2 原子力船の研究開発

 昭和47年6月に策定された原子力開発利用長期計画によれば,我が国の原子力船の研究開発は,第1船「むつ」を建造することにより,原子力船の建造及び運航に関する技術的体系を確立し,第2船以降の建造については,民間において自主的に進められることが期待されている。
 原子力船が実用商船として運航されるためには,安全性,信頼性が十分であること,在来船に比べて経済的に競合しうること,国際法上航行,入出港の自由が在来船におけると同様に十分保障されていること,燃料交換施設,修理施設等の諸設備が整備されていること,放射性廃棄物の処理体制が整っていること等が満足されていなければならない。
 現在就航している世界の原子力商船の数も少なく,運航実績もあまり多くないところから,原子力船時代の到来の時期を現時点で予測することは必ずしも容易ではない。しかしながら,今後の国際経済の発展に伴う船舶需要の増大,原油価格の高騰傾向等から,原子力船に対する評価は,西ドイツ,米国等を中心に世界的に再び高まってきている。原子力船の開発には,非常に長年月を要するため,我が国としても,日進月歩の技術開発の進展に対応して,舶用炉に関する技術的ポテンシャルを,海外の動向をもみきわめつつ,着実に蓄積しておく必要がある。
 原子力船実用化の技術的問題点の大部分は,実用的な舶用炉の開発にあり,一次系機器のモジュール化,炉心の長寿命化,高出力,高密度化を図るとともに,遮蔽構造,格納容器等安全防護設備を含めた舶用炉全体の小型軽量化を達成し,かつ,振動,動揺,衝突等の船舶特有の問題に対して,十分対処できるものである必要がある。このような観点から,昭和48年度及び昭和49年度に実施された主な試験研究は次のとおりである。
 運輸省船舶技術研究所においては,原子力船における中性子の遮蔽に関する実験的研究,半潜水船の推進性能に関する研究,舶用軽水炉の小型化の研究及び繰返し振動の燃料破損の及ぼす影響の研究等基礎的研究が実施され,また,社団法人日本造船研究協会においては,原子力平和利用研究委託費により,昭和49年度,舶用一体型加圧水炉の概念設計に関する試験研究,昭和49年度,舶用炉型式の技術評価に関する研究を実施した。


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