§7 新たな分野の研究開発

 わが国における原子力利用は原子力発電,放射線利用等の分野において,漸次成果を収めつつある。一方,国民生活の向上,産業構造の改善に原子力をより直接的,多面的に寄与せしめるため,原子炉の多目的利用の調査検討,中性子線の医学利用の研究および人類の夢である核融合についての研究が行なわれている。
 原子炉から得られる熱を発電のほか,海水脱塩,製鉄,化学工業用プロセスヒート,地域暖房等に利用するいわゆる原子炉の多目的利用は,エネルギー供給の合理化,多様化に寄与するほか,大気汚染の防止などに,大きな効果が期待され,近年急速に関心が高まってきている。原子炉の多目的利用を実現するためには,解決すべき多くの問題があるが,まず技術的中心課題である製鉄に直接利用可能な冷却材出口温度が得られる高温ガス炉の実現性について見通しを得ることが必要である。この観点から原子力委員会は製鉄用高温ガス炉の技術的問題点とその解決の見通し等について検討するため45年8月高温ガス炉懇談会を設置した。
 同懇談会(は,46年5月報告書をまとめたが,この報告において,製鉄に直接利用可能な冷却材出口温度1000°Cの高温ガス実験炉は実現の見通しがあり,さらに原子力製鉄の実用化の見通しを得るには技術的信頼性を実験炉規模で確認するとともに,還元ガス製造および還元炉等を含む原子力製鉄プロセスの試験研究を進める必要があるとしている。今後,原子力委員会は同報告を受けて製鉄への利用を中心とする多目的用高温ガス炉の研究開発の進め方について検討することとしている。
 また,がん細胞が正常の組織細胞よりも放射線に対する感受性が高い性質を利用して,ガンマ線,エックス線および電子線によるがん治療が従来から行なわれている。しかし,低酸素細胞を有するがん細胞に対しては上記の放射線は効果が少なく照射後も残存して再発の原因となっていた。一方,がん細胞に直接,速中性子線を照射すれば,低酸素細胞に対しても著しい効果を挙げることが最近明らかとなり,放医研では,45年度より4カ年計画でサイクロトロンの建設に着手し,これと並行して速中性子線による悪性腫瘍の治療に関する諸問題を解明するため,45年度から5ケ年計画で速中性子線の医学利用に関する研究を開始した。
 核融合の研究については,基礎研究の段階から一歩進めて制御された核融合の実現を明確な目的とする研究開発を43年度に原子力特定総合研究に指定し,原研を中心に理化学研究所,電子技術総合研究所等でその研究を推進してきた。原研では,低ベータ軸対称トーラス磁場装置(JFT-1)の成果をふまえ,JFT-1に比し,核融合反応実現領域に一歩近づいたプラズマ発生装置であるトカマク型の中間ベータトーラス磁場装置(JFT-2)の建設を45年9月に着手し,47年春完成をめざして建設中である。なお,45年度においては,原研を中心として内外の主要な研究指導者を招いて討論会を開催するなど,各方面で活発な動きがみられた。


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