5 総合エネルギー政策の基本方向

昭和50年12月19日
 総合エネルギー対策閣僚会議

 内外エネルギー事情の急激な変化を背景として,世界の政治経済におけるエネルギー問題の重要性が飛躍的に高まるとともに,エネルギーの安定供給の確保が今後の我が国経済社会の円滑な発展のためのきわめて重要な政策課題となっていることにかんがみ,下記によりエネルギー政策を総合的に推進するものとする。


 I 基本的考え方

 I 世界のエネルギー需給は,長期的には,世界経済の成長に伴いエネルギー需要が増大していくのに対し,供給面においては不安定な基調が継続していくものとみられる。しかるに,我が国のエネルギー供給構造は,国産資源に乏しく,海外依存度が著しく高いという脆弱性を内包しており,エネルギー問題にいかに対処するかが,我が国経済社会の将来を大きく左右する要因となっている。
2 今後のエネルギー政策は,こうした認識に立って,経済の安定成長に必要なエネルギーを量的に確保するとともに,国の経済的安全保障の見地からエネルギーの安定供給構造を形成することを通じ,国民経済の発展と国民生活の向上の基盤を確立することを基本目的とする。
3 この目的を達成するため,輸入石油依存度の低減と非石油エネルギ~の多様化を推進することを基軸として,①国産エネルギーの有効活用を図るとともに,準国産エネルギーとしての原子力の開発を推進し,また海外エネルギーについては,その多角化によりリスクの分散を図り,②今後とも当分の間エネルギー供給の主体をなす石油の安定的確保に努め,③省エネルギー化の推進により需要面からエネルギー供給に対する負担を軽減し,さらに,④昭和60年代以降に及ぶより長期的展望の下に新エネルギーの開発を推進するものとする。
4 エネルギー政策を遂行するに当たっては,特に,①エネルギー供給の安定化のために必要な国民経済的コストの適正な負担を図ること,②環境政策,物価政策等他の政策との適切な調整を図ること,③我が国のエネルギー供給の安定化は世界のエネルギー需給の緩和を通じて達成されるとの認識に立ち,多面的な国際協調を通じて問題の解決に努めること等の点に配慮するものとする。
5 今後のエネルギー政策は,別添の総合エネルギー調査会答申に示された昭和55年度及び60年度におけるエネルギー需給バランスを参考として推進するものとする。

 II 主要な政策の方向

 上記の基本的な考え方に立って,以下の主要な政策の方向に沿って諸般の施策を推進するものとする。

1 国産エネルギーの活用と海外エネルギーの多様化
(1)大陸棚石油資源,水力及び地熱については,環境保全との調整等を図りつつその開発を進める。また,国内石炭については,保安の確保及び鉱害の防止を前提にして,現在の生産規模を長期安定的に維持することとし,石炭鉱業の経営の安定に努める。
(2)海外エネルギーの多様化を図るため,海外石炭の開発輸入を進め,石炭火力への活用等を図るとともに,LNGの輸入の拡大を図る。

2 原子力開発の推進
(1)原子力発電の推進を図るため,ウランの安定的確保,再処理・放射性廃棄物処理処分の技術開発等を進めるなど原子力発電の基盤の強化を図る。
(2)安全規制の充実等により,安全性の確保に万全を期するとともに,原子力機器の信頼性の向上を図り,これらに対する住民の理解を深める。
(3)原子力行政体制の充実を図る。

3 石油の安定供給の確保
(1)石油企業の体質改善,適正な石油価格の形成等を通じ石油産業の基盤の強化を図るとともに,石油開発公団の活用等を通ずる海外石油資源開発の推進を図る。
(2)従来からの供給ルートによる安定的供給の確保に配意しつつ,政府間の話し合い,民間企業による直接取引等を通じ,輸入地域及び輸入方法の多角化を図る。また,90日分を目標とする石油備蓄を引続き推進する。

