1 国際機関との協力

 国際原子力機関(IAEA),OECD原子力機関(NEA),国際エネルギー機関(IEA)による原子力開発利用に関する政府間会議シンポジウム,パネル等の国際会議に積極的に参加する等国際機関を通じての国際協力を活発に進めた。

(1)国際原子力機関(IAEA)

 我が国は,IAEAに1957年創立と同時に加盟し,その後引き続き理事国として原子力平和利用の推進のために努力をはらっている。IAEAの主な業務は以下のとおりである。
(i)技術援助
(ii)核物質等が軍事目的に利用されないための保障措置
(iii)基準の策定
(iv)INISを中心とした情報の交換
 昭和48,49年度のIAEAの主な活動は,原子力の安全確保並びに環境保護,原子力に関する開発途上国援助の実施及び核兵器不拡散条約(NPT)あるいはその他の協定に基づく保障措置の実施であった。
 原子力の安全確保並びに環境保護の作業のうちでは,昭和47年11月にロンドンで採択された「廃棄物およびその他の物質の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」によりIAEAに付託されている海洋投棄に不適当な高レベル放射性廃棄物及び放射性物質の定義づけとそれ以外の放射性物質についでの投棄許可基準の勧告の作成作業がとくに重要な問題であった。IAEAは,本件作業のために昭和48年4月16日から20日まで及び6月4日から8日まで各国の専門家による会合及びパネルを開催したが,我が国からも関係者を派遣して検討に参加した。その結果,昭和49年9月理事会においてIAEA勧告が策定された。
 その他,「原子力発電所の信頼性評価方法パネル」,「原子力施設周辺の環境監視シンポジウム」,「原子力発電所の国際安全基準作成専門家会合」等に専門家を派遣した。
 また,昭和49年11月にはIAEA主催,第5回プラズマ物理及び制御核融合研究国際会議が東京において開催され,世界24ヵ国から約450名が参加した。
 原子力に関する開発途上国援助については,我が国からはIAEAの依頼により,昭和48年12月3日から18日までバンコクで開かれた「原子力発電導入の技術的,経済的側面の解説のための地域コース」に講師を派遣した。また,韓国の第2,3号炉の安全解析のために専門家を派遣したほか,ハンガリー,ブラジル等から研修生をうけいれ,日本原子力研究所等で研修を行うなどIAEAの技術援助活動に協力した。
 なお,IAEA加盟国は昭和48年9月に開催された第17回総会において東独,モンゴルの加盟が,昭和49年9月に開催された第18回総会において朝鮮民主主義人民共和国,モーリシャスの加盟が承認され,現在106ヵ国となった。

(2)OECD原子力機関(NEA)

 OECD原子力機関の前身である欧州原子力機関(ENEA)は,1957年に設立された。我が国は,1965年に準加盟したが,ENEAが加盟国を拡大するとともにその活動分野を研究開発中心から核燃料や環境安全問題等の政策面にも拡充する方針を打出したため,1972年に正式加盟した。それと同時1にENEAは,OECD-NEAと改称された。
 NEAの行っている共同事業は以下のとおりである。
① ユーロケミック(使用済燃料再処理事業)
② ハルデン計画(沸騰重水炉開発計画)
③ ドラゴン計画(高温ガス冷却炉開発計画)
④ 中性子データ編集センター
⑤ 計算機プログラムライブラリー
⑥ 新国際食品照射計画
 我が国は②,④,⑤,⑥に参加するほか,各種委員会,スタディグループ等において活動を行っている。
 1973年4月,OECD理事会によりNEAの新活動計画が承認されたことにより,NEAは原子力の安全及び規制に関する問題の検討に力を注ぐこととなった。このため主として軽水炉の技術的安全性を検討してきた委員会(CREST)を原子力施設安全性委員会(CSNI)に改組し,広く原子力施設全体についての安全問題,規制問題を扱うこととした。また,ガス冷却高速炉開発の調整グループには実施機関として日本原子力研究所が参加し,我が国は9番目の参加国となった。原子力損害第三者責任及び放射線障害防止の分野については,関連国際取決めあるいは関連勧告と我が国の国内法との関係を明確にするための作業に,我が国関係者がNEAコンサルタントとして積極的に参画した。昭和48年7月に実施された放射性廃棄物の大西洋投棄作業にあたっては,我が国より専門家をエスコーティングオフィサーとして,また,昭和49年7月の作業には陸上立合人として派遣した。
 エネルギー危機に関連して,OECDでは昭和50年1月にエネルギーの「将来需給評価」を発表したが,NEAで行った原子力関連作業に対しては,我が国も原子力開発状況等についての情報提供を行い,NEA活動に協力した。
 また,昭和49年3月に第17回核データ委員会が東京において開催され,8カ国,2関係機関からの専門家が参加して討論を行った。
 なお,NEA加盟国は,オーストラリアが加盟したため20カになった。

