第3章 原子力安全の確保

第1節 原子力施設の安全の確保と故障等についての考え方

 (安全確保の基本的考え方)
 原子力開発利用の実施に当たっては,国民の健康と安全の確保が大前提であり,原子力委員会としては,原子炉,再処理施設等の原子力施設の安全を十分に確保するとともに,原子力施設から出される放射性物質によって,周辺公衆に影響を及ぼさないことを最優先するという立場を堅持してきている。
 原子力施設については,基本設計,詳細設計,建設運転等の各段階において,その安全性が担保される仕組みとなっているが,その安全が十分に確保されるためには,安全審査指針の整備,基本設計の安全審査等の原子力委員会の活動,原子力施設の建設,運転管理の各段階における行政庁の安全規制,原子力施設を構成する各種機器,部品を実際に製造する原子力産業,並びに,これら施設を現実に運転管理する原子力事業者及び原子力事業従事者の不断の努力と協力が必要不可欠であることは言うまでもない。また,先に述べたように,自主技術の蓄積は,経済性の向上をもたらすこと以上に,安全性・信頼性の向上にとって極めて必要なものであり,今後とも安全研究の推進を図って行くことが肝要である。
 このように,原子力委員会は,原子力施設の安全に関し,原子力施設の設計の基本的考え方を示すいわゆる基本設計についての安全審査を行っているが,審査は次のような基本的な考え方に従って行われている。
① 当該立地環境において予想される地震・高潮等の自然事象に十分に耐えること。原子力施設の故障等の発生を防止することはもちろんのこと,仮に故障等が発生したとしても,それが拡大して,周辺公衆に放射線障害を及ぼす事態にまで至ることのないよう防止対策を講じた施設であること。
② 通常運転に伴って放出される放射性物質の量は,これによって周辺公衆の受ける放射線量が放射線障害を及ぼすおそれのない線量以下とすることのみならず,「実用可能な限り低く」という放射線防護の考え方のもとに,管理し得る施設であること。
③ 万一,事故が発生したとしても,公衆の安全を確保し得るように,安全防護設備との関連において,十分に公衆から離れていること等の立地条件を備えていること。
 これらの基本的考え方は,行政庁において詳細設計,建設及び運転の各段階を通じて,安全防護システム,放射能放出低減システム等の設計の認可,諸安全装置の機能に関する検査,運転等の保安管理のための保安規定の認可等において具体化され,安全の確保が図られている。なお,原子力施設の技術については,安全確保のための研究と技術の開発に重点が置かれてきており,原子力発電設備の改良・標準化の推進とともに,個々の部品に至るまで健全性,信頼性の向上が図られている。
 これらにより,原子力施設においては,周辺公衆に放射線障害を与えるような事故は一度も起こさないという実績を積み重ねてきている。

 (故障等に対する安全確保の考え方)
 以上のような基本的な考え方のもとに安全確保が図られているが,更に具体的には次のような考え方のもとに,故障等の早期検知等によって適切に処置することとしている。
① 構成する機械類に安全余裕を持たせるとともに,安全上重要な施設・設備には,重複性,独自性を持たせる等,十分な安全余裕を持たせる。
② 機械類の誤動作,人間の誤操作等の可能性も考慮して,安全上重要な施設,設備機器については,誤動作及び誤操作を阻止するような構造とし,更に,そのような事態が発生した場合には,自動的に安全な状態に至らしめるような構造とする。
③ 機械類の損傷,故障等が完全かつ正確に予測し得ない可能性も考慮して,故障等をできるだけ早期に検知するため,必要箇所に,監視警報装置を備える。また,停止状態においてのみならず運転中においても,その健全性確認のための試験が可能な構造とする。
 更に各施設は,これらの方針に従うよう製作,建設され,保守・管理の段階においては,前述の考え方と呼応させて,経年劣化が予想される機器等に対して定期的な点検・検査が行われ,故障等の早期検出とこれへの対応が講じられるようになっている。

 (最近における故障等)
 昭和51年度においては,東京電力福島第一原子力発電所,関西電力高浜原子力発電所等において故障が発生し,法令に基づき,24件の報告が行われ,また昭和52年に入っても故障等がみられた。
 原子力発電所におけるこれらの故障等の発生に際しては,補修工事及びその安全性の確認を慎重に行うとともに,類似の事象が他の箇所,他の原子力発電所にはないか等について十分な点検を行うため,必要に応じ長期間にわたって運転を停止させていることもある。この結果,我が国全体での原子力発電所の設備利用率は,昭和52年度に入って,51年度に比べて低下した。

 しかし,これらの故障等は,内容的には,例えば配管あるいは制御棒駆動水戻りノズルの内面に「ひび」が発見されたもの等であり,いずれも定期検査又は計測機器により早期に発見され,配管については取り換え,制御棒駆動水戻りノズルの内面のひびについては余裕肉厚の範囲内での削り取りによる「ひび」の拡大の可能性の除去,系統の変更等の所要の対策が講じられており,今後とも原子力発電所の安全性は十分に確保され得るものである。また,再処理施設ホット試験については,脱硝塔ノズル配管からの水溜れ等の軽微なトラブルが生じたが,これらについてはそれぞれの対応措置が講じられ,安全性は確保されている。
 これらの故障等に伴う点検・修理等に際し,従事者の受けた放射線の量は,いずれも許容線量をはるかに下回るものであった。
 なお,これら原子力事業に従事する者の健康管理等は,極めて重要な課題であるので,これらの者が受けた放射線量の一元的な登録管理を行う放射線従事者中央登録センターが昭和52年11月に設立された。
 また,故障等については,安全確保に万全を期すため,監督官庁においてそれを正確に把握し,今後の原子力技術の改善に反映していくとともに,その正確な内容を公表することによって国民の不安解消に努める必要がある。
 このため,原子力施設において,故障等が発生し,又は発見された際には,軽微なものを含めて,遅滞なく規制当局に報告あるいは連絡される体制としている。それにもかかわらず,関西電力(株)美浜発電所における事例のように報告が行われなかったり,あるいは動力炉・核燃料開発事業団の東海事業所におけるトラブル等のように報告や連絡が遅れるような事例が見られた。このため,政府としては,このような故障等の発生に対しては,情報の報告,連絡に遺漏がないよう注意を行い,かつ,指導を行っている。
 また,これらの故障等に対しては,原因の徹底的究明と適切な対策を行うことが,安全の確保の上で極めて重要である。そのため,必要な調査,試験を実施の上専門技術的な判断による措置を採ることとしている。


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