第8章 基礎研究および原子力特定総合研究
§1 基礎研究

 原子力に関連する基礎研究は,物理,化学,生物等の部門にわたって非常に広範囲な分野を含み,いずれもわが国の原子力開発利用にとって重要な意味を持っている。このため昭和45年度においても,日本原子力研究所(原研),放射線医学総合研究所(放医研)をはじめとして,関連する国立試験研究機関,大学等において,各種研究施設の整備がはかられ,積極的な研究が実施された。
 わが国の原子力研究のかなめである原研においては,動力炉開発に積極的に協力する一方,幅広い基礎研究分野においても中心的な役割をはたしている。昭和45年度においては,軽水炉の核設計データーの編集,JPDR-IIの動特性解析整備などの炉物理研究を進めるとともに,炭化物燃料の照射挙動,構造材の照射効果,乾式再処理等について実験研究が行なわれた。さらに,原子炉計測については,2結晶型ゲルマニウム検出器の開発を進め,燃焼率の測定に利用する検討を行い,原子炉遮蔽についても,鉄,黒鉛,各種コンクリートの中性子スペクトルの測定とそれによる計算コードの評価などが行なわれた。このほか,高温ガス炉に関連する基礎的研究として,被覆粒子燃料の照射下の挙動,高温におけるヘリウムの流動および伝熱,黒鉛の機械的,化学的性質等について試験研究を進めると同時に,ENEAのガス冷却型高速炉評価作業グループ会義に参加し,設計研究の評価作業を実施した。また,熱出力50メガワット,冷却材出口温度1,000°Cの多目的高温ガス炉の予備的な設計研究に着手した。
 理化学研究所においては,昨年度からひきつづき建設されていた放射性同位元素実験棟が完成し,放射線化学,放射線生物学等の研究の円滑化が促進された。また,磁極直径160cmのサイクロトロンによって,核物理研究,ホットアトム化学,放射線損傷等の研究および放射性同位元素の製造などに多くの成果をあげたほか,放射線障害に対する新防御薬剤の開発,自然放射能ならびにフォールアウトの評価,プラズマジェットの研究が続行された。
 東京大学においては最近における関係機関の高速中性子による炉物理研究の必要性を反映して,高速中性子源炉の建設に昭和43年度から着手していた。このわが国初の高速中性子源炉は昭和46年4月臨界に達し,中性子物理を中心として各種の研究が始められている。この炉は,熱出力2キロワット(最大),燃料としては93%濃縮ウランを使用し,強制空気冷却方式を採用した小型の高速中性子炉であり,最大中性子束は8×1011n/cm2secである。高速中性子源炉としては世界で5番目,わが国の研究炉としては12番目であり,大学の研究炉としては,39年に臨界に達した京大炉に続いて4基目のものである。この炉の特徴は,炉心部が水平に移動できることであり,さらに構造上の工夫により,熱中性子,中速中性子,高速中性子の三種類の中性子が得られる。これらの特色を生かし,高速炉用核設計データーの測定,高速炉系の動特性,放射線遮蔽に関する研究,高速中性子用検出器の研究,高速中性子損傷等についての試験研究の準備が進められており,今後の成果が期待される。
 名古屋大学プラズマ研究所においては核融合の基礎となるプラズマの研究について従来から精力的な実験研究を進めてきたが,45年度新たに,大出力ガラスレーザー発振装置を設置した。この装置は大阪大学の指導のもとに工業技術院大阪工業技術試験所および民間企業の協力により開発されたもので,わが国最大の60ギガワットの出力を持つものである。また,工技院電子技術総合研究所等においては高温ガスによる直流MHD発電の研究が進められているが,液体金属を使用する交流型MHD発電については,昭和45年度に大阪大学において小規模であるが,交流型としてはわが国初のMHD発電に成功した。これにより高速増殖炉のナトリウムと直結したMHD発電の実現の可能性の見通しも明らかにされた。
 放医研においては,遺伝学,生理学,医学,農学等の多岐にわたって研究活動が続けられているが,新たに放射線障害に対する予防剤が確認されるなど種々の成果が得られた。
 この他は,関連する国公立試験研究機関,大学において,それぞれ原子力の基礎研究が進められ,その成果は,原子力学会の年会,分科会ならびに原子力総会シンポジウムに集約された。


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