第1章 原子力発電
(参考)諸外国の動向

 世界の原子力発電設備容量は,運転中,建設中,計画中を含め,1976年6月末現在で総計702基,約5億9千万kWに達しており,米国,ヨーロッパ等を中心とした先進工業国のみならず,ブラジル,イラン等の開発途上国においても原子力発電の開発が進められている。
 運転中のものをみると,米国が全世界の約半分を占めており,英国,ソ連,日本がそれに続いている。

 炉型別にみると,世界の総原子力発電設備容量のうち81%が軽水炉で占められ,このうち,約7割が加圧水型炉(PWR)約3割が沸とう水型炉(BWR)となっている。重水炉,ガス炉は,それぞれ4.5%,2.9%を占めている。
 このように,原子力発電は,石油代替エネルギー源として,各国のエネルギー政策上,極めて重要な位置を占めるに至っており,各国のエネルギー計画にみられるように,今後も原子力発電の比重は増大していくものとみられる。
 このように,世界各国における原子力発電への傾斜が強まる一方,安全性,信頼性,放射性廃棄物対策等の問題についての懸念が,米国における原子力発電規制イニシアチブ(州民発議),スウエーデンの政権交代による原子力発電計画見直し等の動きとなっている。
 また,原子力発電に伴って生じるプルトニウムの兵器への転用を防ぐという見地から,原子力資材輸出規制の強化等の動きが活発化している。

(1)米国
 米国では,1951年にAEC(原子力委員会)のアイダホ原子炉実験場にあるEBR-1(150KW)によって世界最初の発電実験を行った後,原子力潜水艦の加圧水型炉の経験を活かして,1958年には,ペンシルバニア州シッピングポートに出力6万KWの原子力発電所を完成させた。

 この建設,運転経験は原子力発電の実用化に大きく貢献した。続いて1964年,米国東海岸のオイスター・クリーク発電所で60万KWの,当時としては大型の軽水型原子炉が採用された。これは石炭火力との競争入札で,原子力発電の経済性が認められた最初のケースであり,米国ではこの時が原子力発電実用化のはじまりとされている。

1976年6月末現在,運転中の原子力発電所は60基,4,245万KW,建設中,計画中のものを加えると222基約2億2千6百万KWに達しており,米国は,現在,全世界の約半分の原子力発電設備を有するに至っている。米国の原子力発電所は,東海岸,五大湖周辺,ミシシッピー川流域など,人口が多く,工業の盛んな地方に多数立地されている。
 米国は以前から,石油に代わるエネルギー源は原子力と国内に豊富にある石炭資源であると考え,原子力の開発に努力して来た。フォード大統領が,1975年1月のエネルギー教書において1985年までに200基の原子力発電所を運転させると表明していることからもこの意欲がうかがえる。
 しかしながら,現実の原子力発電開発は,資金難,反対運動等のため大幅に遅延することを余儀なくされており,1975年中には4基しか発注されなかった。
 原子力開発の進展に伴い,一部の州で反対運動が活発になっており,本年6月8日にはカリフォルニア州において原子力開発の規制をめぐっての住民投票が行われた。この制度は「イニシアチブ(州民発議)」と呼ばれているもので,「提議15番」(Proposition 15)としてかけられた。その内容は,原子力損害賠償限度額を撤廃するとともに,安全システムが有効であり,また放射性廃棄物の処分が可能であることを発議通過後5年以内に州議会が確認しない限り,原子力発電所の新規の立地を禁止し,また既存のプラントの出力を低下させるというものである。投票の結果,この提議に賛成するものが33%,反対するものが67%で,この案は否決された。
 また,同様な趣旨のイニシアチブ投票がアリゾナ他6州で11月2日行われたが,いずれも次表に示すように否決された。

