1 原子力施設等の安全対策
(1)原子炉の設置,運転に伴う安全対策

イ原子炉の安全規制体制の強化

 原子力発電の拡大に伴う安全規制体制の強化を図る一環として,昭和48年5月,科学技術庁原子力局に専ら設置許可の際の安全審査業務を所掌する安全審査室を設け,さらに昭和49年度には原子力局における安全審査機能の強化と,原子炉安全専門審査会に対する補佐機能の強化を図るため,安全審査室を発展的に解消し,安全性に関する審査業務を所掌する安全審査管理官を設置するとともに,そのもとで安全性に関する審査業務に従事する安全審査官の増員を行った。
 また,日本原子力研究所に,安全解析コードの開発等を中心として安全審査業務を補佐する機能を果たす組織の増強を図り,大型計算機の導入を進めることとした。
 一方,通商産業省においても,原子力発電の安全規制に従事する専門職員の増員を行った。
 さらに昭和50年度においても引き続き,科学技術庁原子力局,通商産業省の安全規制関係の職員の増強を図ることとなっており,また,日本原子力研究所に安全性試験研究センターを設置し,安全審査に必要な情報の提供,データの解析等を行うための機能の強化を図ることとしている。
 また,科学技術庁原子力局及び通商産業省資源エネルギー庁公益事業部は,原子力施設の安全対策の徹底を図るため,引き続き,原子力施設の安全管理責任者及び関係省庁の安全対策責任者からなる「原子力施設安全管理連絡会議」を開催し,安全の確保に関する連絡協議を行った。

ロ「原子炉安全技術専門部会」の設置

 昭和47年2月に設置された環境・安全専門部会は,原子炉施設の安全審査体制のあり方をはじめ,安全確保に関する諸問題について審査を行い,昨年10月,報告書を提出した。
 原子力委員会は,同報告書の趣旨を尊重し,原子炉施設の安全に係る基準,指針の整備を図るとともに,安全性に関する問題点の技術的解明,評価を行い,原子炉施設の安全性の向上及び安全性に関する国民の理解に資するため,「原子炉安全技術専門部会」を昭和50年2月に設置した。
 本部会の所掌事項は以下のとおりである。
① 原子炉施設の安全性に係る基準及び指針に関する事項
② 原子炉施設の安全性に係る問題点の技術的評価に関する事項
③ 原子炉施設の安全性に係る国際的基準に関する事項
④ その他原子炉施設の安全性に関し,原子力委員会が必要と認める事項

ハ 原子炉の安全審査及び設置許可等

 原子炉の設置又は設置変更を行う場合には,「核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(原子炉等規制法)に基づき,内閣総理大臣の許可が必要である。この許可にあたっては,内閣総理大臣は,原子力委員会の意見を聞き,これを尊重しなければならないことになっており,このうち,とくに原子炉の安全性に係る事項については,原子炉安全専門審査会において専門的な調査審議が行われている。
 また,原子炉安全専門審査会は,とくに原子炉の設置及び重要な設置変更の審査にあたっては部会を設け,詳細な審査を行っている。
 原子炉の設置及び増設に関しては,昭和48年度には中部電力(株)浜岡原子力発電所2号炉(BWR型,電気出力84万kW)の増設,昭和49年度には東京電力(株)福島第二原子力発電所1号炉(BWR型,電気出力110万kW)の設置が許可された。これにより,昭和49年度末までに許可された原子炉の総基数は,動力炉26基,研究炉14基及び臨界実験装置11基の計51基となった。

 原子炉の解体については,昭和48,49年度にそれぞれ1件あった。三菱原子力工業(株)大宮研究所の三菱臨界実験装置の解体の届出が,昭和49年1月に提出され,解体が行われ,昭和49年3月に運転の廃止の届出が提出された。
(株)日立製作所原子力研究所の臨界実験装置「OCF」については,昭和49年7月に解体の届出が提出された。
 昭和50年3月末現在で運転中の原子炉(臨界実験装置を含む)は27基,建設中の原子炉(臨界実験装置を含む。)は19基である。

