第9章 放射線利用

§5 放射線化学

 放射線を化学反応に利用して新物質の合成や既存物質の改良を行なう放射線化学が脚光をあびており,その工業化への研究開発が活発に行なわれている。
 日本原子力研究所高崎研究所(高崎研)では,大学,国立試験研究機関,民間等の協力のもとに放射線重合,高分子物質の放射線改質,放射線化学工学,線源工学およびこれらに関連した研究をすすめるとともに,エチレンの放射線気相重合,トリオキサンの放射線固相重合,ポリ塩化ビニールの放射線改質等の有望なプロセスについて,中間規模試験装置により,工業化への研究開発を実施している。
 エチレンの放射線気相重合については,内部線源方式の中間規模試験装置を用いた重液循環法により超微粉状のポリエチレンを生成し,その物性試験を進めるとともに,装置の化学工学的解析が行なわれた。
 トリオキサンの放射線固相重合では,テトラオキサンの同時安定化重合の際の添加物について検討が行なわれた結果9強度的にすぐれた特色のあるポリマーが,またプラスチックの放射線改質の一例として,ポリ塩化ビニールについては,試験装置の改造により反応制御性が向上し,均質で加工性,抗張力等の優れた製品が得られた。
 ポリエチレン,ポリプロピレン等の成型品の放射線架橋強化等を実施することによって,耐熱性9耐薬品性向上が可能になり,さらに,ポリ塩化ビニールへのアクリロニトリルの放射線グラフト重合において,電子線による連続重合技術が確立されたことによって,熱収縮性のきわめて少ない製品が得られた。
 このほか,高崎研究所においては,4フッ化エチレンとプロピレンの共重合による耐フツ素性エラストマーの製造研究,板材の連続硬化試験等が行なわれている。


目次へ          第9章 第6節へ