5 ウラン濃縮技術開発懇談会中間報告
(昭和47年8月11日)
まえがき
原子力委員会は,昭和44年8月ウラン濃縮技術の研究開発の重要性を考慮して,昭和47年度までの研究開発の第1段階を原子力特定総合研究に指定し,ガス拡散法と遠心分離法の両方式について技術的諸問題の解明の見通しを得ることを目標に所要の研究開発を推進してきた。
その後,濃縮ウラン対策懇談会における約1年間の検討を経て,昭和46年12月,総合的な濃縮ウランの安定確保策に関する報告が提出された。
原子力委員会は,これを受けて同月「濃縮ウラン安定確保策の推進について」の決定を行なったが,この中でわが国において必要とされる濃縮ウランの一部について1980年代に国産化することを目標に所要の研究開発を推進するという方針を打ち出した。
本年3月この方針の具体化について検討を行なうため原子力委員会に本懇談会が設置され,内外の情勢等を勘案しつつ,より長期的かつ具体的な研究開発の進め方について検討を進めてきたが,ここに中間的な結論を得るに至ったので報告する。
ウラン濃縮技術開発懇談会構成員
有沢 広已 原子力委員
北川 一栄 〃
座長武藤俊之助 〃
松井 明 〃
武田 栄一 〃
山田太三郎 〃
石原 周夫 日本開発銀行総裁
内田 元享 技術評論家
大島 恵一 東京大学教授
大山 義年 東京工業大学名誉教授
金森 政雄 三菱重工業(株)常務取締役
河内 武雄 中部電力(株)技術最高顧問
菊地 正士 理化学研究所招聘研究員
高市 利夫 富士電機製造(株)取締役
高木 正 (株)日立製作所常務取締役
高島 洋一 東京工業大学教授
永野 治 東京芝浦電気(株)専任副社長
法貫 四郎 住友原子力工業(株)常務取締役
村田 浩 日本原子力研究所副理事長
瀬川 正男 動力炉・核燃料開発事業団副理事長
星野 敏雄 理化学研究所理事長
和田 敏信 通商産業省官房長
成田 寿治 科学技術庁原子力局長
I 両方式に対する考察
わが国のウラン濃縮技術の研究開発は,ガス拡散法および遠心分離法の両方式について技術的諸問題の解明の見通しを得ることを目標に研究開発が進められてきた。
これらの研究開発は,短期間にもかかわらず所期の成果をあげつつあり,わが国においてウラン濃縮を行なうために必要な技術的基盤が得られる見通しがでてきたものと認められる。
一方,ウラン濃縮をめぐる内外の情勢は急激に変化しており,研究開発を推進するうえにおいてもこれらの情勢に十分対処できるような計画を確立することが必要となってきた。また,ウラン濃縮技術の研究開発の推進に当っては長期間にわたって相当な資金と人材を集中的に投入する必要があることも考慮しなければならない。このような事情をふまえてガス拡散法および遠心分離法の両方式について以下のような検討を行なった。
すなわちガス拡散法については,
(1)米国は機密保護措置の下でガス拡散法によるウラン濃縮技術を国際共同濃縮事業としての計画に対して提供することを提案しており,フランスも類似の考え方を示唆しているが,わが国においては原子力基本法との関連から機密保護措置を前提とした技術導入は困難であると考えられる。したがって国内におけるガス拡散法による濃縮工場の建設,運転は自主開発によらなければならないと思われるが,わが国が欧米の実際的な経験の積み重ねによる成熟した技術段階に達するにはなお相当の資金と人材を投入する必要があると思われる。
(2)ガス拡散法は,相当な規模に達しない限り分離作業量当たりの初期投資が相対的に少ないという利点を生かすことができず,また電力消費原単位が大きいので,わが国に同方式によるウラン濃縮工場を建設することは経済的に問題があると考えられる。
一方,遠心分離法については,
(1)わが国の遠心分離法の研究開発は,欧米に遅れて着手されたが,最近の進展により,その技術格差は縮少されてきつつあると認められる。
さらにその研究開発は本格的段階を迎えようとしており,今後これを格段に強化して推進すれば,わが国において,自主技術により国際競争のある濃縮工場を実現することは可能であると判断される。
(2)また,遠心分離法はガス拡散法に比較して,分離作業量当たりの初期投資は割高であるが,電力消費が少なくかつ比較的小規模でも経済性が損われず,需要の増加に合わせた工場の段階的拡大が可能であり,国産工場に適した方式であるといえる。
(3)最近,世界的にも遠心分離法によるウラン濃縮技術の潜在的優位性が注目され,将来この方式がガス拡散法にとってかわる可能性が十分あると考えられるようになり,英国,西ドイツ,オランダ三国グループのほかガス拡散法により商業生産を行なっている米国もその研究開発に一段と積極的に取り組んでいる。
II 研究開発の方針
以上のような考察のもとに昭和46年12月原子力委員会が決定した「濃縮ウラン安定確保策の推進について」の方針に沿い,わが国においてできるだけ早期に濃縮ウランを国産化することの可能性について検討した結果,昭和60年(1985年)までに国際競争力のあるウラン濃縮工場を稼動させることは,今後の開発努力によって可能であると考えられる。
このため,遠心分離法による濃縮技術の研究開発の本格的展開を図ることとし,そのパイロットプラントの建設,運転までの開発を原子力特別研究開発計画(国のプロジェクト)としてとりあげ強力に推進すべきであると考えられる。
また,ガス拡散法については国際共同濃縮事業の動向はいまだ不明確であるが,わが国の参加をより意義あるものとするためにも基礎的研究を継続する必要があるものと思われる。
なお,遠心分離法によるパイロットプラントの建設の着手に当っては遠心分離機等主要構成要素の性能およびコストの予測を含め,研究開発の成果および海外の動向等を事前に評価検討のうえこれを決定すべきであると考えられる。
また,これらの研究開発計画の詳細な内容については,所要人員,資金等を含めさらに検討を加える必要があろうがさしあたり以下の計画によることが望ましいと思われる。III 研究開発基本計画
1 遠心分離法
(1)遠心分離機の高性能化,長寿命化のための研究開発を継続するとともに,遠心分離機の標準化を進める。
(2)カスケードシステムの最適化のためにカスケード試験を行なう。
(3)上記の開発試験と平行してシステム解析,遠心分離機の量産化,関連技術等の開発を進める。
(4)これらの成果を総合評価したうえパイロットプラントによる試験を行なう。
2 ガス拡散法
(1)隔膜の高性能化のための試作試験および工学的拡散筒ユニット試験を行なう。
(2)軸流圧縮機の動特性試験および循環ループの工学的試験を行なう。
(3)その他カスケードシステムの解析を行なうとともに六ふっ化ウラン中の不純物連続分析技術等関連技術の開発を行なう。
I V昭和48年度に行なうべき研究開発課題
研究開発基本計画に基づき昭和48年度に行なうべき研究開発課題はつぎのとおりである。なお昭和47年度の研究開発についてもこの方向に合うよう配慮して行なうことが望ましい。
1 遠心分離法
(1)遠心分離機の分離機構の開発と高性能遠心分離機の開発
(2)遠心分離機の標準化と集約化のための開発
(3)回転胴の開発
(4)システム信頼性試験
(5)カスケード試験
(6)システム解析
(7)関連技術の開発
2 ガス拡散法
(1)隔膜の製造技術の開発
(2)隔膜の特性試験
(3)工学的拡散筒ユニット試験
(4)六ふっ化ウラン循環ループの開発
(5)システム解析および関連技術の開発
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