第10章 基礎研究および原子力特定総合研究

§1 基礎研究

 現在,原子力開発利用は,実用化の段階に達しつつあるとはいえ,新しい動力炉,原子炉多目的利用,核融合等に関しては基礎研究から開発にいたる広範囲の研究開発を必要とし,また原子力開発に伴う環境安全対策を確立するうえにおいても基礎研究の重要性はひじょうに大きい。このため昭和46年度においても日本原子力研究所,科学技術庁放射線医学総合研究所をはじめとして,関連する国立試験研究機関,大学等において,各種研究施設の整備充実がはかられ,積極的な研究が実施された。
 わが国の原子力研究の中心的役割を担っている日本原子力研究所においては,高速実験炉のモックアップ実験によって動力炉開発に積極的に協力するなど,幅広く基礎研究の推進がはかられている。昭和46年度には,JDPR-II計画に基づく動力試験炉の改造を完了し臨界試験を行なうと同時に出力上昇のための各種特性試験を行なった。プルトニウムの熱中性子炉利用研究については軽水臨界実験装置による炉物理実験をすすめるとともに,炭化物燃料に関する物性および両立性の研究,分散型燃料に関する被覆粒子の被損率の測定,乾式再処理に関する2酸化プルトニウムのフッ素化実験などを開始した。
 高温ガス炉に関連する研究としては小型高温ヘリウムループによる1,100°Cでの長間時運転を達成するとともに,大型ヘリウムループの製作に着手し,安全性に関する研究では軽水炉冷却材衷失事故試験装置(ROSA)による実験を継続して実施するとともに,非常用炉心冷却設備(ECCS)による実験を行なうための装置の改造について検討を行なった。このほか,高性能放射線検出器の開発研究,原子炉プラント動特性解析,遮蔽計算コードの開発,環境汚染の測定法の開発および線量評価研究などを行なった。
 放射線医学総合研究所では,放射線の人体に与える障害の解明とその予防,診断治療に関して総合的な調査研究活動が続けられている。生物面では放射線障害拡大機構の細胞レベルにおける研究においてDNA鎖切断とその修復について,遺伝については放射線による突然変異,組換遺伝子転換等遺伝的変異を同時に検定できるダイソーム系を合成するなどの成果が得られた。生理学の面では免疫記憶細胞の本態および哺乳動物細胞に対する放射線の致死作用,放射線障害の程度を尿中アミノ酸,クレアチン等生化学的な観点から認識する方法に関してすぐれた知見が得られている。薬学の分野では放射線防護物質の合成化学的研究により防護薬物としてテストに供する種々の誘導体の合成が進められている。さらに物理の分野では,ヒューマンカウンターの安定度の改善を行なうとともに二次元比例計数管の試作を行なった。
 理化学研究所では,原子力特定総合研究基本計画に基づき,ガス拡散法によるウラン濃縮に必要な隔膜を開発するため,アルゴンガスを用いて試作隔膜による同位体分離試験を行なった。核融合については,プラズマ加熱のためのマイクロ波やチッ素クラスターイオン源,電磁波によるプラズマ測定,真空壁からの不純物ガス放出の測定などが行なわれた。なお,プラズマ加熱に関する研究の一環として巨大分子を200kvまで加速する実験を近く開始することになっている。このほか,放射線殺菌法,放射線保護効果のある有効薬剤の開発等について研究を続けるとともに,環境放射線による情報の迅速解析に関する研究が新たにとりあげられた。
 これまでの研究によって磁極直径160cmのサイクロトロンを用い,中性子数126近傍の原子核に新しい異性体の存在が明らかにされた核物理学研究,メスバウァー効果の応用研究,放射線化学,放射線生物学およびRIの製造などに多くの成果をあげている。
 工業技術院電子技術総合研究所では,MHD発電のプラズマ温度など2,000〜3,000°Cの高温を太陽電池を使って簡単でしかも正確に測定する方法が開発されたほか,核融合研究ではテータピンチ装置を用いて,20万°C,密度1016,とじこめ時間25マイクロ秒を達成し,現在100万°C,密度5×1016,とじこめ時間も1桁上のものをめざすスクリューピンチ装置の設計を行なっている。
 東京大学では,昭和43年度から建設を進めてきた高速中性子源炉「やよい」が昭和46年4月10日臨界に達した。この炉は熱出力2kwで熱中性子,中速中性子,高速中性子の三種類の中性子を利用できるが,研究の中心は高速中性子実験におかれており,原子炉材料への中性子照射試験,放射線遮蔽材の研究,中性子測定器の開発など原子炉工学の基礎実験が進められた。このほか,各種基礎研究が広範に行なわれ,宇宙線の中から陽子の2〜3倍の質量をもつ新タイプの素粒子を発見するなどの成果をあげている。
 京都大学では,純国産のヘリオトロンD装置が完成し,プラズマ温度20万°C,とじこめ時間0.03秒を達成し,閉じこめ効率を示すボーム閉じこめ時間の何倍かという点では30〜50倍と従来の10〜20倍をはるかに上まわるというすぐれた成果が得られている。
 名古屋大学プラズマ研究所では,核融合の基礎となるプラズマの研究について従来から精力的な実験研究が行なわれてきたが,昭和45年度に設置した大出力ガラスレーザー発振装置を使って1000万°C,10-9秒のとじこめに成功したのみならず中性子を数百検出し9核融合反応の実現を確認するなど大きな成果を得ている。
 以上のほか,関連する国公立試験研究機関,大学等において原子力の基礎研究が積極的に進められており,大阪大学におけるMHD発電についての研究,新技術開発事業団における20万ガウスの超伝導コイルの開発など特筆すべき成果があがっている。


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