第5章 新型炉と核融合の研究開発
(参考)諸外国の動向

 高速増殖炉は,将来は軽水炉にかわって発電炉の主流を占めるものと考えられており,各国で開発が進められている。英国,フランス,ソ連においてはずでに電気出力30万KW級の原型炉が稼動し,西ドイツでも原型炉の建設を進めている。これに対して,米国は基礎研究を十分積み上げる方針をとっており,原型炉の建設では各国よりも遅れをとっている。また,原型炉に続く実証炉については,その建設費が巨額に達する見込みであることから,フランス,西ドイツは,国際協力により建設を進める計画である。
 原子力開発の初期段階では,炭酸ガスを冷却材に使用するガス炉が,英国を中心として採用されたが,出力を大きくすると炉が大型になるなどの不利な点があるため,現在ではすでに発注されていない。これにかわってヘリウムを冷却材に使用し,高い炉心出口温度の得られる高温ガス炉が熱効率の面から注目されており,米国,西ドイツでその開発が進められている。
 重水減速炉のうち重水冷却型CANDU-PHW炉は,カナダが積極的に開発を進めており,すでに5基が運転中である。英国では沸騰軽水冷却型のSGHWRの原型炉が運転中であり,同炉型を次期炉型として選定し,開発を進めてきたが,電力需要の減退等から,今後の開発は再検討されるもようである。

(1)高速増殖炉

 米国の高速増殖炉開発の歴史は古く,1951年には,アイダホに建設されたナトリウム・カリウム冷却のEBR-1で世界最初の発電実験が行われた。
 しかしその後,開発費の増大,環境問題等により,高速増殖炉開発計画は,大幅に遅れている。
 高速炉の材料試験炉として,1970年に着工されたFFTF(Fast Flux Test Facillty,熱出力40万KW)は,建設費の上昇(87.5→622百万ドル)等により,1973年末の臨界予定が,ほぼ4年遅れの1978年8月に延期されている。
 原型炉については,電気出力38万KWのCRBR(Clinch River Breeder Reactor)を,オークリッジ研究所に隣接するクリンチリバーに連設する計画であり,臨界は1983年の予定である。
 CRBRの開発費は,1972年の見積り699百万ドルから1974年には1,736百万ドルヘ修正された。
 1977年度のERDAの原子力予算では,液体金属高速増殖炉に575.4百万ドルを計上し,これは76年度より147百万ドル増加している。

 英国では古くから高速炉の開発に力を注いでおり,1959年には北スコットランドにある原子力公社(UKAEA)のドンレー研究所で実験炉DFR(Do-unreay Fast Reactor 143KW)が臨界に達しでいる。DFRは高速炉燃料及び高速炉技術等に関して貴重な情報提供を行ってきたが,1976年10月に閉鎖する予定である。
 DFRに続く炉として,UKAEAは同じくドンレーに原型炉PFR(Proto-type Fast Reactor,25万KW)を建設し,1974年3月臨界に達し,1975年10月北スコットランド電力庁へ3万KWの送電を開始した。最初の商業実証炉であるCFR―1(Commercial Fast Reactor,130万KW)について,UKAEA,はNPCと設計の契約を締結しており,1977年発注,1984年運転開始といわれている。
 ソ連の高速炉開発は,1955年オブニンスク物理研究所で臨界集合体BR-1が臨界したことから始まっている。BR―1は高速炉理の研究に活用された。これに続いてBR-2,BR-3,BR-5が建設された。これらの建設,運転経験をもとに,熱出力6万KWのBOR-60が建設され,1969年臨界に達した。
 このように基礎的研究を積み重ね,熱出力100万KW,電気出力相当35万KWの原型炉BN-350が,カザフ共和国のカスピ海沿岸にあるシエフチェンコに建設され,1972年11月臨界に達した。BN―350では電気出力35万KWのうち15万KWを発電に,20万KW相当分を海水脱塩用に使っている。1974年に蒸気発生器の破損が生じ,現在出力を下げて運転されている。
 さらに改良を加えた電気出力60万KWのBN―600がウラルのベロヤルスクに建設中で,1977年に運転開始の予定である。
 フランスの高速炉開発は原子力庁(CEA)を中心に進められており,1967年にはカダラッシュ研究所で実験炉ラプソディー(熱出力2万KW)が臨界に達し,1970年には出力を2倍にしている。原型炉フェニックス(電気出力25万KW)は1973年8月,臨界に達し,1974年3月より全出力運転に入っている。現在も順調に運転されており,1974,1975年の設備利用率は,各々65.2,64.1%となっている。

 フェニックスに続く大型炉のスーパーフェニックス(電気出力120万KW)については,フランスは,西ドイツ,イタリアと協力して開発を進めることとしている。
 スーパーフェニックスのサイトは,リヨン東方のクレイマルビで,すでに予備工事をはじめており,本年4月,フランス政府は,1976年に発注することを認めるなど,開発が進展している。
 西ドイツではナトリウム冷却熱中性子炉のKNKでナトリウム利用技術の経験を重ね,現在,SNR-300(電気出力31.2万KW)をカルカールに建設中で1979年に臨界の予定である。
 SNR-300に続く大型炉としてイタリア,フランスとの共同によりSNR-2の建設計画がたてられている。

(2)重水減速転換炉

 軽水炉に比べ,中性子吸収の少ない重水を減速材として用い,中性子経済の秀れた転換比の高い,重水減速転換炉の開発は,カナダ,英国等で進められている。
 カナダでは,重水減速加圧重水冷却型のCANDU-PHW炉の開発を積極的に進め,既に5基が運転中であり,インド,パキスタン,韓国に輸出されている。
 また,英国では,重水減速沸騰軽水冷却型のSGHWR炉の開発を進め,AGRに代る次期炉型に選定していたが,英国内の電力需要の減退,技術的問題等から,SGHWR炉の今後の開発は再検討されるもようである。

(3)高温ガス炉

 米国ではGA社(ガルフとシェルの子会社)が高温ガス炉の開発を推進し2 1974年2月にはコロラド公営電力のフォートセントブレイン発電所(33万KW)が臨界に達した。しかし,その後各種故障が生じたため,全出力運転は,1976年末とみられている。さらに,電力需要の減退を反映して,GA社が受注していた8基の高温ガス炉はすべてキャンセルされ,当分の間,高温ガス炉の開発は中断されることとなった。
 西ドイツは,米国のものと異ったペブル・ベッド型の高温ガス炉を開発し,ユーリッヒで,1967年に1万5千KWのAVRを完成している。さらに電気出力33万KWのTHTR-300を建設中で1979年に運転開始の予定である。

(4)核融合

 核融合の研究開発は,米国,ソ連,欧州各国で,精力的に進められているが,米国においては,エネルギー研究開発庁が,トカマク型核融合試験炉(TFTR)を1981年に完成させる計画で,各種コンポーネント,中性粒子入射装置等の研究開発を行うとともに,ミラー型の装置,レーザー及び相対論的電子ビーム等による核融合について,高出力短バルスレーザー等の基礎的研究を行っている。
 トカマク型装置という有力な核融合装置を世界で最初に開発したソ連は,超大型の臨界プラズマ試験装置(T-20)を,1984年頃に完成させる予定であり,レーザー核融合等についても積極的に研究開発を進めている。
 欧州各国においても,欧州原子力共同体(ユーラトム)が,1981年完成予定の臨界プラズマ試験装置(JET)の計画を進めており,英国,フランス,西ドイツ等で,各種プラズマ閉じ込め装置の研究開発を行っている。


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