第1章 原子力発電
5 原子力発電所の安全確保

 原子力の開発利用は,安全の確保が大前提であり,国は開発の当初から,安全の確保について十分留意し,必要な法令を定め,これに基づく厳重な規制や諸施策を講じてきたところである。

(1)原子力発電所の許認可手続きの概要

 原子力発電所の許認可手続きの概略は,次のとおりである。
①計画段階
 原子力発電所の設置計画は,まず電源開発促進法に基づいて,国土の総合的な開発利用及び保全,電力の需給その他電源開発の円滑な実施を考慮して策定される電源開発基本計画に組み入れられて決定される。
 電源開発基本計画は,原子力発電所に限らず水力及び火力発電所等全てを含めたものであり,内閣総理大臣以下,通商産業大臣,経済企画庁長官などの関係各大臣と学識経験者から構成される電源開発調整審議会(電調審)の議を経て,国の総合的立場から決定される。
 この計画決定の重要性に鑑み,電調審においては,「新規着手地点に係る立地基準」を設け,環境問題についても十分審議することとしており,この審議にあたっては,通商産業省から環境審査報告書が提示されることとなっている。
 また,必要に応じて,電調審において関係都道府県知事の意見を聴取している。
②設置段階
 電源開発基本計画に組み入れられた原子力発電所については,その原子炉の設置許可申請が内閣総理大臣に対して提出される。
 内閣総理大臣は,原子炉が平和の目的以外に利用されるおそれがないこと,原子炉施設の位置,構造及び設備が災害の防止上支障がないものであることなどの基準に適合しているときにその設置を許可するが,この場合あらかじめ原子力委員会の意見をきき,その意見を尊重しなければならないことになっている。
 原子力委員会は,内閣総理大臣から諮問を受けると,原子炉の安全性に関する事項については,原子力委員会に設置されている原子炉安全専門審査会に対し,調査審議すべき旨を指示する。
 同審査会は,原子炉施設の安全性,平常運転時の被ばく評価,事故時における周辺住民の安全性などについて,あらゆる面から調査審議を行い,その審査の結果を原子力委員会に報告する。なお,原子力委員会は,昭和48年5月に公聴会制度を発足させ,必要と認めるときは公聴会を開催し,地元関係者の意見を同審査会の審査等に反映させることとした。
 一方,通商産業省では,電気事業法に基づき,電気工作物の変更として,その安全性などを審査している。
③建設段階
 電気事業者は,内閣総理大臣の設置許可を受けたあと,電気工作物設置の工事計画を作成し,通商産業大臣の認可を受けて初めて工事に着手できる。
 また,工事着手後においても,工事の工程ごとに,通商産業省が燃料体検査,溶接検査,使用前検査などを行い,認可された設計どおり製作又は建設がなされているかどうか,予定どおりの性能が発揮できるかどうかの確認を行う。
④運転段階
 運転を開始する前に,原子炉設置者は運転時の安全確保上必要な事項を定めた保安規定を作成し,内閣総理大臣の認可を受けなければならない。保安規定には,運転,点検の具体的方法,運転管理上の職務及び組織,放射能の監視方法,廃棄物の処理方法,非常時にとるべき措置など必要な事項が規定され,原子炉設置者は,この保安規定に従って原子炉を運転しなければならない。さらに運転開始後においても,定期検査や立入検査などによって設備の安全性,安全管理体制などについて点検がなされる。また,原子炉設備が一定の技術基準に適合しなくなった場合には,施設の修理,改造,運転の停止を命ずることができる。

(2)原子炉の安全審査

 原子炉安全専門審査会は,昭和50年度には,九州電力(株)玄海原子力発電所2号炉(PWR型,電気出力559MW)の増設,東京電力(株)柏崎・刈羽原子力発電所(BWR型,電気出力1,100MW)の設置及び四国電力(株)伊方原子力発電所2号炉(PWR型,電気出力566MW)の増設の3件について,審議を行った。このうち,玄海原子力発電所2号炉については,審議結果をまとめ,当該原子炉の増設に係る安全は確保し得る旨,原子力委員会に報告し,残りの2件については,現在,審議を進めているところである。このほか,原子炉の設置変更(増設を除く)としては,中部電力(株)浜岡原子力発電所1,2号炉の変更(8行8列型燃料集合体の採用,可燃性ガス濃度制御系の設置)等14件について,審議結果が原子力委員会に報告された。
 原子力委員会は,上述の報告を受けてさらに審議を行い,その他の軽微な設置変更も含め,昭和50年度に合計23件について許可して差しつかえない旨,内閣総理大臣に答申した。
 内閣総理大臣は,原子力委員会の意見をふまえ,玄海原子力発電所2号炉の増設を昭和51年1月に許可したほか,昭和50年度に合計20件の設置変更許可を行った。
 これらの設置変更の主なものとしては,燃料の健全性をさらに向上させようとするもの(8行8列型燃料集合体の採用等),工学的安全施設の増強を図るもの(主蒸気隔離弁漏洩抑制系の設置等),平常時の被ばく線量を低減しようとするもの(低圧タービングランドシール蒸気源の変更等)があげられる。

