第8章 原子力船

§3 原子力船の実用化の見通し

 1959年にソ連の砕水船レーニン号が世界で初めての平和目的の原子力船として出現して以来,1962年には米国のサバンナ号,1968年には西独のオットー・ハーン号が完成し,またわが国では昭和47年度末完成を目途に原子力第1船「むつ」の建造がすすめられている。これらはすべて実験船の色彩が強く,在来船と経済的に競合できるような実用原子力船はいまだ実現していない。
 原子力船が実用商船として運航されるためには,在来船に比し経済的に十分成り立つこと,安全性信頼性が十分であることおよび,国際法上航行,入出港の自由が在来船におけると同様十分に保証されていること,寄港地点において燃料交換施設,修理施設などの諸施設が整備されていることなどの条件が満足されなければならない。とくに原子力船の経済性についてはどの程度の機関出力をもつた原子力船が在来船と競合し得るのか,現在世界的に見解は一致していない。このことは,ひとえに,舶用炉の技術進歩および価格の評価の相違に起因している。わが国においても,原子力船の経済性に関する試算が行なわれており,1970年後半の時点で約12万馬力以上でなければ原子力船は在来船と競合しえないというのが今までの見通しであった。しかし,前述の日独原子力コンテナー船共同評価研究の検討結果として,船舶の建造期間の短縮,核燃料サイクルコストおよび機器コストの低減,プラント重量の軽減,保険料,廃棄物処理システム等の技術的,経済的問題の解決を図るとともに将来の燃料油の価格の如何によっては,同型の在来船とも競合し得るという見通しも得ている。
 一方,日本原子力産業会議の原子力船懇談会報告書「原子力船に関する長期展望」(46年3月作成)によれば,種々の仮定に基づいてはいるが,2000年までの全世界の船腹量および船腹構成を求め,これに基づく原子力船の実現可能な時期とその需要規模を示している。これによると,わが国では1980年に原子力コンテナー船2隻が竣工すると予測しており,そのためには1970年代の半ばに建造に着工しなければならない。


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