第2章 核兵器不拡散条約の批准と原子力平和利用の推進

 我が国における原子力開発利用は,原子力基本法に基づき一貫して平和の目的に限って進めてきたところである。国際的には,昭和45年3月,核兵器不拡散条約(NPT)が発効したが,我が国は,同条約の署名に際し,核軍縮が促進されること,同条約に加盟した非核兵器保有国の安全が効果的に保障されること,原子力の平和利用面において他の締約国との実質的な平等性を確保すること等の点において強い関心を有する旨の声明を発表した。
 これらの問題については,その後,米ソ間の核軍縮への努力や国際連合安全保障理事会における「非核兵器保有国の安全保障に関する決議」の採択等,事態の進展がみられた。さらに, NPTに基づく保障措置の受入れに関する国際原子力機関(IAEA)との協定に関して,我が国は,IAEAとの間で数次にわたって予備的交渉を重ねた結果,昭和50年2月,原子力平和利用面における他の締約国との平等性確保の見通しを得ることができた。
 このような事態の進展を背景として,我が国は,本年5月,第77回国会においてNPTを承認し,本年6月,批准書を米国,英国,ソ連の3カ国に寄託し,97番目の加盟国となった。
 このことにより,核燃料等の利用にあたり,その供給国,我が国及びIAEAとの間で三者間協定を結び,IAEAによる査察を受け入れてきた従来の保障措置体制から,今後はNPTに基づく保障措置体制へ移行することとなり,政府において,現在,そのための自主査察体制の整備等を進めているところである。
 一方,石油危機以降,発展途上国がエネルギー源として原子力ヘ強く指向しているなかで,インドの核実験等を契機として,世界的に核拡散への懸念が急速に高まり,核拡散防止体制の強化の動きが活発になってきている。
 すなわち,NPTに基づく核拡散防止に関する規制を一層効果的にするため,NPT締約国による再検討会議が昭和50年5月,同条約発効後初めて開催された。その結果,核燃料,原子力資材等の提供に際しては,NPT締約国を優遇する旨の決議が採決されている。
 すでに,米国は,このような国際的な動きの主唱者として,これまでにも原子力関係機器24品目の条件付輸出規制を実施する一方,核燃料サイクルセンター構想を提唱するとともに,輸出規制に関する他の輸出国との協議等を通じて,核拡散の危機を防止するための国際協力を積極的に呼びかけている。
 原子力委員会としては,我が国がこのような時期にNPTを批准し,原子力開発利用を平和の目的に限ることを基本理念とする我が国の姿勢を内外に明確に示したことは,今後の原子力開発利用を円滑に進める上において時宜を得て非常に好ましいものと考えている。
 また,核拡散防止を強化するため,核物質防護の措置が強く要望されるところから,原子力委員会は,本年4月,「核物質防護専門部会」を設置して,核物質防護対策の検討を進めている。
 しかし,最近は,核拡散防止の観点から保障措置及び核物質防護を強化するとともに,再処理技術,濃縮技術,原子力資材等の輸出制限の措置を国際的に一層強化する動きが活発になってきており,これらの動きが,非核兵器保有国の核燃料政策に影響を及ぼす恐れが出てきている。ウラン資源に恵まれない我が国が原子力開発利用を円滑に進めるためには,我が国に適した核燃料サイクルの確立を図っていくことが必要であり,このような最近の新たな国際動向に十分留意しつつ,国際社会の一員として適切に対処していく必要があると考える。


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