第3章 原子力発電
§2 原子炉の国産化

1 国産化の現状と将来の見通し

 わが国の原子力発電所建設技術は,欧米先進諸国に比し遅れて着手されたこともあり,著しく立ち遅れていた。現在わが国で建設中の原子力発電所は濃縮ウラン使用の軽水炉(BWR,PWR)が中心となっており,これらの建設は,米国から導入した技術をもととして行なわれている。わが国の原子力発電設備メーカーはいずれも海外のメーカーと技術提携している。すなわち,東芝と日立はBWRに関して米国のGE社と,三菱原子力工業(株)はPWRに関して米国のWH社とそれぞれ提携し,これをもとにして原子炉機器の国産化の努力が重ねられてきた。30万,50万,80万キロワット級の各々の一号炉は主に海外メーカーにより建設され,この技術を吸収し,二号炉以後は国内メーカーが建設して,国産化に努めてきた。現在建設中の東京電力(株)福島3号炉(BWR)は機器国産化率90%,関西電力高浜2号炉(PWR)は89%と80万キロワット級までのプラントの国産化体制は一応固まって来たと思われる。
 しかし,原子炉の安全上特に重要な機器で,その信頼性,実証性が強く要求される制御棒および駆動装置,循環ポンプ,主蒸気隔離弁等はまだ国産化の域に達していない。制御棒および駆動装置は,国内メーカーは実物を試作し各種実証試験を行なっており,中部電力浜岡発電所および東北電力女川発電所では国産品を使用する計画である。循環ポンプ,弁類はそれぞれの専門メーカーにより,技術導入あるいは自主開発が進められているが,一般に大容量であり製作経験がないので当分は輸入に頼らざるを得ないとみられている。
 また,研究開発試作に多額の費用を要する計装装置等は当面国産化することが不利益であるので,輸入に依らざるを得ない状況にある。発電用電子炉の国産化状況を第3-2表に示す。

2 在来型炉の研究開発

 原子炉の大型化,燃料の高出力化は今後の軽水炉の開発に要求されている課題である。高出力燃料の国産化を図ることを目的に,日本原子力研究所においては,JPDR-II計画を実施している。JPDRの改造工事は,ダンプコンデンサー建屋のほか,建屋工事を完成し,ダンプコンデンサー,給水ポンプ,復水ポンプ等各種の据付工事がほぼ予定通りの工程で進められている。JPDR-IIの燃料については,民間燃料メーカーにおいて製作が進められている。また,燃料の設計データや炉心の特性解析等の各種のJPDRーIIに関する資料の整備が実施された。
 さらに日本原子力研究所を中心に行なわれているハルデン炉における燃料の照射研究については,第3次照射燃料2体および民間9社との共同研究による5体,合計7体の燃料体がハルデンに送られ,一部の照射が開始され第3-2表わが国の発電用原た。また,すでに照射を終えた燃料については,照射後の評価が実施されており,その結果が得られつつある。
 プルトニウム燃料の熱中性子炉利用に関する研究については,動燃事業団が実施する米国サックストン炉照射用燃料の特性解析を原研において実施した。
 また,安全防護設備等軽水炉の安全研究については,原子炉配管系の構造設計基準,原子炉施設の建物,機器および配管系の地震時における振動特性,原子炉用活性炭フイルタの経時変化,格納容器の漏洩率の測定基準等の試験研究について委託研究を実施した。また,日本原子力研究所においては,原子炉の一次冷却材流出事故を模擬した実験,圧力容器の内圧繰返し試験等の研究が実施された。

3 必要な助成の強化

 原子炉の国産化のため,国による委託費の交付財政資金の融資ならびに税制上の優遇措置による助成がなされている。
 昭和45年度の原子力平和利用研究委託費のうちで,原子炉の国産化のために交付された金額は,総額約1億円であり,原子力施設の安全基準に関する試験研究に約5,000万円が交付された。これらの試験研究は,原子炉の国産化に資するものであった。
 財政資金の融資は,日本開発銀行が,電力会社および重電機メーカーに対して,原子力発電機器国産化のために低金利,長期資金を融資するもので45年度の融資額は約104億円であった。
 税制上の優遇措置としては,関税暫定措置法により,わが国において製作困難と認められる原子力の研究用に供される物品および原子力発電施設の関税が免除され,核燃料物質の加工機械,原子炉発電設備等がその対象となっている。
 その他,国内で行なわれた試験研究の成果に基づく国産技術の企業化を助成するために,この新技術の企業化用機械設備等に対して特別償却を認める道が開かれている。


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