第14章 原子力関係技術者の養成およびその他の活動
§5 原子力損害の賠償

 わが国の原子力損害賠償制度は,「原子力損害の賠償に関する法律」および「原子力損害賠償補償契約に関する法律」の2つの法律が昭和36年に制定されて以来すでに10年近くを経過した。この間における内外の事情の変化に適切に対処するため,昭和44年10月23日,原子力委員会に「原子力損害賠償制度検討専門部会」が設置され,「現行原子力損害賠償制度につき,改善を要する諸点および改善方針」について検討が進められていたが,昭和45年11月31日,原子力委員会に対し答申がなされた。これを受けて昭和46年2月4日,原子力委員会は,「原子力損害賠償制度の改正について」の決定を行ない,一方,政府は,原子力損害の賠償に関する法律及び原子力損害賠償補償契約に関する法律の一部を改正する法律案を昭和46年2月5日閣議決定のうえ第65回国会に提出した。
 同法案の主要な改正点のうち,賠償法の一部改正についての内容はおおむね次のとおりである。
(1)国の補償契約制度と国の援助に関する規定の適用が昭和46年12月末までに運転を開始した原子炉等に限定されているので,この規定をさらに10年延長し,昭和56年12月末までに運転を開始する原子炉等に適用すること。
(2)原子力船に係る制度を整備し,わが国の原子力船が外国の水域に立ち入る場合には,両国政府間の合意に基づき原子力事業者の損害賠償責任を一定の額までとし,国内で要求される損害賠償措置に加えてその額までの損害賠償措置を講じさせることとするとともに,外国原子力船が本邦の水域に立ち入る場合にも,わが国の原子力船が外国の水域に立ち入る場合と同様,両国政府間の合意に基づき,原子力事業者の損害賠償責任を一定の額(360億円を下らない額)までとし,その額までの損害賠償措置を講じさせること。
(3)賠償措置額については,現行の50億円を60億円に引き上げること。
(4)求償権の制限および核燃料物質等運搬中の責任については,特約がある場合を除き,原子力事業者の求償権の行使を第三者に故意がある場合に限るとともに,核燃料物質等の運搬中の責任は受取人でなく発送人にあることとする等,関連規定を整備すること。さらに,補償契約法の一部改正については,賠償法の改正に対応して,わが国の原子力船の外国の水域への立入りに伴い,生じた原子力損害であって民間の責任保険等でうめられないものをカバーするため,両国政府間の合意で定められる損害賠償責任額まで政府と原子力事業者の間で補償契約を締結できることとすることである。
 同改正法案は,昭和46年3月19日,衆議院本会議で,同年4月23日,参議院本会議でそれぞれ採決され,同年5月1日公布された。(施行日は,公布の日から6月以内に政令で定められることになっている。)
 なお,賠償法では,原子炉の運転等を行なう場合,原子力事業者は,原子力損害を賠償するための措置(政府との原子力損害賠償補償契約および保険会社との原子力損害賠償責任保険契約の締結,または供託)を講じ,科学技術庁長官の承認を受けなければならないことになっているが,その年度別承認件数は(第14-4表)のとおりである。


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