1 新型動力炉の開発

 我が国では,昭和42年に設立された動力炉・核燃料開発事業団が,内閣総理大臣の定めた動力炉開発業務の基本方針及び基本計画にしたがって実施している。
 基本方針(昭和43年3月決定)第1次基本計画(昭和43年4月決定,昭和45年度まで)第2次基本計画(昭和46年4月決定,昭和50年3月修正,昭和50年度まで)昭和46年4月に決定された第2次基本計画では,高速増殖炉については,①実験炉を昭和49年に臨界に至らせるべく建設を進める。②原型炉を昭和53年頃に臨界に至らせることを想定して,所要の研究開発を進める。また,新型転換炉については,原型炉を昭和50年に臨界に至らせることを目標に建設を進めることとしていた。
 しかしながら,これらの新型動力炉開発においても,高速増殖炉原型炉では建設資金がかなり膨大になる見通しであること,新型転換炉の原型炉以降をどのように開発していくかなどの問題があり,また,民間においては高温ガス炉等を導入しようとする動きが現われてきた。
 このような事情に鑑み,原子力委員会では新型動力炉全般にわたって開発の進め方を検討するため,昭和50年7月「新型動力炉開発専門部会」を設置した。一方,動力炉・核燃料開発事業団の行う動力炉開発については,本年3月,第2次基本計画を一部修正のうえ,1年間延長することとした。主な修正点は以下のとおりである。
① 高速実験炉の臨界時期を昭和49年から51年に変更する。
② 高速増殖炉原型炉を可能な限り早期に臨界に至らせることとする。
③ 新型転換炉原型炉の臨界時期を昭和50年度から52年に変更する。
④ 高速増殖炉燃料の再処理技術の研究,安全管理技術等の研究開発を動力炉開発の一環として行う。
 動力炉開発に投入された資金は,昭和49年度までに約1,800億円である。

(1)高速増殖炉の開発

イ 実験炉の建設

 動力炉・核燃料開発事業団は,先に述べた基本方針及び基本計画に基づき,プルトニウムとウランの混合酸化物系燃料を用いるナトリウム冷却型高速増殖炉の開発を進めている。
 実験炉は,我が国初のナトリウム冷却型高速増殖炉であり,この設計,建設,運転を通じて高速増殖炉に関する技術的経験を蓄積するとともに,完成後は,燃料,材料等の照射施設として利用することを目的としている。
 実験炉の建設については,昭和45年2月,原子炉等規制法に基づく設置が許可され,茨城県の大洗工学センター内において,建設に着手し昭和48年度までに,原子炉建屋,運転管理棟,廃棄物処理建屋等土木建設工事を終了した。機器については,昭和46年度に格納容器の据付けが終了したあと,昭和48,49年度にかけて炉容器,炉心構造物,回転プラグ,燃料交換機,制御棒駆動機等が順次とり付けられ,昭和49年末に機器据付けを完了し,昭和50年1月から総合機能試験を実施している。

ロ 原型炉の設計

 原型炉は,設計,建設,運転の経験を通じて高速増殖炉の性能,信頼性,′安全性を確認し,さらに将来の実用炉の段階における経済性の目安を得ることを目的としている。
 原型炉の設計については,昭和43年度に行った予備設計によって基本概念を固め,昭和44年度から昭和45年度にかけて,第1次設計で炉心及びプラントの主要パラメータの検討評価を行い,第2次設計,第3次設計により原型炉のプラント全体の設計を行った。
 昭和48,49年度にかけて調整設計を行い安全性等を含め,詳細な検討を行った。

