4. 立地円滑化のための方策

(1)概要

 エネルギー安定供給の観点から原子力発電に対する期待が高まっている反面,原子力に関する環境,安全問題の関心の高まりに伴う住民運動が活発化し,四国電力(株)伊方発電所,日本原子力発電(株)東海第2発電所については,原子炉設置を許可した内閣総理大臣に対し昭和48年はじめに行政不服審査法に基づく異議の申立てが行なわれた。
 また,電気事業者が設置を計画している地点において,地方議会の設置反対決議や設置の賛否を問う住民投票が実施されるなど原子力発電所の立地問題は深刻なものとなっている。
 かかる事態に対処し,政府としては,地元住民の理解と協力を得つつ原子力発電所の設置の円滑化を図るため,昭和47年2月に原子力委員会に環境・安全専門部会を設置し,環境・安全問題について総合的検討を進めるとともに,これと平行して昭和48年度から各種の新しい施策,制度を発足させた。
 それらの第一は,環境の保全,安全性の確保をねらいとするもので,立地円滑化のための方策として第一義的なものと考えられるが,これについては第3章,第4章に詳述する。第二は,住民の理解と協力を得るための方策であり,公聴会制度の発足,公開資料室の設置,原子力施設周辺地域の整備等がある。このほか,第14章第1節に詳述する原子力知識の普及がある。

(2)公聴会制度の発足,公開資料室の設置

イ 公聴会制度の発足

 わが国において,原子炉が設置される場合には原子力基本法,核原料物質,核燃料物質および原子炉の規制に関する法律(原子炉等規制法)等に基づき,原子炉安全専門審査会における厳正中立な審査を経て許可されており,その技術的安全性は十分に確保されていると考えられる。
 しかしながら,原子力開発利用のいちじるしい進展によって,国民生活の場との接点が増大しており,これに伴い地元住民の間に原子力施設設置に関し不安感が生じているのが認められる。原子力委員会においては,かかる事態に適時適切に対応し,その不安感を解消し,原子力の利用に関し今後一層国民の理解と協力を得ることが極めて緊要な課題であり,重要な責務であると考え,その具体化として,わが国においてはじめて公聴会制度を発足させることとし,昭和48年5月にその開催要領を決定した。その概要は次のとおりである。

(イ)公聴会開催の場合
 原子力委員会は,原子炉設置許可申請があった場合において必要と認めるときは,公聴会を開催する。

(ロ)公聴会開催の時期
 原子力委員会は,公聴会を開催する場合は,原子炉安全専門審査会の調査審議にあたり,公聴会において陳述された意見を参考とすることができる時期に開催する。

(ハ)公開性
 公聴会は原則として公開する。

(ニ)公聴会の運営
 公聴会の適正な運営を確保するため,意見陳述,希望者の届出,意見陳述者の指定,陳述時間の遵守,公聴会主宰者の指示等について定める。

(ホ)公聴会開催後の措置
 原子力委員会は,公聴会において陳述された意見のうち,原子炉に係る安全性に関するものについては,原子炉安全専門審査会に伝達するものとし,その報告書が提出された場合には,当該伝達事項について説明を受ける。それ以外の意見については,原子力委員会から関係行政機関の長に対し,その旨転達するとともに資料の提出,意見の開陳その他の協力を求める等必要な措置を講ずる。
 また,陳述意見に対する検討結果を公表する。

(ヘ)資料の閲覧
 公聴会に係る許可申請書等関係資料は,科学技術庁原子力局公開資料室および公聴会開催地点において広く閲覧の用に供する。

ロ 公開資料室の設置

 原子力開発利用の進展に伴い,国民生活とのかかわり合いが増加している現状においては,原子力関係の資料を縦覧に供することにより,原子力に関する正しい知識の普及と理解の向上に努めることが,安全性の確保と並んで極めて重要な役割を果すものと考えられる。
 かかる観点から,昭和48年5月から原子力局に公開資料室が設置された。公開資料室においては,原子炉設置者等の協力を得て,原子炉設置許可申請書,同添附書類,安全審査報告書等が縦覧に供されるほか,原子力委員会月報,原子力年報,原子力開発利用長期計画等の資料が備えられている。

(3)原子力施設周辺地域の整備

イ 発電用施設周辺地域整備法案

 原子力発電所等の原子力施設の立地の円滑化のためには,安全性の確保,環境の保全について万全の対策を講ずると同時に,立地による雇用機会の増加等による地域振興に対する寄与が他産業に比べて少ないという原子力施設の特殊事情に着目した対策の確立が必要である。事実,原子力施設の立地が予定されている地点の地方公共団体からは,住民福祉の向上に資する各種の公共用施設の整備事業の推進について強い要望が出されている。
 かかる状況をふまえて,政府は,昭和48年4月,発電用施設周辺地域整備法案を閣議決定し,ただちに国会に提出した。本法案は,電力供給の安定確保の重要性にかんがみ,原子力発電所等の原子力施設および火力発電所を対象とすることとしており,その概要は次のとおりである。

(イ)目的
 電気の安定供給の確保が,国民生活と経済活動にとってきわめて重要であり,火力発電施設,原子力発電施設等の周辺の地域における公共用の施設の整備を促進することによって,地域住民の福祉を図り,ひいては設置の円滑化に資することを目的としている。

(ロ)発電用施設の範囲
 「発電用施設」とは,火力発電施設または原子力発電施設で一般電気事業者等が設置する一定規模以上のもの,および原子力発電に使用される核燃料物質の再処理施設等原子力発電と密接な関連を有する施設をいう。

(ハ)地点の指定
 主務大臣は,発電用施設の設置が確実である地点のうち,その設置の円滑化を図るうえで公共用施設を整備することが必要であると認められる地点を指定し,公示する。この場合において,当該地点が工業再配置促進法の移転促進地域をはじめ一定要件に該当する地域に属するときは指定しないこととなっている。

(ニ)備整計画の策定
 都道府県知事は,指定された地点の周辺地域について道路,港湾,漁港,水道,都市公園等の公共用施設の整備計画を作成し,国の承認を求める。この計画には,公共用施設の整備に関する事業の概要と経費の概算について定めるが,他の法律の規定による地域の整備等に関する計画との調和および地域の環境の保全について適切な配慮が払われなければならない。

(ホ)発電用施設を設置する者の費用負担等
 整備計画に基づく事業の経費を負担する地方公共団体は,発電用施設を設置する者と協議し,その協議によりその負担する経費の一部を発電用施設を設置する者に負担させることができる。なお,主務大臣は,経費の負担に関し,関係当事者の申出に応じあつせんすることができる。

(ヘ)国の負担または補助の割合の特例等
 整備計画に基づく事業のうち,下記の施設の整備事業については,通常の補助率を特別に引き上げて適用するとともに,地方債の起債について配慮する等財政上,金融上の援護措置を講ずる。
 補助率特例対象施設               特  例 通常
 漁港施設で政令で定めるものの修築       6/10以内 1/ 2
 港湾施設で政令で定めるものの建設または改良  6/10以内 4/10
 市町村道で政令で定めるものの新設または改良  3/ 4以内 2/ 3
 都市公園で         用地の取得  4/10以内 1/ 3〃
 簡易水道事業で  〃    新設または改築  4/10以内 1/ 4

ロ 茨城県東海,大洗地区原子力施設地帯備整計画

 昭和46年7月に原子力委員会において決定された東海,大洗地区原子力施設地帯整備計画に基づき47年度においては,総額約4億円で道路,下水道公園の整備が行なわれた。


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