1 放射性廃棄物の処理処分
(2)放射性廃棄物処理処分に関する対策と調査・研究

 昭和47年6月に改訂された原子力開発利用長期計画においては,放射性廃棄物の処理処分について低いレベルの固体廃棄物については,陸地処分,海洋処分を組合わせて実施する方針でのぞむものとする。前者については,50年代初め頃までにその見通しを明確にするものとし,後者については,試験的海洋処分を経て50年代初め頃までにその見通しを得ることとする。
 中程度のレベルの放射性廃棄物については,昭和50年代半ば頃までにその処分方針を決定するものとし,それまでは当該施設内に保管するものとする。
 使用済燃料再処理施設等で発生する高いレベルの放射性廃棄物については,当面慎重な配慮のもとに保管しておくものとする。
 等の基本的な方針を明らかにしている。
 環境・安全専門部会の放射性固体廃棄物分科会では,この長期計画に盛られている基本的な方針の具体化策の検討を行い,昭和48年7月原子力委員会に報告を行った。
 放射性廃棄物の処理処分に関する研究開発としては,この報告を参照しながら,日本原子力研究所で,被処分体に関する研究,動力炉・核燃料開発事業団で,アスファルト固化に関する研究,また,通産省大阪工業試験所では高レベル廃棄物の固化技術の開発をそれぞれ実施したほか,放射性廃棄物の処分の実施に際しての事前の安全評価に必要な処分環境調査として,国の機関の協力を得て,海洋調査及び陸地処分適地調査を実施した。また,昭和48年度からは海洋科学技術センターに委託して,試験的海洋処分を実施するうえで必要な被処分体の健全性を確認する深海モニタリング技術の開発に着手した。
 昭和49年度においては,これらの研究を強力にすすめる一方,同報告をふまえて放射性廃棄物の処理処分体制を整備するための調査検討を行った。
 なお,高レベルの廃棄物を中心とした廃棄物処理処分技術について,OECD原子力機関,国際エネルギー機関等で国際協力の計画が審議された。
 また,国際原子力機関では海洋条約(ロンドン条約)に基づき,放射性廃棄物の海洋投棄の考え方について検討していたが,昭和49年9月の理事会で,それに関する勧告をとりまとめた。

イ 経緯

 政府は,昭和36年10月,核実験に伴う放射性降下物の漸増に対処するため,内閣に放射能対策本部を設置し,放射能の人体に対する影響に関する研究の強化,放射能測定分析の充実,放射能に関する報道,勧告,指導,その他放射能対策に係る諸問題について関係機関相互の連絡,調整を緊密に行ってきた。その後必要に応じて逐次調査体制の強化を図ってきている。
 この体制は,都道府県で空間線量等を測定するとともに各種の分析用試料を採取し,これを分析の専門機関に送付し,また,関係の国立試験研究機関等で,調査及び研究を実施することとしており,全国的な放射能水準を把握するための広範なネットワークが確立されている。
 この調査は,諸外国の核実験に由来する放射性降下物を対象としたものであるが,一部の県で行う調査では次第に原子力施設周辺もあわせ対象とするようになってきている。しかし昭和49年度から電源開発促進対策特別会計により原子力発電所,使用済燃料再処理施設等の周辺において県が行う放射線モニタリングに対し,環境放射線監視交付金が交付されることになったので,国が一般会計の放射能調査委託費により都道府県に対して委託している調査から原子力発電所等を直接対象とするものを除くようにした。
 放射性降下物を対象とした調査は,いわば,放射能調査全体の基盤をなすかたちで行われており,これに原子力施設周辺の調査,原子力軍艦寄港にともなう調査がかみあわされて総合的に国民の健康と安全が確保されていることを監視し,確認していくようになっている。

ロ 核実験時における調査結果

 放射能対策本部は,昭和48年6月27日及び昭和49年6月17日の中国の核実験に関して,それぞれ幹事会を開催し,核実験時における調査体制をとって調査を行った。この調査は全国の高空浮遊じん,雨水落下じん,地表浮遊じん,牛乳等の放射能を測定又は分析するものであり,これらの一部について,平常値より高い放射能が検出されたが,大きな影響はみられなかった。
 また,昭和48年7月〜8月及び昭和49年6月〜7月,フランスは南太平洋ムルロア環礁において核実験を行った。これらについては,従来の経緯からみて,平常時の調査体制で臨んだが,我が国への放射能の影響はあらわれなかった。なお,インドが昭和49年5月18日同国ラジャスタン州で行った核実験については,地下核実験であったことにより,我が国への放射能の影響は全くなかった。

ハ 調査と研究の状況

 放射線医学総合研究所,気象庁をはじめ国立の関係試験研究機関,都道府県衛生研究所等において,一般環境(大気,雨水,陸水,海水,土壌,海底土等),食品(野菜,牛乳,海産物,日常食,標準食)及び人体関係(骨,臓器,尿等)について測定分析を実施した。
 放射能調査対象研究については,適切な放射能対策を実施するため,国立予防衛生研究所をはじめその他の国立試験研究機関において,環境,食品,人体における放射性核種の挙動,汚染対策等について研究を行っている。
 また,原子力局は,昭和34年以来,我が国の環境放射能調査及びその対策研究等の成果について関係国立試験研究機関,関係都道府県衛生研究所,関係民間機関等の参加を得て,毎年「放射能調査研究成果発表会」を開催してきたが,昭和48年度は,11月に第15回の発表会を放射線医学総合研究所において開催した。

ニ 放射能測定法に関する研究

 現在,都道府県衛生研究所等における放射能調査は,科学技術庁が制定した「放射能測定法」や「放射性ストロンチウム分析法」等にしたがって実施されているが,これら分析法は制定後期間が経過し,その間これら放射能の分析測定法や放射能測定装置の改良に伴い,現行分析法の改訂が関係各方面から要望されてきた。
 これに対し,昭和46年度より「放射能測定法の基準化に関する対策研究」を実施しており,このうち,「放射性ストロンチウム分析法」,「放射性コバルト分析法」及び「NaI(Tl)シンチレーション・スペクトロメータ機器分析法」については,昭和49年1月放射線審議会での検討を終え,科学技術庁長官あてに答申された。科学技術庁としては,この答申をふまえて放射能調査の測定マニュアルとして採用することとしている。
 また,昭和48年度より「原子力施設周辺の放射線モニタリングの最適化に関する試験研究」を開始した。本研究は“as low as practicable″の考え方に基づき提案される線量の測定法の研究及び原子力施設周辺の放射線測定法の基準化を行うことを目的とし(財)原子力安全研究協会に委託して実施している。


目次へ          第2章 第2節(1)へ