,電気出力1,100M昇)の設置,四国電力(株)伊方発電所2号炉(PWR型,電気出力566MW)の増設,九州電力(株)川内原子力発電所(PWR型,電気出力890M昇)の設置, 東京電力(株)福島第二原子力発電所2号炉(BWR型,電気出力1,100MW)の増設及び京都大学原子炉実験所高中性子束炉(軽水減速,冷却,重水反射体付き2分割炉心型,熱出力30MW)の増設の5件について審議を行った。
 このうち,昭和51年度は,伊方発電所2号炉について,昭和52年8月には,柏崎・刈羽原子力発電所について,それぞれ審議結果をまとめ,当該原子炉施設の安全性は確保し得る旨,原子力委員会に報告した。残りの3件については,現在審議を進めているところである。このほか,原子炉の設置変更(増設を除く)としては関西電力(株)大飯発電所1,2号炉の変更(17行17列型燃料集合体の採用等)等13件についての審議結果を,原子力委員会に報告した。
 これらの審議に当たって,原子炉安全専門審査会は,その下部組織として,案件毎に部会を設置し,更に部会の中に分野別の検討グループを設置し検討を行っている。検討グループにおいては,当該分野に属する内容について,毎月1~2回程度検討が行われ,その結果は適宜部会に報告審議されるとともに毎月1回程度開催される原子炉安全専門審査会にも報告審議される。これらの各会合の開催頻度は,新,増設及び設置変更によっても異なるが,伊方発電所2号炉の例をみると,検討開始から終了まで約1年10カ月の間に,66回開催されている。原子力委員会は,審議結果の報告を受けて更に審議を行い,その他の軽微な設置変更も含め昭和51年度に合計20件について,許可して差しつかえない旨,内閣総理大臣に答申した。
 内閣総理大臣は,原子力委員会の意見を踏まえ,伊方発電所2号炉の増設を,昭和52年3月30日に許可したほか,その他の設置変更を合わせ,昭和51年度に合計21件の許可を行った。
 これらの設置変更の主なものとしては,工学的安全施設の増強を図るもの(可燃性ガス濃度制御系の設置等)燃料経済の向上を図るもの(U-235濃縮度の変更)使用済燃料貯蔵設備の増容量を図るものがあげられる。
 また,東京電力(株)柏崎・刈羽原子力発電所の新設について,伊方発電所2号炉と同様,内閣総理大臣は原子力委員会の意見を踏まえ,昭和52年9月1日に許可を行った。

② 基準及び指針の整備等
 原子炉施設の安全審査に係る基準や指針については,原子炉等規制法,それを受けた原子炉の設置,運転等に関する規則に基づく「許容被ばく線量等を定める件」,更に,これらの法令上の基準を具体化するためのものとして,「原子炉立地審査指針及びその適用に関する判断のめやすについて」,「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に関する指針について」,「軽水型動力炉の非常用炉心冷却系の安全評価指針」等があり,原子力委員会は,これらの基準や指針に基づいて原子炉の安全審査を行ってきた。
 これらの基準や指針の整備については,原子力委員会に「原子炉安全技術専門部会」を設置し,内外の研究成果,実証試験結果を集め,その整備を図ってきたところであり,昭和51年9月には,「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に対する評価指針」を新たに策定した。
 また,これらの基準や指針は,常に最新の知見に基づいて見直されるベきものであり,この考え方に基づき日本原子力研究所を中心に反応度安全,熱工学的安全,燃料安全,構造安全等各分野にわたって安全研究を積極的に進めてきており,このような安全研究の成果や原子力発電所の建設・運転の経験の評価及び安全研究,規制情報に関する国際的情報交換等を踏まえて,より精微な安全基準や指針の整備を進めている。
 具体的には,昭和52年6月,「発電用軽水型原子炉施設に閏する安全設計審査指針」及び「発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針]を策定し,これに伴い,従来用いられていた「軽水炉についての安全設計に関する審査指針について」及び「原子炉安全解析のための気象手引きについて」は廃止された。

