第10章 基礎研究および原子力特定総合研究
1. 概要

 わが国の原子力開発は,今日,原子力発電,放射線利用などの分野において,本格的な実用化の段階に入っており,原子力は,すでにわれわれの生活の中で不可欠な存在となっている。このように原子力開発利用が進展したのは,ひとつには米国をはじめとする先進諸国からの技術導入によるところが大であるが,他方わが国独自の原子力関係分野における広範にわたる基礎研究が大きく貢献していることは明らかである。
 しかし,わが国における基礎研究は,欧米先進諸国に比べて,また必ずしも充実しているとはいえず,今後,新しい動力炉,原子炉多目的利用,核融合などに関しては,基礎研究から開発へ至る広範な研究開発を必要とし,また開発に伴う環境安全対策を確立するうえにおいても,基礎研究の重要性はきわめて大きくなっている。
 昭和47年度においても,日本原子力研究所,科学技術庁放射線医学総合研究所をはじめとして,関連する国立試験研究機関,大学等において積極的な研究が実施され,各種研究施設の整備充実がはかられた。
 原子力の研究開発をすすめるにあたっては,長期にわたり多額の研究投資を必要とすることなどから,原子力委員会は,広汎な原子力開発利用分野における多くの研究開発課題のうち,とくに重要性と緊急性が高く,国として重点的かつ組織的にすすめる必要があるものについては,「原子力特定総合研究」あるいは「原子力特別研究開発計画(国のプロジェクト)」として,明確なる体制のもとに各界の協力を得て,その研究開発を推進するものとしている。
 原子力特定総合研究は,関連する分野が広く,これらの分野を総合してすすめることにより,大きい効果が期待される研究課題,または,わが国の原子力開発利用を一段と進展せしめうる研究課題を対象として,政府の調整または計画のもとに関係各機関あるいは民間企業が協力し,分担を明確にしてその研究開発を推進しようとするものである。
 この原子力特定総合研究には,昭和42年9月に「食品照射」,昭和43年7月に「核融合」,昭和44年8月に「ウラン濃縮」がそれぞれ指定されその研究開発が積極的に進められてきた。
 また,ウラン濃縮研究開発については,新たに原子力特別研究開発計画として原子力関係機関の総力を挙げて推進するものとしており,これについては第4章に記載した。


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