第9章 放射線利用

§3 農業利用

 農業における放射線利用は,歴史的にも古く,利用分野も照射利用(品種改良,食品照射,木材照射),トレーサー利用(生理生態研究,施肥,農薬施用法の改良等)および放射化分析法(微量成分代謝等の研究)と広範囲にわたっている。
 作物の品種改良は,農林省の農業技術研究所放射線育種場を中心として,突然変異体の作出,育種技術の開発,改良等が進められている。すでにその結果として水稲,大豆,小麦について農林省登録品種を作出し,実用普及の段階にはいっている。また育種技術の面では,困難な種間交雑にガンマ線照射を利用し,交雑の成功率を著しく高めることができた。
 木材加工の分野では,木質材料(板,チップ等)にプラスチック化合物を浸透させ放射線重合させた新木材(WPC)製造技術の開発が進められており,すでに実用化試験の段階に移行している。このほか,構成材料を変化させた新材料の開発も進められようとしている。
 トレーサー利用は,農薬研究における放射線利用の草分けの分野であり,生理生態研究,施肥法,農薬施用法の改良等種々の面で,不可欠の方法となっている。また,地下水(裂か水)中に存在する天然放射性同位元素の探知により,地下水の有無を地表から探査する方法を開発し,試作した移動型装置を実地に適用して成果をおさめた。
 放射化分析法の分野では,非放射性元素または化合物などをトレーサーとして実験系に導入し,実験途上または実験終了段階で採取した試料中に含まれる導入元素を放射化分析法で定量するアクチバブルトレーサー法が開発され,従来のトレーサー法の難点である取扱いの繁雑さを解決した。現在,この方法によってさけ類の発生河川の識別,くるまえびの放流効果などについて研究が進められている。


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