第5章 安全性の確保

§1 概要

 原子力開発利用は,放射能を安全に管理することによってはじめて,その正しい発展が可能となるものである。したがって原子力開発利用を進めるにあたっては,安全性の確保が不可欠であり,国は従来から必要な法的措置およびこれに基づく厳重な規制や諸施策を行なうとともに,安全性のより一層の向上を図るために安全性研究を実施してきた。
 昭和46年度における安全性に関する最大の関心は非常用炉心冷却設備(ECCS)の作動に関する問題であった。昭和46年5月,米国原子力委員会(USAEC)が発表したアイダホ原子炉実験所における実験結果は米国と同種の炉型を採用しているわが国の原子力発電所の安全性も大きな影響を及ぼした。そこで原子力委員会は9米国に非常用炉心冷却設備調査団を派遣し,実情を調査するとともに,原子炉安全専門審査会等で慎重に検討した結果,わが国の発電用原子炉は安全であることが確認された。
 しかし,同時に,今後急増する原子力発電所の安全性を確保するためには,安全性研究を積極的に実施し,わが国独自の実証的データによる安全審査を行なっていくことが必要である。
 また,昭和46年9月千葉県市原市の造船所において192Ir,線源が紛失し,これを拾得した6名が被曝するという事故が発生したが,このような事故は放射線使用事業所の増加を考えると今後も発生することが危惧されるので,これを防止するためには,安全管理体制の充実,作業従事者の質の向上を図ると同時に,放射線被曝に関する研究等を実施する必要がある。
 科学技術庁および通商産業省は,昭和46年度に原子力施設における安全確保体制についての総点検を実施した。この結果によれば,施設設置者による安全確保のための自主点検体制,安全管理設備の増強等が図られているが,今後とも安全確保体制について不断の見直しが必要であるとされている。
 また,科学技術庁原子力局および通商産業省公益事業局は,原子力施設の安全対策の徹底を図るため,昭和46年8月原子力施設の安全管理責任者および関係官庁の安全対策責任者よりなる「原子力施設安全管理連絡会議」を設けて,安全管理に関する協議連絡を行なっている。
 さらに原子力施設をめぐる環境の保全と安全性の確保に関する諸問題について具体的な検討を行なうために,47年2月原子力委員会に環境・安全専門部会が設置され,その下に総合,安全研究,環境放射能,低線量,放射性固体廃棄物,温排水の6分科会を設けて現在審議が進められている。


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