第9章 安全性の確保
§2 原子力施設の安全対策

1 原子炉の設置と運転にともなう安全対策

(1)原子炉の設置許可および検査
 原子炉を設置し,または変更をしようとする者は,原子炉等規制法にもとづき,内閣総理大臣の許可を受けなければならない。
 45年度に新たに設置が許可された原子炉は,動燃事業団の新型転換炉,中部電力(株)浜岡原子力発電所1号炉,関西電力(株)高浜発電所2号炉,九州電力(株)玄海発電所1号炉および東北電力(株)女川原子力発電所1号炉の5基であり,45年度末までに許可された原子炉は臨界実験装置を含め39基となった。このうち45年度末現在で運転中の原子炉は23基,建設中の原子炉は13基である。
 原子炉設置の年度別の許可状況は(第9-1表)に示すとおりである。

 設置変更の許可も原子炉の増加とともに多くなっており,45年度では例えば日本原子力発電(株)敦賀発電所の出力増加等があった。
 なお,わが国における原子炉の設置状況は付録IV-1に示すとおりである。
 また,原子炉の設置および変更にともなう設計及び工事の方法の認可件数については約60件を数えたほか,それにともなう数多くの使用前検査を行った。発電用原子炉および原子力第1船についても,それぞれ関係省庁において所要の認可・検査が行なわれた。

(2)原子炉の安全審査
 原子炉の設置または設置変更について許可を行なう場合,内閣総理大臣の諮問により,原子力委員会において厳重な審査が行なわれている。
 このうち,とくに,安全性にかかわる事項については,原子炉安全専門審査会において専門的な調査,審議が行なわれる。
 原子炉安全専門審査会は,45年度には11回開催され,22件の原子炉の設置または変更について安全審査を行なった。これらの概要は付録IV-2に示すとおりである。
 このなかで注目されるものに,動燃事業団の開発する新型転換炉があり,またBWR,PWRの軽水炉が,中部電力(株),九州電力(株)および東北電力(株)の各電力会社でそれぞれの1号炉として申請され,審査を受けた。
 なお,45年度末現在,審査中のものに,関西電力(株)大飯発電所1,2号炉,東京電力(株)福島原子力発電所5号炉がある。前者はユニット出力が117万5000キロワットであり,わが国最大のものである。

(3)発電炉の運転
45年度には,新たに2つの発電炉,関西電力(株)美浜発電所1号炉と東京電力(株)福島原子力発電所1号炉が営業運転に入った。また前年度末から営業運転に入っている日本原子力発電(株)敦賀発電所も出力を増加して運転を行なった。運転開始前には,運転にともなう安全を確保するための運転上の施設の維持基準,放射性廃棄物の放出制限値,モニタリング等を定めた保安規定の認可を受けなければならない。発電用軽水炉の本格的な運転開始に先立ってこれら大型炉についての保安規定が整備された。

(4)その他基準の整備等
 原子力委員会は先(昭和43年10月)に動力炉安全基準部会を設置し,原子力発電の進展にともなう所要の安全基準の整備を図ってきた。45年度においてもひきつづき審議が行なわれ,軽水炉についての安全設計に関する審査指針をはじめ,原子力委員会の諮問事項について検討し,結果の取りまとめを行なった。
 また原子力委員会は,39年7月原子力船安全基準専門部会を設置し,原子力船の港湾等における運航の安全性に関する技術的基準について検討を進めていたが,45年11月,その運航指針を定めるとともに,当該指針を適用する際の放射線量等に関する暫定的な判断のめやすを決定した。
 このほか昨年科学技術庁に設置された高速実験炉専門家検討会は,動燃事業団の高速実験炉の設計の具体化にともない,所要の検討を行なった。
 なお,発電炉の機器等に関する細部の基準に関しても,通商産業省をはじめ,民間においても電気技術基準調査委員会等を中心にして最近の技術進歩に応じ整備が行なわれた。