ハ 研究開発

 動力炉・核燃料開発事業団は,大洗工学センターを建設し,研究施設の整備を進めてきた。
 高速増殖炉関係では,ナトリウム流動伝熱試験装置,ナトリウム材料試験ループ,ナトリウム機器構造試験施設,照射燃料試験施設,大リークナトリウム―水反応試験施設,小リークナトリウム―水反応試験施設,ナトリウム分析棟,1MW蒸気発生器試験施設が完成しており,昭和48,49年度に,照射材料試験施設,水流動試験施設,50MW蒸気発生器試験施設,燃料集合体検査施設等がほぼ完成し,それぞれ研究開発を進めている。
 また,東海事業所には,プルトニウム燃料加工施設及び研究開発施設が建設されており,新型動力炉のための燃料加工及び研究を行っている。
(i)炉物理
 高速増殖炉の炉物理実験は,主に,日本原子力研究所に設置されている高速臨界実験装置(FCA)を用いて行われている。昭和48,49年度は前年度に引き続き原型炉炉心の部分モックアップ実験を行って炉物理実験を実施している。
 また,英国原子力公社の大型臨界実験装置(ZEBRA)を利用した原型炉炉心のフルモックアップ実験の解析を行った。
 その他,高速炉用炉定数の作成,炉心計算コードの作成,燃焼解析コードの作成等が進められた。
(ii)ナトリウム技術
 ナトリウム中での構造材料の特性を調べるため,材料試験ループ及び放射化材料試験ループ等を用いて,質量移行試験,各種クリープ試験等を行った。
 また,ナトリウム流動伝熱試験装置を用いて,各種機器の耐久試験,確性試験を行った。
(iii)構造機器,部品
 実験用構造機器については,ナトリウムポンプループ,耐久試験ループを用いた1次ポンプ,2次ポンプの耐久試験及び燃料出入機の確性試験等を行った。
 原型炉用構造機器については,燃料交換機,制御棒駆動機構等のモックアップテストを進め,ナトリウム中試験等を行うとともに,回転プラグ,炉心クランピング機構,供用期間中検査装置等の試作開発を行った。
(iv)計測制御研究開発
 核計装では,炉外中性子検出器特性試験,炉内中性子検出系照射試験等を進めた。
 破損燃料検出系では,希ガスのナトリウム中溶解度測定,タギングガス法の計算コード開発等を行い,また,温度計,流速計,液面計等の開発試験を行った。
(V)燃料,材料の開発
 東海事業所において,原子炉の照射用燃料ピンの製造,評価及び製造技術の開発等並びに実験炉の初装荷燃料の製造を行った。
 また,燃料ピン,被覆管,集合体部材等について,照射試験を継続し,照射が終了したものについて,照射後試験を行った。
(vi)安全性
 炉容器モデルの耐衝撃試験,1次冷却系配管破断試験,ナトリウム過渡沸騰,燃料破損伝播試験等を実施するとともに,冷却材事故及び反応度事故模擬炉内試験を開始した。
(vii)蒸気発生器の開発
 ナトリウム―水反応試験装置等を用いて,蒸気発生器におけるリーク時の現象把握を進めるとともに,50MW蒸気発生器試験施設の完成により,大型蒸気発生器の試験運転を行った。

(2)新型転換炉の開発

イ 原型炉の建設

 我が国では,先に述べた基本方針及び基本計画に基づき,核燃料の多様化と有効利用を図る観点から動力炉・核燃料開発事業団を主体に重水減速沸騰軽水冷却型炉の開発が進められている。
 原型炉は昭和45年11月原子炉設置許可をうけ,福井県敦賀市において建設を開始した。昭和49年度に主建屋の建設をほぼ終了し,昭和49年11月から機器の据付けを開始した。現在,カランドリアタンク等炉心構造物の据付け工事を進める一方,タービン発電機,蒸気ドラム等の機器の製作が進められている。臨界は昭和52年の見込みである。

ロ 研究開発

 新型転換炉関係の研究施設では,重水臨界実験装置,大型熱ループ,部品機器試験施設,安全性実験施設はすでに完成し,本格的な実験が行われている。

(i)炉物理
 大型重水臨界実験装置(DCA)を用いて,昭和48,49年度にかけてプルトニウム―ウラン混合炉心の模擬臨界実験を行い,解析を進めた。
(ii)伝熟流動
 大型熱ループを用いて,実物大模擬燃料集台体によるバーンアウト実験を行い,炉心内の熱水力学データの確認,バーンアウトマージンの確認等,各種試験を行った。
(iii)主要部品,機器
 圧力管及びカランドリア管と異種金属の接合部,シール,プラグ等の試作開発を引き続き行うとともに,燃料交換機,燃料移送設備の総合機能試験を行った。
(iv)燃料,材料の開発
 原型炉燃料の照射試験を日本原子力研究所の材料試験炉(JMTR),ノルウエーのハルデン炉及び英国のSGHWR等の炉で行い,一部照射が終了したものについて照射後試験及び解析を行った。
 また,被覆管,圧力管,カランドリア管等のクリープ試験,脆性破壊試験を行った。
(v)安全性
 非常冷却系について,破断検出器の性能試験及び原子炉水位の低下,蒸気ドラム水位の低下について実験を行い,非常時の冷却性能の確認を行った。
 供用期間中検査機器については試作開発を進めた。
 その他弁類等の性能,耐久性試験を行った。


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