第5章 濃縮ウラン
§2 濃縮ウランをめぐる世界の動向

1 濃縮ウランの需給

 原子力発電所の建設は世界的に本格化しており,このため濃縮ウランの需要量は急増している。ENEAおよびIAEAの共同報告書などによれば,1970年1月現在の見通しとして,自由世界全体の濃縮ウラン需要量は,1975年で年間1万9,000トンSWU(分離作業単位,以下同じ)1980年で,年間4万2,000トンSWU,1985年には年間およそ7〜8万トンSWU程度に達する見込みである。
 一方,このような需要増に対して,最大の問題は濃縮ウランの供給力である。現在ウラン濃縮工場をもつ国は,米国,ソ連,英国,フランス,中国の5カ国(いずれもガス拡散方式)で,このうち,商業ベースで濃縮ウランを供給できるのは,米国のみである。
 しかし,米国のウラン濃縮工場の分離作業能力は,現在,年間最大1万7,000トンSWU程度にすぎず,このままでは,1970年代の後半には,自由諸国の需要に応じきれなくなるとみられている。
 このような情勢のもとに米国に濃縮ウランの供給を依存している諸国はもとより,米国自身も濃縮ウランの確保に種々の対策を構じつつある。

2 米国の動向

 米国は,オークリッジ,パデュー力,ポーツマスの三濃縮工場を有しており,これによって自国および自由世界に対してウランの賃濃縮を行なっているが,現在のままでは,早晩需要に応じきれなくなるため,とりあえず現有施設の拡充改善により,1978年頃までに分離作業能力を年間最大26,000トンSWU程度に高める計画をもっている。しかし,この計画を達成したとしてもなおこの時点での世界全体の需要を満たすことはできず,1980年以前に新工場の建設が完了していなければならないとされている。なお,現在のところ新工場建設計画については具体的な動きはみとめられない。
 一方,1969年11月ニクソン大統領は,将来濃縮工場を民間に移管する方針である旨の声明を発表し,これに続いて現在濃縮工場を管理している米国原子力委員会(USAEC)は1971年2月から濃縮料金を28.7ドル/1kgSWUに改訂し,さらに9月からはこれを32ドルに値上げすることを決定した。
 このような米国の一連の動きは,濃縮を米国に依存している各国に大きな不安を与えており,こうした事情から欧州諸国では独自に濃縮工場を建設しようという動きが出ている。

3 遠心分離法による三国共同計画

 英国,西独およびオランダの3国は,遠心分離法による濃縮工場の共同開発計画について,1968年から話し合いを続けてきたが,1970年3月調印を行なった。計画によると,1971年までに英国のカーペンハーストおよびオランダのアルメロにそれぞれ年間25トンSWUのパイロット工場を完成させ,1975年までに両工場あわせて300〜350トンSWUまで拡張することとし,現在積極的に研究開発を進めている。

4 フランスの新工場建設計画

 フランスでは,ピエールラットに独自に開発したガス拡散法による軍事用濃縮工場が稼動しており,その能力は年間約400トンSWUといわれている。フランスはこの運転経験に基づき,現在ガス拡散法による多国間濃縮工場の建設を計画している。これによれば,まず,パイロットプラントを1971年に稼動させ,この運転成績をもとに,1973年までに年間5,000〜6,000トンSWUの分離作業能力をもつ濃縮工場の技術的経済的評価を行なうとしている。

5 その他

 欧州原子力産業会議(FORATOM)および欧州共同体(EC)でもそれぞれ独自に濃縮工場の建設を検討している。前者の計画では,欧州における濃縮ウランの需要見通しをもとに6,500〜9,000トンSWU/年の工場を1980年には完成させねばならないとし,後者も,1980年までには,5,000〜8,000トンSWU/年規模の工場を稼働させるべきであるとしているが,ガス拡散法によるか遠心分離法によるかは,EC内でも検討中である。


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