4. 農業利用

 農業における放射線利用は,その歴史も古く,利用分野も照射利用(品種改良,食品照射,木材照射)トレーサー利用(生理生態研究,施肥,農薬施用法の改良等)および放射化分析法(微量成分代謝等の研究)と広範にわたっている。
 作物の品種改良は,農業技術研究所放射線育種場を中心として突然変異体の作出,育種技術の開発,改良等が進められており,すでに多くの作物で有用な形質変異が見出され,水稲,大豆,麦類については農林省育成の新品種として登録が行なわれ,普及段階に移されている。また,育種技術の面では,従来困難であった種間交雑にガンマ線照射を利用し,交雑の成功率を著しく高めることができた。
 木材加工の分野では,木材材料(板,チップ等)にプラスチック化合物を浸透させたのち,放射線照射により重合させた新木材(WPC)製造のための基礎的技術を開発し,すでに実用化試験の段階に入っており,さらにセメント,石こうなどを構成材料として加えた新複合材料の開発が進められている。
 トレーサー利用は,農業研究における放射線利用の草分けの分野である。その内容は広範にわたり,農林水産生物および病原菌,害虫,病原ウイルスの生理生態に関する研究,施肥法,農薬施用法の改良等種々の面で不可欠の方法となっている。
 また,地下水(裂か水)中に存在する天然放射性同位元素の探知により,地下水の有無を地表から探査する方法を開発し,自動車に搭載可能な移動型装置を試作し,実地に適用して無水地帯における水源探査に成果をおさめた。
 放射化分析の分野では,非放射性元素および化合物をトレーサーとして実験系に導入し,実験途上または終了段階で採取した試料中に含まれる導入元素を放射化分析法で定量するアクチバブルトレーサー法が開発され,従来のトレーサー法の難点であった取扱いの繁雑さを解決するとともに極微量元素の分析を可能とした。現在この方法によって,さけ,ます発生河川の識別,くるまえびの放流効果,製茶機改良について研究が進められている。


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