第6章 国民の理解と協力を得るためた

 我が国の原子力開発利用は,第1章に述べたごとく,現在,広汎多岐にわたる課題に直面しているが,この課題の克服のためには,何よりもまず,国民の理解と協力を得ることが欠くことのできない前提である。
 新しくかつ複雑な科学技術が社会に導入され定着するまでには,概して社会の一部にある種の違和感がかもしだされるという事実からみて,原子力開発利用をめぐってさまざまな意見が提起されることは,それが巨大科学技術であり,かつ,最先端のものであるということからみて,また,過去に,我が国民が不幸な体験を持ったという事実からして十分理解していかなければならない。
 しかし,原子力についての理解の不足等のため,我が国の原子力開発利用が円滑に進展できないような事態に陥り,将来の我が国エネルギー供給に不安を残すことがあってはならないと考えている。我が国のエネルギー事情,原子力の必要性,安全性等について広く議論が行われ,その結果原子力についての理解が深まることを期待するものである。
 このため,原子力委員会としては,政府,関係地方公共団体,原子力施設設置者及び関係産業界が,原子力の知識について広く国民一般及び地域住民に対して正しい知識を提供し,原子力開発利用に対する国民の不安や疑問に応えるための十分な努力を払うことを強く要望するものである。
 しかし,真に国民の理解と協力を得ていくためには,上述した関係者の努力だけでは十分ではなく,科学者,専門家,報道関係者等国民各層の協力に依るところが極めて大きいと考えるものである。
 原子力委員会としては,原子力年報,原子力委員会月報等の編集,安全審査関係資料の公開等を通じ,我が国における原子力開発利用の進め方,考え方,安全審査の内容,原子力委員会の活動状況等を国民に明らかにすることによって,これまでも,原子力に関する正しい知識の普及,理解の向上に努めてきたところであるが,今後は,これらの一層の充実に加えて,科学者,専門家による意見の交流の場としての原子力シンポジウムの開催,国民及び地域住民の意見を反映させるための公聴会制度の改善,国民の不安解消を図るための安全性実証試験の推進等,国民の理解と協力を得るよう所要の措置を講じていく決意である。

(不安感解消のための努力)
 我が国における原子力開発利用は,その当初から安全の確保と環境の保全を大前提として進めてきたところであるが,国民の間には,原子力の安全性に対する不安感が依然として存在しており,今日,その立地を困難なものとしている。
 このような状況を打開していくためには,原子力発電所等の設置者が,その信頼性向上に努め,原子力発電等の安定した運転実績の蓄積を図るとともに,原子力委員会としても安全性実証のための試験研究を推進することによって,国民が原子力の安全性を実感として理解しうるよう努めることとしている。また,政府においては,原子力開発利用の進展に対応して,安全規制行政をこれまで以上に充実し,さらに国民の原子力に対する理解を助けるため,普及啓発活動をより一層強化する必要がある。

(国民の意見の反映)
 国民或いは原子力施設立地地域住民の中には,原子力開発利用をめぐって,原子力の安全性,環境保全,地域開発等について,国民との意思疎通を十分に行い,これを原子力行政に反映させるべきであるとの意見が高まっており,最近では住民参加についても要望されている。
 原子力委員会においては,このような要請に応えるため,昭和48年5月に「原子炉の設置に係る公聴会開催要領」を決定し,同年9月,福島第二原子力発電所の設置に際し,公聴会を開催した。さらに,本年には,柏崎・刈羽原子力発電所の設置に関して公聴会を開催すべく前述の開催要領を改正し,開催時間の延長,開催者側としての説明追加及び見解表明を行う機会の増加等の改善を図ったが,地元開催には至らず,これに代えて,地元利害関係者の意見を文書で聴取し,安全審査に反映させることとした。この種の公聴会については,今後,「原子力行政懇談会」の意見をも踏まえて,我が国の法制,社会制度をも考慮してその性格等を再検討し,適切に国民の意見が反映されるような施策を講じていくこととしている。
 また,科学者,専門家により,原子力開発利用をめぐる基本的問題についての討論を行うため,原子力シンポジウムの開催を計画し,日本学術会議の協力を得て,昨年末より準備を進めてきたが,以来,約1年を経た現在においても諸般の事情によりその開催には至っていない。原子力委員会としては,このようなシンポジウムは,今後の原子力政策にとって,極めて有意義であると考えるので,極力,その実現に努力していく考えである。
 さらに,科学技術庁では,原子力開発利用全般についてより良く国民の考え方を聴くため,原子力モニター制度の発足についての準備を進めている。

(きめ細かい地域対策の実施)
 原子力施設の立地を円滑に進めるためには,何よりもまず立地周辺住民の理解と協力を得ることが不可欠である。原子力発電による電力供給に伴う利益は,広く享受されるのに対して,立地に伴う地域独自の問題があることを充分認識して,電源開発の立地対策の一環としてきめの細かい地域対策を進める必要がある。
 政府においては,地元の協力を得て,原子力発電所等の立地の円滑化を図るため,いわゆる電源三法を制定した。これは電気事業者から販売電力量に応じた電源開発促進税(1,000KW時につき85円)を徴し,これを財源として,発電用施設周辺の地域における道路,港湾,公民館,診療所等の公共施設の整備のほか,原子力発電所周辺の放射線監視,温排水影響調査,広報対策事業等を行うための経費を関係地方公共団体等に対して交付するものである。また,国と地方との連絡及び地元との対話の増進を図るため,原子力連絡調整官を原子力施設立地地域に配置し,その拡充を図ってきている。
 原子力委員会としては,このような政府の施策を一層強化し,関係地方公共団体の協力に応えうるよう努めるとともに,地域住民に直接接する原子力施設設置者自身が,地域住民に対して,より一層きめ細かく配慮するよう望むものである。


目次へ          第2部 第1章 第1節へ