③ 地元住民の意見の聴取
 発電用原子炉の設置許可に当たり,地元住民の生の意見を聞き,これを安全審査に反映させるべきであるとの要請にかんがみ,原子力委員会は,必要な場合公聴会を開催することとして,昭和48年5月にその開催要領を決定した。これに基づき,昭和48年9月18日と19日に福島市において,福島第二原子力発電所の原子炉の設置についてはじめての公聴会を開催した。
 昭和51年,東京電力(株)柏崎・刈羽原子力発電所の設置について,公聴会を開催することとし,上記の開催要領の改正を含めて地元との接衝を行った。しかしながら,地元情勢等から公聴会の開催には至らず,これに代えて地元利害関係者の意見を文書で聴取することとし,昭和51年7月5日にその旨の公示を行った。この結果,地元関係者から提出された文書意見数は524通であり,これらの意見のうち,安全審査に関連する事項については,これを原子炉安全専門審査会に伝達するとともに,安全審査に関連しない事項に対しては,原子力委員から中間的な回答を意見提出者に送付した。また,原子力委員会は,提出された文書意見に対して慎重な検討を行い,内閣総理大臣に対する答申を行うに際して原子力委員会としての報告書を決定して,個々の意見提出者に対して送付した。

④ 個別的問題への対応
 原子炉の設置許可申請に対して行ういわゆる安全審査においては,前述の安全審査指針類に対しての適合性についての判断が行われるほか,個々の申請地点によって,条件の異なる審査事項(特に地質,地盤関係の審査等)については,個別の判断・評価が必要となる。
 安全審査に関し,特に近年,いくつかの審査案件についての地質,地盤関係の論議が安全審査の場以外において行われており,また,各設置予定地点の地方公共団体の長等から慎重審査の要望等が提出されている例もある。
 安全審査は,指針類に対しての適合性審査及び個別地点によって異なる自然的立地条件の審査等,いずれも高度の専門的知識による判断が必要となってくるため,原子力委員会としては,我が国における各専門分野にわたる専門家による審査会を構成し,その判断を委ねている。
 地質,地盤の問題についても, これらの専門家グループにより,また,申請者が行った調査のみによらず,地質関係文献等の調査,現地調査等を加えて,厳正な判断が行われている。

⑤ 安全審査体制の強化
 原子力委員会は,原子力行政懇談会中間とりまとめにおいて指摘された趣旨に沿い,当面の措置として原子炉の設置許可から建設,運転に至るまでの安全規制体制を現行法の運用の範囲内においてできるだけ一貫化の効果が図れるよう,昭和51年7月13日,原子炉安全専門審査会に,工事計画,使用前検査等のうち安全性に関する事項についての調査審議を行う発電用事業炉部会,研究炉部会及び舶用炉部会を置くこととし,原子炉安全専門審査会運営規程の一部改正を行うとともに,それらの運営方法についての決定を行った。
 原子炉安全専門審査会は,この決定を受けると直ちに発電用事業炉部会及び研究炉部会を発足させ,行政庁の行う工事計画の認可等に当たり,主要な事項について審査会が意見を述べることとしており,また,安全審査の段階において,工事計画の認可時等において確認すべき重要事項の指摘を行っている。また,重大な事故,故障についても所管省庁から報告を受け,調査審議を行っている。
 なお,原子力行政懇談会は,昭和51年7月に「原子力行政体制の改革強化に関する意見」をとりまとめた。それによると安全規制の一員化を図るため,実用発電用原子炉については通商産業省,実用舶用原子炉については運輸省,試験研究用原子炉については科学技術庁においてそれぞれ一貫して規制を行うとともに,現行の原子力委員会を原子力委員会と原子力安全委員会に分割することなどを提言した。政府は同意見に沿って,原子力行政体制の強化を図るため,昭和52年2月,原子力基本法等の改正案を国会に提出している。


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