2 核燃科物質の使用にともなう安全対策

(1)核燃料物質の使用許可および検査
 核燃料物質(300グラム以上のウラン,900グラム以上のトリウム,濃縮ウラン,照射済燃料,ウラン233およびプルトニウム)を使用しようとする者は,原子炉等規制法にもとづき,内閣総理大臣の許可を受けなければならない。さらに,1グラム以上の密封されていないプルトニウムおよび100キュリー以上の使用済燃料を使用しようとする者は,保安規定の認可および施設検査を受けなければならない。
45年度末現在,これらの使用の許可を受けているのは120事業所であり,また,使用の変更にかかわる許可は160件にのぼった。このうち,4事業所が非密封プルトニウム1グラム以上を使用し,7事業所が100キュリー以上の使用済燃料を使用している。
 施設検査は,45年度,10事業所について行なわれたが,いずれも核燃料物質の使用に際し,その安全性が確認されているものと認められた。
 また,核燃料物質の使用許可を受けている施設は,その使用状況,核燃料物質の管理状況等について随時立入検査が行なわれており,45年度は36施設について行なわれたが,その使用状況はおおむね良好であった。

(2)核燃料物質の加工事業許可および検査
 核燃料物質の加工の事業を行なおうとする者,または変更しようとする者は,原子炉等規制法にもとづき,内閣総理大臣の許可をうけ,さらに建設工事の着手前に設計および工事の認可,工事の施行過程および完成時に施設検査,また,操業開始前には保安規定の許可をそれぞれ受けなければならないこととなっている。
 45年度には,45年度に事業許可申請のあった2社について,42年5月に加工施設等安全基準専門部会が原子力委員会に報告した「加工施設の安全審査指針」にもとづき,加工施設の立地条件,事故および災害に対する安全性の解析,評価ならびに臨界管理等の検討が行なわれ2社に対し加工事業の変更を許可した。
 45年度現在,これらの許可をうけているのは,7事業所,また加工事業の変更にかかわる許可を受けたのは4事業所である。
 設計および工事の許可は45年度,2事業所に3件の認可を行なった。
 施設検査は45年度,1事業所について行なわれたが,核燃料物質の加工に際し,その安全性を確保されているものと認められた。

3 放射性同位元素の使用にともなう安全対策

(1)放射性同位元素の使用等の許可および届出
 放射性同位元素の使用等にともなう安全性については,「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」(放射線障害防止法)にもとづき,規制が行なわれている。すなわち同法は,放射性同位元素,放射線発生装置を使用しようとする者,また,放射性同位元素の販売ならびに放射性同位元素または放射性同位元素によって汚染された物の廃棄の業を行なおうとする者に対し,許可または届出(密封された放射性同位元素の数量が1工場または1事業所あたりの使用総量が100ミリキュリー以下の場合には届出)を義務づけている。
 これら使用,販売,廃棄の事業の許可にあたっては,事業所などからの・申請内容を検討し,使用,詰替,貯蔵,廃棄等の施設,取扱いなどについて,同法に規定する許可基準に適合しているか否かを審査したのち,許可(届出の受理)することとしている。
 また,放射性同位元素等の取扱いにあたっては,放射線障害予防規定の作成,放射線取扱主任者の選任を義務づけ管理上の安全を期している。さらに使用等にあたっては,作業従事者の被ばく線量の測定,健康診断等放射線障害防止上の基準を設けて放射線作業従事者の安全をはかっている。
 これらの事業所は,教育機関をはじめ研究機関,医療機関,民間企業等多岐にわたり,その数も,第6-1図に示すとおり,年々増加しており,45年度は,226事業所が新たに許可され,149事業所から届出があった。この結果45年度末現在許可,1569事業所,届出,522事業所,合計2,091事業所となった。
 販売の業の許可を受けた事業所数は,45年度は,17事業所であり,合計77事業所となった。
 なお,廃棄の業の許可を受けた事業所は,45年度は1事業所であり,合計6事業所となった。

(2)放射性同位元素事業所等に対する検査等
 放射線障害防止法では,同法または同法にもとづく命令の実施のため,科学技術庁長官は,必要がある場合には,放射性同位元素,放射線発生装置の使出事業所等の使用施設,貯蔵施設等に放射線検査官を立入らせ,必要物件の検査等を行ないうることになっている。
 この規定にもとづき,使用事業所等への検査が毎年行なわれているが,45年度は,430事業所について行なわれた。なお33年同法施行以来の検査実施事業所は,延3,665となった。


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