第2章 原子力発電

§1 概要

 わが国の電力需要は経済社会の急速な発展と国民生活の高度化に伴って増加の一途をたどってきており,今後ともその傾向が続くものと考えられる。しかし,この増大する需要を在来エネルギー源だけでまかなうことは,近年に見られる原油価格上昇問題,環境保全問題さらには資源問題等の観点から判断すると困難な状況になりつつあり,適切な代替エネルギー源の転換が期待されている。この点,安定かつきれいなエネルギー源としての原子力発電に対する期待は極めて大きく,わが国は早くから,安全性の確保を前提としつつ,その開発と導入を積極的にはかってきた。当初は英国からコールダーホール改良型炉(天然ウラン黒鉛減速炭酸ガス冷却炉)を東海発電所に導入したが,米国において濃縮ウランを燃料とする軽水型炉が開発され,その後の技術的進歩も著しく経済的な見通しも得られたので,わが国では現在軽水型発電炉が大勢を占めるに至っている。
 近年,原子力発電所の単基容量の大型化の傾向は著しく,昭和46年度末現在申請中のものはすべて1,100千kw級であり,このような趨勢のもとで,わが国の原子力発電開発規模は昭和55年度末32,000千kw,昭和60年度末60,000千kwに達するものと見込まれている。海外諸国においても原子力発電の積極的な開発が行なわれており,例えば米国では1985年(昭和60年)の原子力発電規模は約300,000千kwに達するものと予想されている。
 一方近年,大気汚染をはじめとする公害を軽減防止し自然環境を破壊から守り快適な生活条件を確保しようとする気運がとみに高まってきており,このような背景のもとで,原子力発電所の大型化,集中化等の傾向もあって,安全性,温排水等の問題が大きくクローズアップされてきた。原子力発電所をめぐる環境問題は,アメリカにおける非常用炉心冷却設備(ECCS)の実験結果の発表や温排水による環境への影響問題等に端を発し,原子力発電所の地元を中心とする環境保全論争にまで発展することとなり,原子力発電所の立地確保問題に大きな波紋をなげかけることとなった。


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