第5章 新型炉と核融合の研究開発
3.多目的高温ガス炉

 エネルギー需要の飛躍的な増大により,エネルギー資源の乏しい我が国は,エネルギーの海外依存度がますます高まる傾向にある。このような状況に対処するため,準国産エネルギーとも言うべき原子力エネルギーを電力のみならず,核熱エネルギーの直接利用として直接製鉄及び燃料用水素の製造等いろいろな分野へ多目的利用し,化石燃料への依存から脱却することが期待されている。
 このためには,炉心出口温度1,OOO°Cの多目的高温ガス炉を開発することが必要であり,我が国では,日本原子力研究所において,この多目的高温ガス炉に関する研究開発が進められている。
① 被覆粒子燃料
 燃料粒子及び燃料コンパクトを対象とした健全性の評価と物性の改良をはかるため,高温長期加熱試験,高温照射試験など,炉外及び炉内試験が実施されてきたが,製造試験に関しては今後量産規模への移行が,検査法研究に関してはデータの統計処理による評価がそれぞれ実施できる段階に至っている。
② 黒鉛材料
 炉心構造材としての候補材料を選定し,この材料を中心に高温照射試験,機械的強度試験,高温腐食試験及び高温物性に関する照射後試験が行われている。
③ 耐熱金属材料
 ヘリウム中での腐食,脱浸炭,内部酸化などの諸現象の解明,ヘリウム中でのクリープ,疲労及びそれらの重畳効果などに関する試験,さらには熱中性子照射下での試験等を中心に研究が進められた。とくに,ヘリウム純度管理技術の確立により,ヘリウム中耐久試験技術が確立され,ヘリウム中腐食に関しては,耐久性の改善について重要な知見が得られている。
④ 伝熱流動
 大型及び小型高温ヘリウムガスループでの各種の高温実験が実施され,それぞれ長時間の実績が得られている。大型高温ヘリウムガスループでは,JMTRに設置するOGL-1に関する高温流動試験が終了し,引き続き,高温燃料体試験部が試作され,炉心と同一の流動条件下での高温伝熱流動特性が求められるなど,貴重な成果が得られている。
 OGL-1は,昭和48年度から建設が進められており,本年中には特性試験が終了する予定である。
⑤ 炉 物 理
 半均質臨界実験装置等を用いて,ウラン,トリウム系燃料を含む高温ガス炉炉心体系の臨界量,出力分布,制御棒の反応度価値等に関する実験などが実施されている。
⑥ 計装制御
 多目的高温ガス炉に必要とされる600°C前後の高温環境,γ線照射下で安定して作動する高性能の核分裂計数管の試作開発に成功したほか,高温炉心内用熱電対の開発が進められている。
⑦ 実験炉とその利用系に対する設計研究
 昭和44年度の試設計以来,予備設計,基本概念設計,第1次概念設計が行われ,実験炉プラントの特性評価と機器構造の詳細化が進められている。また,その間,将来の実用炉システムを想定した大型多目的システムの試設計が実施されたほか,各種設計,評価計算コードの開発整備や材料データの蓄積,安全設計基準の策定等が行われている。
 なお,前述の「新型動力炉開発専門部会」においては,日本原子力研究所が計画している多目的高温ガス炉実験炉の建設についての検討を行い,昭和50年代末迄に実験炉を運転することを目指し,研究開発を推進することとしている。
(参考)高温ガスを利用した直接製鉄技術については,日本鉄鋼協会が中心となって研究が進められてきたが,昭和48年度より通商産業省工業技術院において「高温還元ガスによる直接製鉄技術研究開発」が大型プロジェクトとして推進されている。


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