第2章 原子力開発利用をめぐる国際情勢と我が国の進路
第3節 我が国の進路

1 国際情勢への適切な対応

 (原子力開発利用に対する我が国の基本姿勢)
 原子力委員会は,昭和52年8月15日,「原子力平和利用と核不拡散の両立をめざして」と題する原子力委員会委員長談話を発表した。
 これは,我が国が,昭和31年に制定された原子力基本法に基づき,原子力の開発利用を平和目的に限ることとしており,更に,非核三原則を国是として堅持してきたことが,核兵器廃絶という我が国の不動の決意に基づいたものであることを明らかにしたものである。あわせて,核不拡散それ自体が原子力の平和利用を妨げるものとなってはならないとの,我が国の基本的考え方を述べるとともに,恒久平和の理念と,それを達成するためのあらゆる国際的な努力を前提とするならば,核兵器の不拡散及び将来におけるその廃絶と原子力平和利用の両立が可能であるとの見解を明らかにしている。
 原子力委員会としては,今後とも,この考えに基づいて,国際社会に貢献していくとともに我が国の原子力平和利用を円滑に推進していくこととしている。

 (国際核燃料サイクル評価への対応)
 昭和52年4月,カーター米国大統領は,国際的な核燃料サイクルの評価を提唱した。同じ5月の主要国首脳会議では,エネルギー源として原子力開発促進の必要性並びに核不拡散の強化の重要性について合意されるとともに,これらの問題点を対象とした研究を発足させることとなり,核問題主要国間予備会議を次の目的のために開催することが合意された。
 イ) 核拡散の危険を回避しつつ原子力の平和利用を推進するための最善の方法につき予備的分析を行うこと。
 ロ) 国際的な核燃料サイクル評価への付託事項を研究すること。
 これを受けて,昭和52年6月及び7月に核問題主要国間予備会議が開かれ,国際核燃料サイクル評価として検討すべき付託事項について協議した結果,10月19日から21日の間,ワシントンにおいて第1回国際核燃料サイクル評価設立総会が開かれ,いよいよ評価作業が始められることとなった。
 我が国の本評価作業参加について,原子力委員会は,昭和52年10月14日に,基本的考え方を発表し,我が国の基本的立場,すなわち核燃料サイクルの確立が我が国にとり必要であり,また,原子力平和利用と核拡散防止とは両立するとの主張に関して,諸外国の理解と協調を求め,かつ,今後の我が国原子力政策の遂行に少なからぬ影響を及ぼすと考えられる本作業に,我が国の見解を反映させるために積極的に参加することを明らかにしている。この方針とともに,原子力委員会に国際核燃料サイクル評価対策協議会を設け,参加国内体制を整えている。
 本評価作業の実施に当たっては,我が国を始めとする諸国の強い主張により,次の原則によって作業を進めることが合意されている。
① 原子力平和利用と核不拡散の両立の方途を探求するために実施されるべきこと。
② 評価の実施に当たっては,プルトニウム利用を排除すること等,結果を予断することなく,客観的,技術的に作業を進めること。
③ 原子力平和利用のいたずらな混迷を避けるため,評価作業は2年間で終了すること。
④ 評価作業の期間中,各国の自主的な原子力政策の推進は阻害されないこと。
⑤ 評価の結果は,直ちに各国の原子力政策を拘束するものでないこと。
 国際核燃料サイクル評価は,核燃料サイクルの全分野について,技術的,分析的作業を行うものである。すなわち,この評価の第一の柱は,これまで開発を進めているウラン・プルトニウムサイクルについて,その必要性あるいは,核拡散防止措置の可能性及び有効性を明らかにするため,ウラン資源,濃縮能力,核燃料長期供給保証制度,再処理及びプルトニウム利用,更に高速増殖炉の各分野について,それぞれ検討することである。また第二の柱は,ウラン・プルトニウムサイクルに代わる核燃料サイクルと新しい原子炉の可能性を探究するため,使用済燃料及び放射性廃棄物の貯蔵,更に新しい核燃料とそれに適した原子炉等の分野について検討することにある。
 なお,いずれの分野についても,開発途上国への配慮を加えることとなった。
 以上の検討を行うため,上述の検討分野ごとに8つの作業部会が設けられることとなった。

 我が国は,これら8つの作業部会のうち,最も関心が高く,かつ,国際核燃料サイクル評価の中心的課題である,再処理,プルトニウムの取扱い及びその利用について検討する第4作業部会において,英国とともに共同議長国となることが決定された。
 我が国としては,共同議長国として,第4作業部会に貢献していく責任を果たしていくとともに,他の7つの作業部会についても積極的に参加することとしている。

 (ウラン資源国への対応)
 国内のウラン資源に乏しい我が国としては,必要な天然ウランの供給を海外に依存せざるを得ない。各電気事業者は,昭和60年頃までに必要とする天然ウランを長期買付契約等により,既に確保している。しかし,ウラン市場の動向等を考慮すると,その後のウランの供給確保が懸念される。
 このため,原子力委員会としては,海外ウラン資源国における探鉱活動を促進し,開発輸入の比率を高めるよう予算面等の強化を図ってきている。

 最近,資源国のうち開発途上国においては,経済協力,技術援助と一体としてウラン資源開発協力を進めるという希望が強くなってきている。したがって,我が国としても,単にウラン資源開発という点からのみではなく,開発途上国との経済協力,技術協力をあわせた総合的な協力という観点から対処していくことが,ますます重要となっている。
 また,ウラン輸出に際しての核不拡散強化の動きも,最近の傾向である。
 特に,昭和52年初頭以来,我が国のウランの主要輸入先であるカナダからの既存契約に基づく輸入が,カナダ政府の方針により停止している。
 これは,カナダ政府が昭和49年及び51年に発表した保障措置強化を目的とした新ウラン輸出政策の実施のために,既存の原子力協力協定の改訂交渉を日本及び西欧諸国に要求し,未だいずれも合意に達していないためである。
 他方,もう一つの主要輸入先であるオーストラリアも本年5月に,カナダと同様の政策を発表しているが,この新政策は,既存のウラン購入契約には適用されないので,当面問題は生じていない。しかし,新規契約による船積みの時点までに改訂協定を成立させることが必要となっている。
 我が国は核拡散防止の強化を支持するものであり,基本的には,両国のこの考え方にほば同意している。しかし,我が国に対し,米国経由で,濃縮されて送られてくるウランについて,米国と同時に,カナダ又はオーストラリアが,濃縮,再処理の事前同意等の規制権を持つという事態が予想される。
 今後,このように規制権が同一の物資に対し,複数国から重複して行使されることとなると平和利用が実際上阻害されるおそれがある。この点から,現在,日加原子力協定改訂交渉は最終的な合意を得るに至っていない。
 我が国は,原子力平和利用と核不拡散とは両立できると考えており,本件は基本的な点での対立ではないため,今後,両国にとり満足のいく解決策が得られるよう,努力をすることとしている。また,この点に関しては,国際的な合意に基づいて行われることが極めて望ましいので,我が国は,原子力平和利用先進国間会議に本件検討のための作業部会の設置を提案し,昭和53年早々から,同作業部会で検討が行われることとなった。
 我が国としては,今後とも,資源国との総合的な協力関係の樹立に努める一方,核不拡散の原則に十分留意しつつ,我が国の立場について資源国の理解と協調を得ていくこととしている。


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