第2章 原子力開発利用をめぐる国際情勢と我が国の進路
第1節 核不拡散強化への動きと我が国の立場

2 米国の新原子力政策の影響

 (新原子力政策の経緯)
 米国では,前述のような核不拡散強化の国際的潮流と議会における核不拡散強化論を背景として,新しい原子力政策が,昭和51年の大統領選挙戦を通じて,次第に明らかとなった。昭和52年1月に就任したカーター米国大統領は,4月7日,使用済燃料の商業的再処理及びプルトニウムの利用を抑制することを骨子とした新原子力政策を発表した。
 米国の新原子力政策(52.4.7 カーター大統領発表)
 ① 商業的再処理とプルトニウム・リサイクルの期限を定めぬ延期  
 ② 高速増殖炉の開発計画変更と商業化延期
 ③ 代替核燃料サイクルの研究促進
 ④ ウラン濃縮能力の拡大
 ⑤ 核燃料供給保証のための国内立法
 ⑥ 濃縮・再処理技術,施設の輸出禁止の継続
 ⑦ 国際核燃料サイクル評価の実施

 この政策は,国内政策として発表はされたものの核拡散防止の観点から,核燃料サイクルを国際的に評価し直そう,という提唱をはじめ,軽水炉に必要な濃縮ウランの供給保証,使用済燃料の大量貯蔵等の従来のウラン・プルトニウムサイクルに代わる代替案を伴ったもので,これまでの米国の原子力政策を大きく転換するものであったために国際的に大きな反響を呼ぶこととなった。

 (新原子力政策の反響)
 すなわち,米国の新政策は,第一に,同政策が核不拡散の名のもとに,各国の原子力平和利用に直接・間接に影響を与える可能性があり,場合によっては核不拡散条約第4条で規定している原子力の平和利用における平等性の確保という理念に反するおそれがあること。
 第二に,世界のウラン資源には限度があり,特にウラン資源に乏しい国にとっては,核燃料の効率的な利用は不可欠である。その見地から,ウラン・プルトニウム核燃料サイクルが,最も現実的な方法と考えられ,各国においては,これまでその技術開発に力を注ぎ,再処理の分野では実用化の段階を迎えており,この実情認識が不十分であること。
 第三に,ウランの有効利用が困難となる結果,その需要が増加し,価格の高騰等需給上の混乱を招くおそれがあること。
 などの見地から,我が国をはじめ,フランス,西ドイツなどウラン資源に乏しく,かつ,他の化石燃料資源にも限度がある諸国にとって,核不拡散への努力の必要性は認めつつも,必ずしも十分な説得力あるものとは認め難いものであった。
 特に,我が国においては,日米原子力協定の第8条C項において,米国から輸入した核燃料を再処理する場合には日米間で共同決定を要することが規定されているので,我が国への影響が憂慮された。


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