2. 保障措置に関する国際環境

(1)現行のIAEA保障措置

 現在,IAEAは,各国との間において計画協定または二国間協力協定に基づく保障措置移管協定および英国等の一部原子力施設への保障措置適用の協定を締結し,保障措置を実施している。
 各協定の種類および保障措置対象施設数は次のとおりである。(昭和47年6月末現在)
① 計画協定(各国が行なう事業に対してIEAEが核燃料等の供給を行なう協定)
 日本(JRR-3),アルゼンチン,チリー,インドネシア,パキスタン,スペインなど13ヵ国と締結
② 保障措置移管協定(二国間協力協定に基づく保障措置をIAEAに移管するための協定)
 日米,日英,日加,オーストラリア・米国,インド・米国,パキスタン・カナダ間など27協定と締結
③ 単独提供(単独で自国内のある施設に対する保障措置実施の要請衝したもの)
 英国,メキシコ(全原子力活動),中華民国,
④保障措置対象施設数

(2)核兵器不拡散条約(NPT)下の保障措置

 NPTに基づく保障措置については,1971年4月のIAEA理事会において承認されたNPT保障措置モデル協定(IAEA文書INFC/RC/153)に基づぎ,IAEAは,NPT締約国との間に保障措置協定締結のための交渉を行なっており,昭和48年4月末現在,NPTを批准していないユーラトム加盟7ヵ国を含む30国との交渉を終了した。
 ユーラトム加盟のベルギー,ドイツ,イタリア,ルクセンブルグおよびオランダの5ヵ国はNPT署名に際して,同条約第3条に基づくIAEAとの間の保障措置協定が同条約批准に先立って妥結することを目的として,昭和46年11月からユーラトムおよびユーラトム加盟5ヵ国の代表はIAEAとの間に交渉を行なっていたが,昭和47年9月に交渉を終了し,この保障措置協定案は同年9月22日のIAEA9月理事会において承認された。その後,本年に至りユーラトムにデンマークおよびアイルランドがあらたに加盟したことにより必要な条文の修正を行ない本年4月5日ブラッセルにおいてIAEA,ユーラトムおよび7ヵ国の間で署名された。
 ユーラトム7ヵ国のNPT保障措置協定は,本文と付属議定書からなり,これはNPT保障措置モデル協定(INFC/RC/153)を基本的に受入れている。しかしながら7ヵ国が共同して保障措置協定を締結することおよびユーラトムがその加盟国に対し保障措置を適用している。このため,次のような調整がなされている。
① 従来の個別国との保障措置協定では,IAEAの保障措置は当該個別国の核物質計量管理制度の結果を検証する方法で適用されることになっていたが,この協定では7ヵ国に対するユーラトム保障措置制度の結果を検証する方法が適用されることとなった。
② ユーラトムの保障措置制度を活用するため,IAEA保障措置適用上ユーラトム7ヶ国を地域として取扱い,7ケ国間の核物質の移動については,国際間移転としての手続きをとらない。
③ IAEAは,ユーラトム査察と一諸に査察を実施し,可能な限りユーラトムの査察活動を観察する形で行ない,必要な場合はIAEA独自の査察を行なう。
④ ユーラトムは,その査察計画をIAEAと協力して作成する。またIAEAの同時査察の有無にかかわらずユーラトム査察の実施結果はすべてIAEAに報告される。
⑤ 保障措置協定および付属議定書の適用を容易にするため,ユーラトムおよびIAEAの代表からなる連絡委員会を設置する。
 これによってユーラトム7ヶ国は,査察を含めIAEA保障措置制度を受入れることとなり,これら各国はNPTを批准する条件が整ったことになる。
 一方,わが国はNPT署名の際の声明において,「NPT第3条に基づきわが国とIAEAとの間で締結する保障措置協定の内容は,他の締約国が個別的にまたは他の国と共同してIAEAとの間に締結する保障措置協定の内容に比べて,わが国にとり実質的に不利な取扱いとなることがあってはならない。日本国政府としては,この点を十分考慮したうえで条約の批准手続きをとる考えである。」ことを明らかにしている。とりわけユーラトム諸国の受ける保障措置との平等性を確保することが肝要であるので,わが国としても昭和46年11月から開始されていたユーラトム諸国とIAEAとの交渉と併行して昭和47年6月にIAEAとの間に予備交渉を開始するとともに,国内保障措置制度の整備拡充について検討をすすめた。

(3)各国の動き

 昭和48年5月末現在NPT署名国は97ヶ国,NPT批准または加盟国は79ヶ国となっている。
 また,署名は行なっているが,まだ批准していない国は,ユーラトム諸国(そのうちベルギー,ドイツ,イタリー,オランダ,ルクセンブルグ,デンマーク,アイルランド),エジプト,アラブ共和国,日本などであり,主な未署名国は,フランス,中国,インド,イスラエル,パキスタン,ブラジル,南アフリカなどである。


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