(3)発電用原子炉の検査

 発電用原子炉の検査については,電気事業法により通商産業省が使用前検査,定期検査を行うほか,必要に応じ,原子炉等規制法により科学技術庁が,電気事業法により通商産業省が立入検査を行うことになっている。
 使用前検査については,昭和50年度は合計14基について行われるとともに,定期検査については,昭和50年度は,日本原子力発電(株)の東海発電所,敦賀発電所,東京電力(株)の福島第一原子力発電所1号炉,  2号炉,関西電力(株)の美浜発電所1号炉,2号炉,高浜発電所1号炉及び中国電力(株)島根原子力発電所の合計8基について行われた。
 これらの検査において発見され,または処置された主要な事象としては次のものがあげられる。
 昭和50年1月,アメリカのドレスデン原子力発電所2号炉の非常用炉心冷却系(ECCS)炉心スプレー配管にクラックが発見されたため,我が国でも敦賀,福島第一の1,2,3号炉,浜岡1号炉,島根の6基について2月より停止させ,点検を行った。この結果,敦賀発電所及び福島第一原子力発電所1号炉に「にじみ」が発見され,配管取替えを行った。
 福島第一原子力発電所2号炉は,昭和49年度に点検を行った再循環バイパス配管, ECCS系炉心スプレー配管には異常は発見されなかったが,昭和50年4月から行った定期検査で炉内計装管に隣接するチャンネルボックスに摩耗が発見された。このため,通商産業省資源エネルギー庁は,同型の福島第一原子力発電所3号炉,浜岡発電所1号炉の炉心流量を定格の40%以下とするように東京電力(株),中部電力(株)に指示した。資源エネルギー庁は,摩耗の原因は炉内計装管が炉心下部の冷却孔から,冷却水の流れで振動し,チャンネルボックスと接触したためと判断し,10月9日,冷却孔をふさぐよう指示した。
 美浜発電所1号炉は昭和49年7月17日,A蒸気発生器細管損傷により一次冷却水が2次系へ漏洩し,2次系の放射能濃度監視装置が警報を発したため,原子炉を停止した。また,美浜発電所2号炉においても昭和50年1月8日,蒸気発生器の細管漏洩が発生した。このような細管減肉の原因について,資源エネルギー庁は,原子力発電技術顧問会に専門家による特別委員会を設け,モデルループによる減肉再現試験等各種試験を実施し,その原因究明にあたってきた。その結果,これらの減肉現象は,二次冷却水の流れが妨げられる部分において,水質管理のために二次冷却水に注入されたリン酸ソーダの濃縮がおこったために生じたものと判明した。
 関西電力(株)では,二次冷却水の水質管理に揮発性の添加剤を使用するボラタイル処理を採用することとし,美浜2号炉については,リン酸ソーダ洗浄のためのサイクリング運転を行った上,昭和50年12月よりその運転を再開した。美浜1号炉についてはリン酸ソーダの使用期間が長いこと,すでに栓工事を行っている細管が多いことなどの影響を含め,さらに検討を進めることとしている。
 なお,現在,そのほかのPWR型原子炉についてはボラタイル処理に切換えられている。
 高浜発電所1号炉については,昭和50年11月28日から本年6月16日まで,電気事業法に基づき資源エネルギー庁が定期検査を実施した。その際,蒸気発生器については,渦電流探傷検査を行った結果,10,164本の細管のうち98本に減肉が確認された。この減肉は,試運転の初期のリン酸ソーダ処理時において,リン酸ソーダの濃縮により発生したもので,ボラタイル処理に切り替えた以降に進行したものではないと判断された。なお,減肉の認められた細管については,栓工事を実施した。

(4)原子力発電所の故障

 昭和50年度中に原子炉規制法に基づく原子力発電所の故障に関する報告は3件あったが,いずれの場合も従業員の被ばく及び周辺公衆への影響はなかった。それらの概要は次のとおりである。
① 昭和50年6月,九州電力(株)玄海原子力発電所1号炉の復水器空気抽出器出口ガスモニタが警報を発し,その後蒸気発生器ブローダウン水モニタの指示も上昇しはじめたため,同ブローダウン水を分析した結果,A蒸気発生器よりの漏洩の疑いがもたれたので,原子炉を停止した。A蒸気発生器点検の結果,この蒸気発生器内に異物(金属製巻尺)が確認され,この異物による細管外面の擦傷に起因する漏洩であることが判明した。この漏洩によって空気抽出器排ガス系から環境へ放出された放射能は,0.033キュリーであり,周辺への影響を監視するモニタリングポストの指示も通常運転時と変化なく,周辺公衆への影響はなかった。A及びB蒸気発生器について詳細点検,損傷の修理を実施し,同年9月に運転を再開した。
② 昭和50年6月,関西電力(株)高浜発電所1号炉のA系統給水流量の急減が確認され,主給水弁を作動させた結果,A主給水弁に異常が認められたため,原子炉を停止した。A主給水弁を点検した結果,弁の先端ネジ部における溶接不良が発見されたことから,他の給水弁についても点検するとともに,A主給水弁の修理を行った。この故障によって従業員及び周辺環境への影響は認められず,10日後に運転を再開した。
③ 昭和51年3月,日本原子力発電(株)敦賀発電所のタービン設備主蒸気止め弁の定期閉止テスト中に,タービン設備主蒸気止め弁のテスト用電磁弁に異物をかみ込んだため,主蒸気止め弁が誤動作し,原子炉が停止した。
 この故障による従業員の被ばく及び周辺環境への影響はなく,詳細点検を実施した結果,主蒸気止め弁のテスト用電磁弁以外の機器には何ら異常がないことが判明したため,故障した弁を取り替え,4日後に運転を再開した。
 昭和50年度中に電気事業法に基づき報告された原子力発電所の異常件数は8件あったが,これらの故障はいずれも原子炉に重大な影響を及ぼすものではなく,また,従業員の被ばく及び周辺公衆への影響はなかった。
 なお,上記の8件には前述した原子炉等規制に基づいて報告のあった3件が全て含まれている。 


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