第6章 原子力船
§1 原子力第1船の開発

 船舶の大型化,高速化の傾向は,近年における世界海運界のすう勢であり,この傾向にこたえる経済的高出力推進機関としての原子力推進機関の開発が期待されている。このため,世界の主要海運造船国においても原子力船の実用化に関する研究を進めており,すでに米国のサバンナ号,ソ連のレーニン号,ドイツのオット・ハーン号が就航している。

 わが国においても,昭和38年日本原子力船開発事業団法に基づきわが国における原子力船の開発を行なう実施機関として日本原子力船開発事業団(原船事業団)を設立し,以来原子力第1船の建造・運航により原子力船に関する技術の研究を図るためその開発を推進してきている。その具体的な開発業務は,原子力委員会が決定した「原子力第1船開発基本計画」に基づいて実施されている。
 原船事業団は,発足後原子力第1船開発基本計画に従がい,総トン数約6,000トン,主機出力約1万馬力,軽水冷却型原子炉を搭載し,実験航海終了後海洋観測船として利用できる原子力船を39年度着工,46年度実験航海終了を目途に第1船開発の準備を進めたが,建造費の上昇等のため計画どおりの着工は困難となった。

 このため,原子力委員会は原子力船懇談会を設置し,原子力第1船開発基本計画実施上の問題点について検討を重ねた結果,42年3月,原子力第1船開発基本計画を改訂し,船種を特殊貨物の輸送および乗組員の養成に利用できるものに変更するとともに42年度から建造に着手することとした。
 その際,原子力委員会は,同船の完成後に必要とされている慣熟運転,実験航海の期間を考慮し,原船事業団の事業の進展に応じて日本原子力船開発事業団法に所要の改正を行なう必要がある旨の決定を行なっている。
 その後原船事業団は,改訂基本計画に従がい42年11月,船体および原子炉についてそれぞれ建造契約を締結し,船体部については45年7月工事を完了した。
 現在,原子力船「むつ」は,青森県むつ市の定係港において炉ぎ装工事中であり,同工事の完了は,47年6月の予定である。
 炉ぎ装工事終了後に行なう燃料装荷,出力上昇試験,実験航海等については,45年6月,科学技術庁に「原子力船「むつ」の実験航海等に関する検討会」を設置して検討した結果,これらが終了するのは50年度となることが明確となり,それまでの間原船事業団を存続させることが原子力第1船の開発計画遂行のため必要となった。
 このため,46年5月1日,日本原子力船開発事業団法の一部を改正し,同法の存続期限を4年延長して50年度末までとする旨の法律改正が行なわれ,これに伴ない,原子力委員会は46年5月20日原子力第1船開発基本計画を改訂した。
 炉ぎ装工事完了後の原子力第1船の開発計画の概略については,これに引続き燃料装荷,出力上昇試験を行ない昭和47年度末までに海上公試運転を終了し,昭和48年度から2年間の実験航海に就航する。実験航海においては,乗組員に加え約20名の実験員により原子炉本体,原子炉プラントおよび機関関係,放射線防護,水ガス系,計装制御関係,船体等広い分野から同船の安全性および性能の確認を行ない,さらに種々条件の異る港湾への出入港の経験を重ね原子力船運航に関する技術の研究を行なう。実験航海終了後は,原子力船「むつ」の内部総点検,機器補修等所要の整備を行なうとともに,本船の建造,実験航海を通じて得られたデータについて総合的な解析評価を行なうことになっている。
 なお,原子力船「むつ」の主要目および原子力第1船開発スケジュ-ルは,次のとおりである。


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