(2)英国
 英国は,米国と並んで早くから原子力開発に着手したが,北海の油田の発見などからここ数年は開発テンポが鈍くなっている。
 英国は1956年,コールダーホールで初めて商業用原子力発電所の運転に成功して以来,このコールダーホール型炉を26基,約540万KW建設し,これらは現在も順調に稼動している。この型の炉は我が国の東海発電所,イタリアのラチナ発電所でも採用されている。
 しかし,この炉は出力密度が小さく,出力を大きくすると炉が大型になり経済性が低下するため,英国では次の段階の炉として,微濃縮ウランを燃料とし,被覆材をマグネシウム合金からステンレススチールに変えた改良型ガス冷却炉(AGR)を開発した。この型の炉は合計10基,約600万KWが建設されたが,各種のトラブルにより運転開始は大幅に遅れており,現在このうちの2基が発電を開始しているのみである。このように従来,英国はガス炉を中心に開発を進めてきたが,1974年,第3段階の炉型として重水減速軽水冷却型(SGHWR)を採用することとした。その選定の理由として,信頼性が高いこと,早期に建設が可能であること,自主開発の炉であること等をあげている。
 しかし,最近,英原子力公社(UKAEA)の専門家グループが,米国型軽水炉は英国の安全基準に合致すると結論づけた報告書を公表したのにつづいて,中央電力庁(CEGB)長官がSGHWRは旧式であるという見解を発表したことから,SGHWR計画について再検討の気運がでてきている。

(3)フランス
 フランスで現在運転中の原子力発電所は,合計10基,約300万KWであるが,これらの原子炉は高速増殖炉のフェニックスなど2基を除いて,すべてガス冷却炉である。このようにフランスは,英国と同様に初期においてはガス冷却炉を中心に開発を進めていたが,現在,ガス冷却炉をあきらめ,軽水炉を採用している。フランスは,石油危機以後,原子力開発に極めて積極的であり,1976年以降建設する発電所はすべて原子力発電にする計画を発表している。最近は,軽水炉のPWRへの一本化,核燃料公社(COGEMA)の設立,高速増殖炉等の建設会社であるNOVATOMEの設立等,原子力開発分野での体制整備も着々と進められており,南アフリカ,イランから原子力発電所の建設を受注するまでになっている。

(4)西ドイツ
 西ドイツの原子力開発は,我が国と同じようにかなり遅れて出発したが,第1〜4次の原子力計画を策定して原子力開発に重点的に投資してきた。これにより,西ドイツ独自の軽水炉技術を確立しており,ビブリスでは120万KWの容量をもつ世界最大の発電炉が,1975年から運転を開始している。西ドイツ型のPWRは,球型の二重格納容器を採用し,内部の運転管理保守が便利になっているほか,各種の改良が施されている。
 西ドイツではこのような原子力技術を背景に,1975年6月,ブラジルと原子力活動全般を包括する協力協定を締結している。

(5)カナダ
 カナダは,豊富な水力資源とタール・サンドのような化石燃料資源をその広い国土に保有しているが,資源生産地と資源消費地の間の距離が非常に大きいこと,人口が少ないため労働力が十分投入できないことなどから,燃料の輸送,貯蔵が容易な原子力発電を積極的に進めている。
 このような観点から,カナダの原子力発電は,人口の多い工業生産活動の盛んな五大湖周辺地域(オンタリオ州とケベック州)に集中して立地し,豊富に産出する天然ウランを燃料として使用できる独自の重水炉を開発しており,高速増殖炉が完成するまで,これによる発電を進める計画である。

(6)ソ連
 ソ連は世界に先がけて原子力の平和利用に着手し,1954年には世界最初の原子力発電に成功した。この原子炉は黒鉛減速・軽水沸騰冷却圧力管型(チャンネル型原子炉)であった。以後,原子力発電の開発は,黒鉛炉(チャンネル型),加圧水型炉(PWR)及び高速増殖炉(ナトリウム冷却FBR)の3種類の炉型に絞って進めてきている。ソ連の原子力発電所の建設地は資源の分布からみて,ウラル地方以西が中心となっているが,北極圏においても,原子力発電所が建設されており,暖房用,工業用などに余熱の多目的利用が行われている。


目次へ          第2章 第1節へ