(3)国際エネルギー機関(IEA)

 昭和49年2月ワシントン・エネルギー会議での合意に基づいて設置されたエネルギー調整グループは,昭和49年11月に至るまで9回にわたる会合を開き鋭意検討を進めた結果,緊急時の石油融通,エネルギー長期国際協力等を主たる内容とする「国際エネルギー計画」を策定し,同計画を実施するため,の「国際エネルギー機関」を新設することを決定した。そして昭和49年11月15日OECD理事会の決議により,「国際エネルギー機関」はOECDの枠内に設置されることとなった。
 IEAで検討されている事項のうちエネルギー長期協力関係では,エネルギー節約,代替エネルギーの開発,エネルギー研究,開発及びウラン濃縮の4分野が含まれている。エネルギー研究,開発の分野のうち,原子力関係では,原子力安全性,放射性廃棄物処理及び核融合について国際協力を進めることになっている。

(4)国連放射線科学委員会

 国際連合原子力放射線の影響に関する科学委員会(国連科学委員会,UN SCEAR)は,1955年12月の第10回国連総会の決議により設立され,1956年に第1回委員会が開催されて以来,毎年1~2回開催されてきた。本委員会に対する国連総会の付託事項は,国連加盟国又は専門機関加盟国から提供される①環境における電離放射線と放射能の観測されたレベルに関する報告,②人とその環境に対する電離放射線の影響に関する科学的観察について各国の科学研究機関や政府関係機関によりすでに着手されているもの又は予定されているものに関する報告等を受理し,これらを適切で有用な形にまとめ,国連総会に報告することなどである。
 第28回国連総会は,1973年11月13日,決議により科学委員会をすみやかに開催し,1972年報告書以降に得られた資料について検討するよう要請した。
 この要請に基づき,科学委員会の特別委員会が1973年11月26日,27日の両日にわたり,ニューヨークの国連本部において開催され,我が国からは政府代表として放射線医学総合研究所御園生圭輔所長が出席した。
 今回の検討結果の主な内容は,
① 1971,1972年の両年に行われた核実験により,環境に放出されたストロンチウム-90とセシウム-137の量は1972年報告書に述べられた総量をわずかに増加させた。
② 1972,1973年の両年におけるヨード-131のレベルと甲状腺線量は1972年報告書に記載されているレベルと同等かそれ以下であった。
③ ストロンチウム-90やセシウム-137のような長寿命核種により全世界人口が2000年までに受ける総量の推定値については,1973年までに得られたデータに基づくと,1972年報告書の値を改訂する必要はない。
 等であった。
 この特別委員会の報告を受けた際,国連総会では科学委員会の活動を強化する旨の決議を行い,この決議に基づき,委員会メンバー国として従来の15カのほかに,新たにインドネシア,ペルー,西ドイツ,ポーランド,スーダンの5カを加えることとなった。


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