2 原子力発電開発の円滑化のための施策

 原子力発電所の建設が本格化するのに従い,異議申立て,行政訴訟にみられるように地元民の一部における反対運動が活発化し,原子力発電所の立地問題は困難なものとなっている。
 このためには,原子力の環境,安全問題に対する理解を求めることが第一であるが,さらに公開資料室の設置,公聴会制度の発足,電源三法の施行等我が国の原子力発電所の立地点により国民の理解と協力を得るための方策を講じている。

(1)公開資料室の設置

 原子力開発利用の進展に伴い,国民生活とのかかわり合いが増加している,現状においては,原子力関係の資料を縦覧に供することにより,原子力に関する正しい知識の普及と理解の向上に努めることが,安全性の確保と並んで極めて重要な役割を果すものと考えられる。
 かかる観点から,昭和48年5月から原子力局に公開資料室が設置された。
 公開資料室においては,原子炉設置者等の協力を得て,原子炉設置許可申請書,同添付書類,安全審査報告書等が縦覧に供されるほか,原子力委員会月報,原子力年報,原子力開発利用長期計画等の資料が備えられている。
 また,原子炉が設置される県の図書館にもその原子炉設置許可申請書,同添付書類,安全審査報告書等が縦覧に供されている。

(2)公聴会の開催

イ 公聴会の開催経緯

 原子力発電推進の気運が高まるにつれて,昭和46年から47年にかけて各電力会社から相次いで発電用原子炉の設置許可の申請が出された。これに対して,地元住民等から,原子炉の安全性,環境保全,地域開発等について地元住民の生の意見を聞きこれを反映させるべきであるとの要請がとみに高まってきた。
 原子力委員会としては,これまでも,原子炉設置について諮問を受けた場合,地元の意向に対してできる限りの配慮をしてきたが,原子力利用の推進に当っては,地元住民の理解と協力とを得ることがとくに重要であることに鑑み,必要な場合公聴会を開催することとし,昭和48年5月にその開催要領を,また,同年7月,その実施細則を,それぞれ決定した。

ロ 福島第二原子力発電所原子炉の設置に係る公聴会

 福島第二原子力発電所原子炉設置許可の申請は,昭和47年8月になされ,原子炉安全専門審査会の審査も,同年9月に開始されており,公聴会開催要領決定の時には,既にかなり審査が進捗していたが,同発電所原子炉の設置について公聴会を開催することとし,原子力委員会は,昭和48年8月1日,福島第二原子力発電所原子炉の設置について,昭和48年9月18日及び19日,福島市において公聴会を開催する旨の告示を行った。
 公聴会の経過は次のとおりであった。
 まず,意見陳述者については,陳述希望者が1,404人に達したが,原子力委員会は厳正かつ慎重に検討した結果,地元の各界各層を代表すると考えられる者42人を意見陳述者として指定した。
 傍聴者は,希望者が15,985人に及んだが,会場の都合等もあって,18日及び19日について,それぞれ210人ずつ,合計420人を選んだ。
 なお,関係行政機関,関係地方公共団体等の職員等も傍聴できるようにした。
 公聴会においては,各意見陳述者から,原子力の安全性,環境問題,地域開発,地元住民への知識の普及等について,意見が述べられた。
 陳述意見のうち,原子炉に係る安全性に関するものは原子炉安全専門審査会に伝達し,その審査に反映させるとともに,関係行政機関,福島県,東京電力(株)に係るものは,それぞれに検討を依頼した。
 これらの検討結果は,原子力委員会においてとりまとめられ,昭和49年4月末同発電所の設置を許可すべき旨を内閣総理大臣に答申した際に公表された。

(3)発電用施設周辺地域整備法等の制定

昭和48年秋の石油危機以降,原子力発電の推進が緊要の課題となっているが,他方,原子力発電所をはじめとする発電所の立地は,地元住民の一部における反対運動や発電所立地の受入れに対する消極的態度により,困難な情勢となっている。
 その原因としては,一方では地元住民の一部に安全性や公害に対する不安感が残っていることにもよるが,他方,発電所の建設による地元の雇用効果やその他の波及効果が他産業に比して小さく,地元住民の福祉向上への寄与が多くは期待できず,また,発電所は,消費地から相当の遠隔地に建設されることが多く,他人のための電力供給をしながら,地元に利益が十分還元されないことが,不満を大きくする原因となっている。
 このような隘路を打破し,原子力発電所等の建設を軌道に乗せるためには,一部に残っている安全性等に対する不安感を払拭する一方,発電所の開発利益の一部を積極的に地元に対して還元する施策を講ずることが必要である。
 このため政府においては,昭和48年4月に原子力発電所等の周辺地域における公共用施設の整備を促進することにより,地域住民の福祉の向上を図り,もって原子力発電所等の設置の円滑化に資することを目的とする「発電用施設周辺地域整備法案」を第71回通常国会に提出した。しかし,この法案が地元に対するメリットが少ないという意見等もあって同国会では成立をみず継続審議となった。その後,エネルギー情勢の変化及び将来における電力危機のおそれの深刻化に伴い,同法案の修正を行い,その施策の一層の強化を図ることとし,昭和49年度においては,電源開発促進税法を新設し,その税収入を歳入とする電源開発促進対策特別会計を設け,発電用施設周辺の地方公共団体に対して,発電用施設周辺地域整備計画による道路,港湾,漁港,都市公園,上水道等の公共用施設の整備のための交付金等を交付するなどの一連の施策を講ずることとした。
 これらの発電用施設周辺地域整備法,電源開発促進税法,電源開発促進対策特別会計法(いわゆる電源三法)は,第72回通常国会において昭和49年6月3日参議院本会議で可決され成立し,同年6月6日公布された。
 電源三法の要点は,発電用施設を受け入れる地域社会の要請に応えて,周辺地域の公共用施設の整備を促進するために目的税である電源開発促進税を一般電気事業者に対して1,000キロワット時につき,85円の税率で課し,その税収入を電源開発促進対策特別会計により,一般会計と明確に区分経理を行い,他方,発電用施設周辺地域整備法に基づき発電用施設の設置が予定されている地点のうち,主務大臣が地点の指定を行った区域に係るものについて,都道府県知事が作成し,主務大臣が承認した整備計画に基づき,公共用施設の整備のための費用として同特別会計から地方公共団体(所在市町村隣接市町村等)に対して,電源立地促進対策交付金を交付するものである。
 本交付金は火力,水力発電所関係についても交付されるが,原子力発電所関係では,昭和49年10月に行った地点の指定に係るものについて,約5年間で280億円が交付されることになっており,昭和49年度においては10億円が交付された。また,このほかに原子力発電施設等が設置されている地域等における環境監視施設の設置等に必要な事業費に充てるため,原子力発電安全対策等交付金として,放射線監視交付金,広報対策交付金等の交付金が関係都道府県に対して3.4億円交付された。
 昭和50年度においては,原子力発電施設の安全性に関する地元住民の不安を解消するため,実規模又は実物に近い原子力発電施設の模型による各種の安全性実証試験等を実施するため原子力発電安全対策等委託費及び原子力発電安全対策等補助金が計上されている。
 なお,電源三法のほか,昭和49年度においては地方税法の一部が改正され,従来講ぜられていた発電所に対する固定資産税の特例措置が撤廃された。


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