 我が国における原子炉の設置状況は,付録IV-2に示すとおりである。
 設置変更許可の件数は,昭和48年度には20件,昭和49年度には23件あり,それらのうち主なものは,動力炉については水素再結合装置,活性炭式希ガス・ホールド・アップ装置,蒸発濃縮装置及び廃棄物貯蔵設備の増設並びに増強等,放射性物質の周辺環境への放出の低減,貯蔵能力及び管理の強化を図るためのものであり,研究炉については,これと同様な変更や,出力の上昇あるいは高温ガスループの増設等実験研究の拡充に伴うものであり,また,舶用炉については,原子力第1船「むつ」の放射線漏れに伴う定係港施設の一部変更であった。
 原子炉安全専門審査会は,原子炉の設置及び増設に関しては,昭和48年度には,中部電力(株)浜岡原子力発電所2号炉の増設,昭和49年度には,東京電力(株)福島第二原子力発電所1号炉の設置について審査を行ったが,東京電力(株)福島第二原子力発電所の原子炉の設置に係る審査については,昭和48年9月18日及び19日に福島市において開催された本原子炉の設置に係る公聴会で陳述された意見等のうち,原子炉に係る安全性に関する意見をもふまえて行われた。
 また,設置変更(原子炉の増設を除く)については,昭和48年度には関西電力(株)大飯発電所1号及び2号原子炉施設の変更(水素再結合装置の設置に係る変更など)等12件,昭和49年度には,日本原子力発電(株)敦賀発電所の原子炉施設の変更(放射性廃棄物廃棄施設の変更)等,設置変更11件についての審査結果が原子力委員会に報告された。
 これらの概要は,付録IV-3に示すとおりである。
 なお,昭和49年8月に九州電力(株)玄海発電所2号炉の増設に係る設置変更許可申請,昭和50年3月に東京電力(株)柏崎刈羽原子力発電所1号炉の設置に係る許可申請,昭和50年5月に四国電力(株)伊方発電所2号炉の増設に係る設置変更許可申請が出され,原子炉安全専門審査会で審査が進められている。
 また,現在,原子炉安全専門審査会において審査中の主な設置変更事項としては,燃料棒の線出力密度を下げ更に燃料の健全性の向上を図るため,BWR型原子炉における8行8列型燃料集合体,PWR型原子炉における17行17列型燃料集合体の採用がある。

ニ 原子炉の検査

 原子炉の検査については,試験研究炉に対しては,原子炉等規制法により科学技術庁が,発電用原子炉に対しては,電気事業法により通商産業省が,舶用炉に対しては,船舶安全法により運輸省が,それぞれ分担して,使用前検査,定期検査,立入検査を行うことになっている。
 使用前検査については,昭和48,49年度は8基の試験研究炉及び建設中の17基の発電炉について行われた。
 定期検査については,法律により毎年1回行うことが規定されており,昭和48,49年度はJRR-2,JRR-3,JRR-4,JMTR,京大原子炉,武蔵工大原子炉,東大原子炉,立教大原子炉,近大原子炉,東芝原子炉の10基の試験研究炉,及び日本原子力発電(株)の東海発電所,敦賀発電所,東京電力(株)の福島第一原子力発電所1号炉,関西電力(株)の美浜発電所1号炉,2号炉及び中国電力(株)島根電子力発電所の6基の発電用原子炉について行われた。
 なお,昭和48年6月の東京電力福島第一原子力発電所における放射性廃液の建屋外への漏洩事故に関連し,運転中の軽水炉の全て(日本原子力発電(株)敦賀発電所,東京電力(株)福島第一原子力発電所1号炉,関西電力(株)美浜発電所2号炉)について科学技術庁と通産省が協力して総点検を行った。
 このほか,運転中の原子力発電所について昭和48年度は,環境への放射性廃棄物の放出管理を,昭和49年度は従業者被ばく管理及び放射性廃棄物放出管理をそれぞれ重点的な調査対象として,保安規定の遵守状況調査が科学技術庁により行われた。

