第7章 放射線利用
§4 工業利用

 放射線の工業利用は,化学,鉄鋼,電機,機械,紙,パルプおよび石油業等で広く行なわれており,化学プラントにおける液面計および密度計,紙パルプおよび鉄鋼等における厚み計等のゲージング利用,また,鉄鋼,機械,電機,造船等における非破壊検査装置等の工程管理,品質管理等の面で利用されているほか,放射化分析,トレーサー利用等その用途は多岐にわたり,利用件数も年とともに増加してきた。
 ゲージング利用については,すでに工程管理に対し広く使用されており,オートメーション化を容易にするための計測値の信頼性と伝達手段の改善等について,更に研究がすすめられている。また, ラジオアイソトープを利用した多種の石油を1本のパイプで輸送する方法の開発が原研と民間との協力で行なわれたが,この方法についてもオートメーション化を目的に研究が行なわれている。
 ラジオアイソトープのガンマ線による非破壊検査は,従来主として60Coの高いエネルギーを利用して厚物の検査をするために開発され,その後,機械工事,造船,車輛,鉄鋼等にその利用分野が次第に拡大してきた。
 170Tm,192Irについては,国産で容量の大きなものを作る技術が開発されたが,これらのラジオアイソトープは,60Coよりエネルギーが低いが,映像が鮮明であるため,薄物用のラジオグラフィー線源として利用され,カメラ,ベアリングなどの小型機械からジェットエンジン等におよぶ非破壊検査に広く利用されはじめた。
 さらに,170Tmは,192Irよりエネルギーの低い短寿命の線源として,広い分野の利用が期待されているが,特に,170Tmを用いる非破壊検査法として航空機の整備工程に組み入れられた。
 放射化分析については,物質の組成,不純物の定量等の分野で,従来の化学分析,機械分析に比べて極微量元素の定量が可能であり,しかも非破壊法で分析できるので,その利用分野は多岐にわたっている。
 放射分析の各種工業工程への導入は多くの場合14MeVの中性子発生装置と結びついて行なわれ速中性子非弾性散乱ガンマ線や熱中性子捕獲ガンマ線を利用しての鉱石,岩石,石灰等の分析法が実用化されつつある。
 トレーサー利用については,主として工程における原料物質の移動状況の調査に利用されているが,漂砂や流水の追跡研究も広く用いられており,とくに最近は大気や水の汚染の調査への応用としてアクチバブルトレーサー法の利用が増大している。
 また,原子炉からとり出される使用済燃料に含まれる有用なラジオアイソトープの利用のひとつとして,アイソトープ電池の開発がすすんでいる。わが国のアイソトープ電池は,43年に電気出力3ワットのものが民間で試作されたが,原研においてもアイソトープ電池の開発の一環として,電池に使用する熱源の製造技術,特にSrTiO3ペレットの製造技術を確立した。
 その他,国立試験研究機関においても,それぞれの特色を生かした試験研究が広くすすめられている。


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