4 二次エネルギーの供給
(1)電力の安定供給確保のため,広域的開発,基幹送電線の整備等を推進するとともに,環境・安全対策の強化,電源三法の活用等による電源立地の円滑化を進める。また,社債発行限度枠の拡大,内部資金の充実等により巨額の所要資金の確保を図る。
 あわせて電源開発株式会社の活用を図る。
(2)都市ガスについては,効率的輸送供給体制の確立を図るとともに,電力と同様の所要資金確保措置等を検討する。

5 省エネルギー政策の推進
 現在実施中の節約指導等の徹底・拡充を図るとともに,長期的観点から省エネルギー型の産業構造生活・パターンの形成を,誘導,基盤整備等を通じて推進する。このため,(イ)産業部門においては,エネルギー管理の改善,省エネルギー設備の導入等を推進する。
(ロ)民生・業務部門においては,各種広報活動等を強化し,節約気運の高揚に努めるとともに,建物の断熱構造化,省エネルギー型設備機器の普及等を図る。
(ハ)輸送部門においては,自動車の燃料消費効率の改善を図るとともに,自動車走行量の抑制,大量輸送機関の整備等を図る。
(ニ)工場廃熱等未利用エネルギーの有効利用を推進する。

6 技術開発の推進
(1)新型転換炉,高速増殖炉等の新型動力炉の開発・実用化を推進するとともに,核融合の開発,太陽エネルギー・地熱エネルギー・石炭の液化ガス化・水素エネルギー等に関する新エネルギー技術の開発等を推進する。
(2)省エネルギー,エネルギー立地・環境・安全・貯蔵・輸送技術等各種エネルギー関連技術の開発及び実用化を推進する。
(3)原子力発電,石油開発等に関する技術者や研究者の養成,二国間あるいは多国間の技術情報及び技術開発成果の交流等を推進する。

7 国際協調の推進
(1)消費国間協調により,節約,エネルギー源の開発,新エネルギーの研究開発等を推進することにより,世界のエネルギー需給の緩和に努める。
(2)エネルギー問題と一次産品問題,開発問題等との相互関連に留意しつつ,長期的な原油価格及び供給の安定化を図る見地から,国際経済協力会議等を通じ産油国との対話を積極的に推進する。
(3)エネルギー資源生産国に対しては,当該国の事情及び我が国との関係を考慮して,経済面,技術面における協力等により当該国の経済社会の開発・発展に寄与すること等を通じ,二国間の緊密な関係を築く。

8 必要資金の確保
(1)エネルギーの安定供給を確保するためには,厖大な額の投資が必要となるが,このような資金を確保するためには,エネルギー産業が内部資金の充実と外部資金の調達力の強化を通じ自らの努力によって資金調達を行い得るようにすることが肝要である。このため,各種コストが円滑に価格に反映できるような環境の整備等により適正なエネルギー価格の形成を図るとともに,各種資金調達に関する制度の改善及び運用上の配慮を行う。
(2)エネルギー関係の投資は,リスク,収益性,懐妊期間等からみて民間だけでは十分に対応し切れない面もあり,さらに我が国のエネルギー供給構造の脆弱性,エネルギー産業の企業体質の特殊性等の要因も考慮すれば,民間資金を補完し,エネルギーの安定供給のために,財政資金の役割に期待されたところも大きい。他方,我が国の財政は未曽有の困難に直面しており,今後のエネルギー資金問題についてば,各種資金需要の性格,各調達方式の特色,国民経済に与える影響等を考慮した最適な組合せにより割処することとし,それぞれの方式に応じ適切な措置を講ずることとする。


(参考)

 総合エネルギー調査会答申による長期エネルギー需給

 昭和55年度及び60年度におけるエネルギー需給は,総合エネルギー調査会答申によれば下表のとおりと見込まれる。
 なお,この数値は,55年度については,50~55年度の期間において年率6%台の経済成長をエネルギー面から可能とするものである。また,60年度の数値は,エネルギー供給構造を極力輸入石油依存度低減の方向に転換させることを前提としつつ,他方,60年度に至る長期においては内外の需給の諸条件に関して不確実な要因が少くないことにかんがみ,ある程度の安全性と弾力性を織り込んで,50~60年度の期間において年率6%程度の経済成長を可能とするものである。


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