ホ 原子炉の事故及び故障等

 昭和48,49年度中の原子炉等規制法に基づく報告は8件あり,いずれも周辺公衆に影響を及ぼすものでなかった。その概要は次のとおりである。
① 昭和48年6月,東京電力(株)福島第一原子力発電所1号炉の廃液貯蔵設備において,放射性廃棄物の処理作業中,処理装置の水抜用弁の締りが不完全であり廃液が流出し,放射性廃液が建物の1階床面にあふれ,建屋外へ洩れた。発見後直ちに除染等の措置を行い,汚染土壌をドラム罐づめにして処理を行った。なお,この事故による従業者への影響はなかった。これに関連し,他の原子炉施設についても総点検を行い,類似施設におけるこの種の放射性廃棄物の漏洩のないよう設備を改善した。
② 昭和48年7月日本原子力研究所大洗研究所の材料試験炉(JMTR)において制御棒案内管の案内ピン4本のうち1本が折損し,その制御棒を定常位置まで挿入するのが不可能になった。なお,従業者への影響はなかった。徹底的な原因の調査を行い,その結果に基づき,改善措置を講じ,昭和49年12年月運転を再開した。
③ 昭和48年8月,関西電力(株)美浜発電所2号炉において,作業員が格納容器アニュラス(原子炉格納容器と原子炉建屋の中間部)内で作業中あやまって冷却材ポンプ電源ケーブルの接続端子にふれ,電路が短絡をおこし,原子炉がスクラムした。この事故により作業員1名が感電により負傷した。2日後に復旧し,運転を再開した。
④ 昭和48年9月,関西電力(株)美浜発電所1号炉において,原子炉格納容器内の加圧器バイパス弁のパッキングの締付けが不足していたため1次冷却材が原子炉格納容器内に漏れた。なお,従業者への影響はなく,3日後に復旧した。
⑤ 昭和49年5月,東京電力(株)福島第一原子力発電所1号炉において,原子炉建屋内の制御棒駆動水圧ポンプが自動停止したので予備ポンプに切替え,4時間後に原子炉を停止した。調査の結果ポンプ軸部等に損傷があり,ポンプ軸を取り替え,6月復旧した。なお,従業者への影響はなかった。
⑥ 昭和49年7月,関西電力(株)美浜発電所1号炉において原子炉冷却系の2次側の放射能濃度監視装置が警告を発信したので原子炉を停止した。
 水圧検査により蒸気発生器細管の漏洩個所を調査したところ2本の細管に漏洩が発見された。また,渦電流探傷試験の結果,新たに他の細管に減肉現象が確認された。
 本件については,昭和49年5月定期検査完了後僅か1ヶ月半で発生したことに鑑み,通産省の原子力発電技術顧問会に特別委員会を設置し,原因等の検討を行うとともに,モデルループによる減肉再現試験を実施し,その原因の究明にあたってきた。
⑦ 昭和50年1月関西電力(株)美浜発電所2号炉において原子炉冷却系の2次側の放射能濃度監視装置が警報を発したので,原子炉を停止した。各種の検査方法により漏洩個所の検出に努めた結果,蒸気発生器の細管1本に漏洩のあることが確認された。
 なお,渦電流探傷試験の結果,他の細管にも減肉現象が確認されたため,その原因の究明と今後の対策について現在検討が進められている。
⑧ 昭和50年1月関西電力(株)高浜発電所1号炉で,タービン潤滑油油圧が低下したため,原子炉を停止し点検を行った結果,タービン油タンク内の接続個所に損傷のあることが判明した。このため損傷個所の修理と配管の振れどめ等の補強工作を行い,2月に運転を再開した。


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