1 原子力施設等の安全対策
(2)核燃料物質の使用等に伴う安全対策

イ 核燃料物質の使用等の規制

 核燃料物質を使用しようとする者,又は,加工の事業を行おうとする者に対しては,「核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(原子炉等規制法)に基づき,安全対策,放射線障害防止対策等を重視した規制が行われている。
 すなわち,核燃料物質である天然ウラン(300グラムをこえるもの),劣化ウラン(300グラムをこえるもの),トリウム(900グラムをこえるもの),濃縮ウラン,ウラン233及びプルトニウムを使用する場合には,内閣総理大臣の許可が必要であり,さらに1グラム以上の密封されていないプルトニウムあるいは100キュリー以上の使用済燃料を使用する場合は,使用の許可のほか,核燃料物質の使用施設等の工事について検査を受けるとともに,災害の防止上必要な事項を定めた保安規定の認可を受けなければならない。これらの許認可及び検査にあたっては,原子炉等規制法,総理府令等に規定する基準に適合しているか否かを慎重に審査している。
 また,核燃料物質の使用等にあたっては,原子炉等規制法,総理府令等に規定する技術上の基準に従って行うことが義務づけられており,とくに放射線安全については,従事者に対する被ばく管理を実施するのみならず,排気,排水中の放射性物質の濃度等を規制することにより,周辺地域住民の安全を確保している。
 核燃料物質の加工の事業を行おうとする者又はその一部を変更しようとする者は,原子炉等規制法に基づき,内閣総理大臣の許可を受けなければならず,また,許可にあたっては,災害防止等について,あらかじめ原子力委員会の意見をきき,これを尊重して行うことになっている。さらに加工施設の工事の着手前には,設計及び工事の方法についての認可並びに建設工事の施工過程及び完成時に施設検査を受けなければならない。これらの許認可及び検査にあたっては,核燃料物質の臨界防止,加工施設の耐震性等に十分な安全対策が講ぜられているかどうかなど,原子炉等規制法,総理府令等に規定する基準に適合しているか否かを慎重に審査して行うこととなっている。さらに,事業開始前に,災害防止上必要な事項を定めた保安規定の認可を受けるとともに,保安の監督を行わせるため核燃料取扱主任者を選任することが義務づけられており,施設の運転・管理面からも安全確保を図ることとしている。
 また,加工事業者は,加工施設の保全,加工設備の操作等について保安のため必要な措置を講ずることが義務づけられており,とくに,放射線安全については,従業員に対する被ばく管理を実施するのみならず,排気,排水中の放射性物質の濃度等を規制することにより,周辺地域住民の安全を確保している。
 昭和49(48)年度中における使用許可及び使用変更の許可数は,それぞれ9(19)件,106(115)件であり,保安規定の認可はなく,変更の認可については2(6)件であった。
 加工事業者については,事業許可はなく,事業の変更の許可が2(3)件,設計及び工事の方法の認可が10(4)件あった。また,保安規定については,変更の認可が3(1)件あった。
 この結果,昭和49年度末現在使用許可を受けている事業所は,156となった。なお,昭和49(48)年度中に廃止した事業所は8(11)件であった。
 加工事業者については,5社5事業所のまま変動はなかった。

ロ 核燃料物質の使用等の検査及び立入調査等

 使用許可事業所については,昭和49(48)年度には施設検査を37(23)件,立入調査を60(49)件実施し,また,加工事業者については,施設検査を4(2)事業所,14(6)件行ったが,それぞれ安全性が確保されているものと認められた。
 また,立入検査については,2(1)件行われたが,その概要は次のとおりである。
① 昭和49年3月,日本ニュクリア・フュエル(株)の加工工場に立入検査を実施し,排水管理,環境のモニタリングの状況等を調査した。この結果,同工場にはとくに異常な点はないということが確認された。しかし,排水の記録及びその保管の方法等について改善の必要があると認められたので,それについて指示した。
② 昭和50年1月,日本ニュクリア・フュエル(株)の加工工場内の成型室において作業中,約3kgの劣化ウラン粉末を飛散させたという連絡を受けて実施した。立入検査の結果,成型室の室内エア・モニタリング及びその場に居合わせた作業者の尿検査の結果等によって作業員,作業環境のいずれに対しても有意な被害を残していないことを確認した。検査の結果に基づいて,作業日誌の整備,設備の点検の強化,非常時の措置の徹底等について改善の指示をした。
③ 昭和50年1月,名古屋大学工学部における使用済燃料取扱セル用排気系統の動力配電盤が,その上にあった給水管の漏水により,一部発熱損傷し,セルの常時排風運転が不可能となったとの報告を受けて実施した。その結果,室内及びセルの内部の空気中の放射性物質濃度等が法定許容濃度以下であること,また,外部への汚染の拡大もないことを確認し,セル内の負圧の回復等必要な改善措置を指示した。


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