6. 海外における放射線利用の動向

 医学利用の分野では,RIを利用した診断および治療における映像処理技術とそれに関連する情報処理技術のほか,放射線機器,放射免疫法,放射性医薬品の普及が目ざましく,とくに短寿命でベータ線を放射しない99mTcの診断,治療への利用が盛んである。
 産業における工程解析,管理の分野に加えて,環境調査あるいは保全関係の研究開発が次第に発展してきた。大気,水質汚染調査への中性子放射化分析,ラジオアイソトープ螢光X線分析等の適用のほか,工場の排気,排気中の汚染物質の連続モニターとしての利用研究などが展開されている。
 放射線の照射利用では,ガンマ線による医療用機器の殺菌および食品照射の実用化とならんで,ガンマ線のポリマー複合材重合への利用等についての開発努力が次第に実り,一部企業化されてきている。また産業廃棄物および生活廃棄物の処理技術の実用化の可能性が高い関心を集めている。
 一方,ラジオアイソトープのエネルギー源としての利用については,使用済燃料から回収されるラジオアイソトープの利用を開拓するものとして,90Srを熱源とするアイソトープ発電器の陸上および海洋での利用が,各国でとりあげられてきているほか,とくに238Pu熱源を用いる心臓ペースメーカーの欧米における実用化が目ざましく,その法的措置もすすめられている。また,米国では同じく238Pu熱源を利用する人工心臓の研究において動物実験に成功している。
 核燃料再処理のさいに排出される85Krガスについては様々のトレーサー利用に加えて,自発光源,機械部品のクラックの非破壊検査など多角的な用途の開拓が行なわれている。
 米国においてはAECによる252Cfの生産,利用計画が順調にすすめられ,放射化分析,中性子ラジオグラフ,放射線治療等への利用が期待されている。
 東南アジア,アフリカ諸国では,アイソトープ利用技術への関心が高く,それぞれ国情に沿った開発研究をすすめてきて,相当の成果をあげており注目される。


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