第8章 基礎研究および原子力特定総合研究
§2 原子力特定総合研究

1 食品照射

 食品に放射線を照射し,輸送および貯蔵中の腐敗,虫害および発芽等による損失の防止,保存期間の延長,食品の加工適性の向上や改質を行なうことは,食品流通の安定化および食生活の改善をはかる上に大きく寄与するものと期待されている。
 原子力委員会は,昭和42年9月,食品照射の早期実用化を促進すべく,その研究開発を原子力特定総合研究に指定し,食品照射開発基本計画を策定した。これにもとづき現在,国立試験研究機関,日本原子力研究所(原研),理化学研究所(理研)等において,7品目(馬鈴薯,玉ねぎ,米,小麦,みかん,水産ねり製品,ウインナーソセージ)について研究開発が進められており,また,この推進にあたっては,各実施機関の関係者,学識経験者おび関係行政機関の関係者からなる「食品照射研究運営会議]を原子力局に設置し,研究計画を調整評価しつつ,総合的な研究開発が進められている。研究開発の年次計画および開発体制は,まとめて(第8-1表),(第8-1図)に示す。
 45年度にはこの年次計画に従って,研究体制に示した各実施機関で,それぞれの研究テーマについて,昨年度より継続して行なわれた。

 食品照射共同利用施設は,原研高崎研究所(高崎研)において,44年度より5ケ年計画で着工され,45年度は,研究棟の建設が行なわれた。
42年度より馬鈴薯,玉ねぎの発芽防止,米の害虫の殺虫について試験が行なわれてきたが,今までに次のことが明らかになった。すなわち,馬鈴薯に対し収穫15日後に照射処理を行なうときには7キロラド,45日後では15キロラドが必要であり,これによって8か月間発芽の抑制に成功した。玉ねぎでもほぼ同様に7キロラドで6ケ月間発芽抑制ができたが,内芽が長くのびていると,その部分が枯死し褐変するもので商品価値は低下する。内芽の伸長度は外部から推測することができないので,収穫後できるだけ速やかに照射することが望ましいということがわかった。
 米については,殺虫線量を把握した上で,この線量を中心として線量をきめ,照射を行なって味覚,その他に及ぼす影響をしらべた。その結果,15キロラドおよび30キロラド照射において,照射直後では,飯の臭いや硬さの点で若干の悪影響が認められるが,3か月貯蔵すれば,ほとんど差がなくなる。これによって実際的には非照射米と差のないものが提供できることがわかった。
 また,43年度よりウインナーソーセージおよび水産ねり製品の殺菌について研究が行なわれてきたが,ウィンナーソーセージに対する実用的な殺菌線量は500キロラド付近であり,照射後10°C以下に保てば,“ネト”の発生を1週間以上遅延でき,照射による品質の変化もほとんど認められなかった。水産ねり製品(蒸し板かまぼこ)に対する実用的な殺菌線量は300キロラド付近であり,照射後約15°Cに保存すれば,“ネト”の発生を2〜3週間遅延できた。また照射により,製品の色がより白くなり,弾性が増加するなど品質が向上した。また,食品照射時の包装用フイルムとして耐放射線性高分子フィルムの研究開発を実施し,有効なフィルムの開発に成功した。
 これらの詳細な点に関しては,現在,継続研究中である。基本計画において最初に研究に着手された馬鈴薯の照射研究については,すべての試験が当初目標を達成したので,現在その結果をとりまとめており,実用化への期待が大きくなっている。

2 核融合

 原子力委員会は,42年4月に改訂した長期計画において,プラズマ物理に関する基礎的な研究の充実をはかるとともに,制御された核融合を目的とする総合的な研究開発体制を順次計画的に推進すべきであるとの方針を明らかにした。
 その後,原子力委員会は,この方針にもとづきその具体的実施方法等を検討するため,42年5月,核融合専門部会を設置した。同専門部会は,第1段階の実験装置の型式,規模およびその研究開発計画,さらに,具体的な開発体制について審議し,43年5月その結果を原子力委員会に報告した。
 原子力委員会は,この報告をうけ,43年7月核融合の研究開発を原子力特定総合研究に指定するとともに,その研究開発基本計画を策定した。
 この基本計画の概要は,44年度から6年間を第1段階として,将来において核融合動力炉へと進展することが予想されるトーラス計画を主計画とし,とくに低ベータ値トーラス予備実験を43年度から先行させ,速かに世界の進歩に対応させるとともに,これに引き続き中間ベータ値トーラス装置を中心装置としての研究をすすめる。原研がこの実施に当り,理研が関連技術開発に協力する。また一方,高ベータ・プラズマの挙動を解明し,将来における高ベータ・プラズマ装置の研究開発に備えて,副計画として高ベータ計画を並進させることとし,これを電子技術総合研究所(電総研)が行なうとするものである。
 また,プラズマの基礎研究,人材養成,関連機器の試作研究等については,大学,民間企業に期待することとしており,さらに,この研究開発の推進と評価を行なうために,原子力局に学識経験者からなる「核融合研究運営会議」を設けるとともに,この研究を円滑に実施するため,各実施機関の関係者等からなる核融合連絡会議を設けることになっている。
 この基本計画にしたがって,原研,理研および電総研がそれぞれの分野について研究を行なった。
 すなわち,原研では,44年3月にトーラス型の予備実験装置として低ベータ軸対称性トーラス磁場装置(JFT-1)を完成した。この装置を用いての実験では,イオン密度1011cm3,イオン温度50万度のプラズマを約0.4ミリ秒間安定に保持することができ,また,プラズマのドリフト現象の観測等に成功した。さらに,真空壁からの電流のもれによる磁場誤差を修正し,理論とよく一致したプラズマ閉じ込めに成功した。
 また,このJFT-1の成果をふまえて,基本計画の第一段階の目標である中間ベータトーラス磁場装置(JFT-2)の磁場型式としてトカマク型を採用することとし,その設計を行ない,45年9月建設に着手し,47年度初め完成予定となっている。
 また,原研では,50年度以降の第2段階において核融合研究規模の急激な拡大が予想され,新たなトーラス実験装置の企画・建設が必要となることから,諸外国の研究の現状,成果を把握することが重要であるとの見地から国内外の主要な研究指導者を招待して,「国際的トーラス討論会」を46年2月1日から3日間開催し,トーラス閉じ込めの現状,今後の予想等について発表討論を行なった。
 理研においては,マイクロ波によるプラズマの生成,加熱技術等についての研究が,電総研においては,大型テーター・ピンチ装置による高べータプラズマの研究およびスクリュー・ピンチ装置建設のための予備実験がそれぞれ行なわれた。
 大学関係では,名古屋大学プラズマ研究所は,新たなる長期計画に基づいて基礎研究が,その他の大学においても基礎研究が行なわれた。
 民間企業では45年度原子力平和利用研究委託費により,ウシオ電機(株)が,核融合を目的とした大出力レーザーの開発に関し,高入力クリプトン・フラッシュ・ランプの開発およびピコ秒パルスレーザー光発振器の試作開発を行なった。


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